どん底の二人

「これ、貸してくれてサンキュ」


 突然家に上がり込んできた友人、リュウヤはタオルで頭を拭きながら、へらっと笑う。これ、というのはアイツが着ている俺の部屋着のことで、風呂に入って小綺麗になったリュウヤは部屋の真ん中に腰を下ろすと、ベッドに腰かける俺を見上げた。


「なんかさ、昔もこういうことあったよな。オレ、よくアキからジャージ借りてたもん」

「あー……、確かに?」


 俺はもう遠くなってしまった学生時代の記憶を辿る。俺とリュウヤは高校一、二年生のときに同じクラスで、三年のときは違うクラスだった。

 たしかよく話すようになったのは、一年生の終わりごろだったか。そういえば何がきっかけで仲良くなり始めたんだろう、と思考を巡らす。ただ、浮かんでくるのはそれ以降のくだらない馬鹿騒ぎばかりで、ろくな記憶が見つからない。

 

 記憶を辿れば、三年の頃のリュウヤはかなりクラスも離れていたというのにも関わらず、体育の授業の度に俺にジャージを借りに来ていた、と思い出す。コイツに、他のクラスにも友達居んのになんでわざわざ俺のところまで来るんだよ、と文句を言っていたのが懐かしい。


「あー、 確かにそうだったわ。毎回毎回俺んとこばっか来やがって。そのせいで俺のジャージ一着お前専用みたいになってたんだぞ」

「え、マジで?  今更だけどごめん」


 リュウヤは初耳だ、という風に目を丸くすると眉を八の字に下げて謝った。別に気にしてねぇよ、と俺が笑うと、アイツはだよな、と顔をくしゃくしゃにして笑った。

 リュウヤの笑い方は昔と何一つ変わっていなくて、だからこそ頬に残る痣がどうしようもなく痛々しい。


 俺はトン、と自分の右頬を指さすと、話を切り出した。


「リュウヤ。……それ、どうしたんだよ」


 俺が問いかければ、リュウヤはイタズラとか悪だくみとかがバレたときの子どもみたいな顔をした。そして左頬に浮かぶ痣をそっと手で押さえる。


「あはは……。やっぱ……、気になる?」

「当たり前だろ。急に家来たかと思ったらそんな怪我してるとか訳分かんねぇし。……喧嘩でもしたのかよ」


 いやそういう訳じゃないんだけど、とリュウヤは視線をさまよわす。しばらく考え込んだ後で、リュウヤはぽつりと呟いた。


「なんかオレ、連帯保証人? になってたらしくてさ」

「…………は?」


 おもわず間抜けな声を漏らして、リュウヤへと向き直る。リュウヤは俺を誤魔化すように、へらりと笑った。

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