先のない旅をキミと共に
車窓の外に流れていくのは、どことも知れない里山の景色。俺はレンタカーの助手席で缶コーヒーを飲みながら、外を眺める。運転席のリュウヤは俺にちらりと視線を向けて、問いかけた。
「なあアキ、あとどんくらいで着く予定?」
俺は、地図アプリを開いたスマホに目をやる。
「あと五時間くらいだってさ。……あ、次の信号右な」
「んー、了解。あと五時間かあ……。まぁ下道だしそんなもん? にしてもやっぱ遠いよなー」
リュウヤは前を向いたままで答える。俺はそうだな、と返事をしながらゆっくりと瞼を閉じた。
俺とリュウヤがひとまずの目的地として向かっているのは、県をいくつか跨いだ先にある海水浴場。とはいうものの今の季節は冬、べつに泳ぎに行こうってわけじゃない。
ただどこか、誰も自分たちのことを知らないような遠いところに行きたくて。「逃避行」といえば海なんじゃないかっていう、そんな安直な発想だった。
本当はこんなことしてる場合じゃない、なんてことは多分二人とも分かってた。目下の問題は借金だったり仕事のことだったりと山ほどあって、俺たちはそんな現実のあれこれから無理やり目を逸らしている。
そっと目を開けて、リュウヤが運転している姿を見る。
本当はレンタカーを借りたとき俺が運転しようしていたのだが、リュウヤに止められた。さすがに免許を取ってから片手で数えられるくらいしか運転したことがなかったのはマズかったらしい。
俺は、あんなに必死に俺を止めようとするリュウヤを初めて見た。
「オレが運転するから、アキは助手席で大人しくしててよ」
というリュウヤの指示に従った結果、俺はナビ役を担当している。意外なことに、アイツのハンドル捌きはなかなか様になっていた。
「……つかお前手慣れてんのな。普段から乗ってんの?」
俺が疑問を口にするとリュウヤは、あー、と声を出す。
「まあ、そこそこ? 仕事でも乗ってたし」
仕事でも、と小さく復唱して俺は気付く。今更かもしれないが、俺はコイツが今なんの仕事をしてるのか、なんて簡単なことすら知らなかった。
「仕事って言うけどさ、そういえばお前最近って何の仕事してたの? 高校卒業してすぐはどっかの営業だったっけ?」
リュウヤは高校卒業後の進路に就職を選び、働き始めた。俺はそんなアイツに対して自分は親の金で大学に通う、ということに多少の引け目を感じたものだ。
ただ、アイツはその数ヵ月後に、会社辞めて違う仕事することになった、なんて報告をしてきていたはずだ。
「んー、いちばん直近だとなんだろね。引越し屋かな? その前は、トラックのドライバーでしょ。あとはコールセンターとか……」
リュウヤは指折り数えながら、今までの職歴を話す。その数が想像より遙かに多くて、俺は呆気に取られてしまった。
俺の驚きに気付いたのか、アイツはにへりと笑みを浮かべる。
「まあそういう訳で転々としていたわけですよ」
俺はそんなアイツの言葉に曖昧な返事を返す。だって、気付いてしまったのだ。
俺がコイツのことをろくに知らない、ってことを。
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地獄の沙汰とはいいますが、 如月トオカ @kisaragi_10
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