第4話
海底から戻って寄るのはまず、採掘師やその専属技師たちの仕事を束ねて調整、補助してくれる組合の施設だ。
おれたちはムーサ以外でも仕事をしているから、個人的に登録してある組合は他にもあるんだけど、惑星ムーサにいるときは昔からこの組合に世話になっている。
おれは一足先に仕事が無事終了したという報告が済んで、他の採掘師や技師、組合の職員たちが行き交う施設のホールで解析結果を聞きに行ったノールが戻るのを待っていた。
鏡張りの柱に映る自分の姿を見て、クセが強まる髪をひと撫で。それからジャケットの襟を整える。
ムーサの街はどこも海の底にあるドームの中で、肌寒いくらいの気温になっているからか着込む服は防寒用の服か生地が厚めでゆったりしたものが好まれていた。
おれがムーサでよく着ているのは、他の星で買った古いデザインのフードが付いた革製ジャケット。装備を脱いでコレに着替えると、無事に仕事を終えられたって気持ちになれるからお気に入りの一枚だったりする。
向き合うのは赤みの強い紫の目。
その色が好きだと言う恋人は、今回の仕事を納得してくれただろうか。
これをノールに尋ねるのは、何年経っても毎回緊張するんだよな。
昔は調子が悪いとすごく怒られたし、それがきっかけになって辛くて長い別れを経験することにもなった。復縁をしてからはそこまで怒られる事は減ってきているけれど、代わりにノールがへこむこともしばしばで、上手く行かないときにはお互い少しどんよりした気持ちになってしまう。
だけど今回は調子良く進められたっていう手応えがあるから大丈夫だろう。最後に潜って採掘した結晶なんか特に良質なやつだったはずだし。
「……よし」
気合いを込めて深呼吸を一回。
そうしておれが顔を上げたとき。
「ヴァル!」
奥の通路からノールがおれを呼ぶ声がした。
しかもすごく興奮した感じで駆け寄ってくる。
「ノール、どうしたの。そんなに急いで」
「すごいぞ、最後に採掘してきたやつ、再確認したら簡易解析したときよりももっと高い純度だった!」
「えっ、それホント?」
「ホントだよ。今回一番どころか、ここ数年で一番の成果だぜ、あれは!」
息を切らして駆け寄って来たご機嫌な恋人は嬉しそうにそう言うと、そのままおれに抱きついて背中を叩く。
「ここ数年……、って、やったね、ノール! 大成功じゃないか!」
「ああ!」
紅潮した頬は、特別童顔ってわけでもないのにおれより三つも年上だっていうのを忘れそうになるくらい無邪気さを強めていて、嬉しそうに輝く蒼い虹彩に散る金色が喜びの色を強調させておれの目に映る。
ノールは、年に一度あるかないかの興奮状態だった。
作業が終わっているとは言っても、作業着を身に纏っている間は大体仕事モードに切り替わっていて挨拶程度の触れあいすらも拒むことがあるくらいだっていうのに、着替えもしていないノールの方から抱きついてきてくれるのはかなり珍しい。
同調率が高いまま始まった作業で、それが終わればこんな状況。尋ねるまでも無い、今回の採掘は最初から最後までノールが理想とする流れで作業ができたってことだろう。
満足いく結果になっているならおれも素直に嬉しいことだ。
「上手く行ってホントに良かった」
色素が薄くて柔らかい髪に顔を埋めながら、おれは抱きついてくるノールの背中を強めに抱き返してそう告げる。
「うん。お前のお陰だよ。お前が俺の作る装備、使いこなしてくれるから。……いつも、ありがとな、ヴァル」
「貴方の作る装備があって、絶妙な微調整をしてくれてるからこその結果だよ。お礼を言わなきゃいけないのはおれの方」
見つめ合い、おれが笑って言い返すと、ノールはまた少し頬を赤らめて照れくさそうに微笑んだ。その微笑みに、おれはジャケットを羽織るときとはまた違う仕事終わりの安心感を得る。
こんなに穏やかなのに浮ついていて、くすぐったさのある時間は久しぶりだ。
まるでチームを組んだばかりで、まだおれたちが恋人同士にすらなっていなかった頃の、それでも距離だけは近づいていたあの初々しい感じに似ているかもしれない。
そんな余韻に浸っていたおれたちを、咳払いがひとつ、現実に引き戻す。
「ノール、ヴァルター。お前らそういうのは場所を選べっていつも言ってんだろ……」
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