第7話

「その海域ってどこら辺なの?」

「エラトの第一コロニーからが一番近い海域って言われてるな。近いって言っても、未調査海域だからそれなりに距離はあるらしいけどよ」


「エラト第一……って、技師とか学者の多い街だね」

 確か、ノールが外部で所属してる技師の組合の支部だったかもそこになかったか。そう尋ねると、ノールは頷く。


「ムーサ以外の技師組合の支部だとか、大型の研究施設もあるし、装備の特殊パーツ取り扱ってる部品屋も多い街だな。……ていうか、あの辺り採掘師の方が少ないんじゃなかったっけ?」


「そう。エラト地区の周りは空想物質ソムニウムの鉱脈が元から少ないから採掘師も少ないんだよな。だから長距離移動が可能な採掘作業用の船なんてのも少ない。……って理由で、エラトに一番近いこのカリオペ地区から潜水艇が何隻か貸し出されてるんだ」


「……なるほど」

「その穴埋めでな、残ってる俺たちは暇無しってわけさ。だから食事会を開いてくれるっつーなら別の機会にしてくれるとありがたい。それまで楽しみにしてるからよ」

「わかった。ありがとう、クリフ」

 残念だけど仕事が立て込んでいるなら仕方ない。次の機会にまた。とおれが返せば、クリフは笑って言う。


「ああでも、お前らがその絶好調なノリでもってその幽霊鉱脈を攻略するってんなら協力するから声かけてくれよ。調査の結果によっちゃあ報酬はかなり良いって言うからな、考えてみても良いんじゃねえか?」


「そうは言っても、おれたちでもその仕事って受けられるもんなの?」

「あー、そっか。調査する側からの依頼が来なきゃ無理な話か。それにノールは乗り気じゃねえみてえだし?」

「そんな物騒なとこ行きたくねえだろ」

「なんだ、怖いのか」

「怖くねえよ、面倒臭いだけ! それに、偉いやつが関わる話は関わっても良いことねーだろ!」

「まーぁ。一丁前にムーサの技師っぽいこと言いやがる」

「俺はムーサの技師だよ! いつまで見習い扱いする気だお前!」

「はいはい」


 ノールを揶揄い軽く手を振りながら、じゃあまたと去って行くクリフの背中を苦笑で見送って、おれは小さく呟く。

「幽霊鉱脈、……かあ」


「何だ、ヴァル。……お前、その話興味あるのか?」

 ノールはおれのジャケットの裾を軽く掴むと、不安げに見上げてきた。


「え。うーん。難しそうな話だし大変だなって思うのがほとんどだけど、全く興味がないかっていうと、そうでもないかな。ムーサの難攻不落な鉱脈っていうならなおさらね。おれにも少しは功名心ってやつはあるしさ……」


 そう言えば、ノールは押し黙る。


「まさかノール、……ホントに怖いの?」

「怖いんじゃなくって! さっきも言ったけど偉いやつが関わる話は厄介なことになる場合が多いし。採掘師潰し、なんて言われてるとこに、お前を行かせたくないんだよ。前に言ったろ、お前に何かあったら俺は……」

「……ノール」


 肩をきつく抱き寄せると、抵抗も無くノールはおれの背中に手を回してきた。


「よほどの相手が話振ってこないかぎり、俺は行かないからな」

「でも、おれひとりじゃ無理でも、今の貴方が一緒にいるならいけそうな気がするけどなぁ」

「ヴァル。……お前」

 不満と不安を混ぜ込むノールの顔を覗き込んで、ウインクをひとつ。


 これは冗談ではなく、本気の話で。今日の手応えはそう言いたくなるでしょ。おれが言うと、ノールは一瞬呆気にとられて、それから笑っておれの背中を軽く叩いた。


「そう、だな。……たぶん、今の俺たちならいけちゃうかもな」

「そうそう。貴方の作る装備があればおれは潰れたりしないよ、絶対に」

「それは買い被りすぎ」

「ホントだって」


 おれたちは笑い合って、その場を離れた。

 仕事もふたりの関係も絶好調のおれたちはこのとき、周りが見えないくらいかなり調子に乗って浮かれていたことは間違い無い。

 柱の鏡越し、呆れるでも無く奇異でもなく、別の視線を向けていた人がいたことに全く気づけていなかったんだから。

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