第5話

「あ」

「クリフ、貴方も戻ってたんだね」

「おう、さっきぶりだな」

 引き戻したのは、おれたちが採掘作業へ出る時によくお世話になっている潜水艇の操縦士、クリフだった。


 クリフは組合に属した職員でもあるからチームの一員というわけじゃない。だけど付き合いはおれたちがチームを組んだ頃からある気の知れた仲で、ノール個人だけで言えばいくつも歳の違わない、技師として独立する前からの知り合いの兄貴みたいな存在だ。

 今回の仕事も、彼に手伝って貰っていた。

 船を下りて街に降りたのはおれたちが先だったはずだけど、仕事の手続きを終わらせている間に追いついたらしい。彼もまた仕事終わりの手続きを済ませた後だという。


「しかし、船ん中の会話も大概だったが……、お前ら昔よりも節操無くなってないか。恥じらいをどこの星に置いて来た。ムーサの海に捨てたってんなら、俺が船出してやるから拾い直して来い?」

「おっと……すごい言われ様だよ、ノール」

「……っ!」

 言われてようやく気付いたか、ノールが慌てておれから飛び退いた。


 恥じらいを捨てたつもりはないけれど、この場であれは確かにやりすぎていたかもしれない。そう思って、おれもそっとノールから距離を取る。

 その隙間で立て直したノールがクリフへ反撃に出た。

「でもな! そうやってお前いつも人のこととやかく言うけど、今回はお前だってこっち側に引きずり込んでやるからな! ホラこれ見ろ! 今回の結果だ。お前にもそっちのクルーたちにも、いつも以上の報酬が出るはずだぞ。コレ見てもまだ何か言うか?」

「!」

 ノールがそう言いながら今回の採掘結果と、空想物質ソムニウムの買い取り金額が書かれたデータをクリフの前に突きつける。それを見るなり、そういうことなら、とクリフは笑っておれとノールの肩を両腕で叩きながら返してきた。

「それじゃあしかたねえなぁ……、俺が悪かったわ。――でも、場所は、選べ」

「はい……」


 そんなやりとりのあとひとしきり三人で笑い合ったその流れで、おれはクリフに尋ねた。

「そうだクリフ。おれたち今日の作業で今期のムーサの仕事が終わりだし、これならおれたちの収入もだいぶ余裕があるからさ、潜水艇のクルーたち含めて労いの食事でもどうかな。流石に今日の今日ってわけにもいかないけど、おれはまだしばらくムーサに居るし、その間に都合が付けば。……ね、どうだろ。ノール」

「もちろんいいよ。俺もこの後しばらくムーサを離れる予定はないし」


 今回は大成功とはっきり言える形で仕事を終えられた。その感謝も込めてと、おれが言えば、クリフは一瞬喜んだ顔をして、それをたちまち困った表情に変えていく。

「うーん……それは本当に嬉しい申し出なんだけどよ」


「何か、予定でも?」

 おれとノールは同時に同じ問いを向けた。クリフは苦笑して頭を掻くと、ひとつ大きなため息を零す。


「今な、この海域の潜水艇の数が足りてなくて、組合側の予定がみっちり詰まってんだわ」

「足りない、って潜水艇のメンテナンスが重なってるとか?」

「それもある。が、他の海域に貸し出しされてるのが何隻かあってな。こっちがカツカツなんだ」

「貸し出しかぁ……。そんなこともあるんだね」

「稀にな。しかも貸し出しされてるってのが、あの幽霊鉱脈の辺りだっていうからよ、物好きな操縦士が行きたがってさ、余計にだ」


 眉間に寄る皺は話の困難さを現しているのはわかる。でもおれたちには聞き覚えの無い単語が現れて、おれはノールと顔を見合わせて首を傾げた。


「幽霊鉱脈、……って?」

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