俺らの逃避行

 要領を得ないリュウヤの話を無理やりにまとめると、どうやらリュウヤは同僚の連帯保証人となり、その同僚が姿を消してしまった結果、借金を肩代わりしなければならなくなったらしい。その額なんと五百万。

 そして頬の傷は、借金取りに連れ込まれた事務所から逃げようとした際に弾みで殴られてしまったせいなんだとか。よりによって借入先が悪徳業者だなんて、コイツはどれだけツイてないんだ。


「お前、馬っ鹿じゃねぇの……」


 俺は顔を両手で覆って低く唸る。俺の言葉に、リュウヤはむっとしたような声を漏らした。


「……仕方ねーじゃん。まさかバックれるなんて思わなかったんだからさ」


 リュウヤの返事に俺は小さく息をつく。

 そうだ、津田琉弥というのはこういう男なのだ。考えなしに安請け合いをするだけでなく、人を疑うことを知らないのだから救えない。

 暖房をつけたおかげで部屋は先程よりも暖まっているはずなのに、やけに手足が冷たく感じた。


「……んで? 結局なんで俺のとこ来たんだよ」


 ちらりと視線を向けながら、俺はリュウヤに問いかける。すると、リュウヤは目を瞬かせた後で、首を捻った。


「なんでだろ……?」

「はぁ?」


 またも俺の口からは間抜けな声。リュウヤは腕を組みながら小さく、なんでかな、と繰り返す。


「……なんていうか、アイツらに住所知られてるから家には帰れなくて。そんで……どうしようって思ったときに浮かんだのがアキだったんだよな」

「……なんだよそれ。お前他にも友達いんだろ」


 俺はおもわず頬杖をついてそっぽを向く。

 

 俺の言葉のとおり、学生当時のリュウヤはいつも誰かしらがそばにいた。俺からしてみればリュウヤは数少ない友人だったが、リュウヤからすれば俺はその他大勢の友人の中の一人なんだろう、と感じていたものだ。

 だから、困ったときにいちばん初めに頼られたのが自分なんだと思うと、なんとなく迷惑なようにもくすぐったいようにも感じてしまう。


 リュウヤはおもむろに立ち上がると、眉を下げて笑う。


「ごめん、アキだって急にこんなこと言われても困るよな。……オレもう行くわ。これ、今度洗ってから返すから」


 瞬間、しまったと後悔する。リュウヤの表情にはどこか諦観じみたものが浮かんでいて、今の一言で、俺とリュウヤの間に見えない線が引かれたのを肌で感じてしまったのだ。

 今度返す、とは言っているものの今この期を逃したらリュウヤとは二度と会えないような、そんな嫌な予感がして俺は咄嗟に手を伸ばす。そして、リュウヤの服の裾を勢い任せにぎゅっと掴んだ。


「ちょっと待てよ。……行くっつったってどこ行くつもりだよ」

「それはわかんないけど。まあどっか遠くとか? ……アキには迷惑かけないからさ。安心してよ」


 安心なんか出来るわけない。コイツは昔から他人のことは嫌になるぐらい気にかける癖に、自分のことになると無頓着すぎるんだ。


 俺は顔を上げ、リュウヤの目を見た。ひきつりそうになる口角を押しあげて、無理やりに笑みを浮かべる。

 

「……遠くって言うならさ、俺と一緒に何処か行こうぜ」

「……へ?」


 裾を掴む手にぐっと力を込める。俺の視線の先には戸惑ったように瞳を揺らすリュウヤの姿があった。

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