第7話 <すれちがいの殺意(8話と合わせて前編・後編)>

————ここは経営チームの会議室


俺、五十嵐優真はそこで正座をさせられている。


東條「ここに呼び出された理由はわかるな?五十嵐」



「……………はい」


怖ぇ。


一介のヘルプに過ぎない俺が、経営陣が連ねる場所で正座。 ゲンも今回ばかりは味方になってくれなさそうだ


夕立「二年だ。わかるか?お前がここに初めて勤めはじめてきてから二年、言い続けてきた。


さすがに18歳にもなればもうわかってくれると思っていたんだが‥、改めて言う。まず店でサングラスはやめろ」



日野「その髪も何とかしてもらわないとね」


柚原「ピアスも言語道断です」 「……………はい」


ヘルプなんだからいーじゃん、とは思うんだが、なにせ仕事だから上の命令には従わないといけない。


東條「夕立から聞いているとは思うが、ここは元本職の執事、メイドたちが中心となっている本格執事喫茶だ。それでも多少なら目をつぶるが五十嵐のは、目にあまりすぎている」



「………はい。気を付けます」



柚原「じゃあ、善は急げってことでいいですね?」


「はい??」


柚原「ここはシャワー室もあるんで。午後のシフトに間に合うようにちゃちゃっと色染め直してください」


「はい?!」


日野「はい。染料剤」


東條「時間が無いぞ。早くしろ」


「ちょ、ゲ、ゲン!!」


夕立「ここでは店長と呼べ」


「………うぅ」


ダメだ。味方がいない。 まぁ、仕事の時だけワンデイタイプのでそめなおすくれーならいいか。

はぁ、髪傷んでハゲになったら恨むからなゲン。


しかしここは通常手当の他に歩合もあってコンビニバイトだけじゃ払いきれない贈与税の支払いに都合がいい。なくては困る。



しょーがねーなー



しぶしぶとシャワー室に入り、髪を染め直す

おっと、ピアスも外してっと。

あ、これ預かっといてもらわなきゃなんねーな



夕立「おい、まだ時間かかりそうか?」



あ、ゲンの声だ。



そこで俺はつい、いつものノリで 、



ガチャ



「おう、ゲン、わりぃけどピアス預かっといてくれや。あと、髪こんな感じでいい?」



<<<す っ ぽ ん ぽ ん の ま ま シ ャワ ー室 の 扉 を 開 け て し ま っ た>>>




ゲンの後ろには扉が開けっ放し、そこにはみんないた




————終わった。



さよなら、俺の社会的人生。


このあと日野さんあたりにキャーーとか言われて逆セクハラでクビに



「………あれ?」



思っていたのとは全然違う反応だった




————柚原視点



思わず先輩方につられてしまった背筋をピシッとしてしまったけど。


なぜ店長は真っ青になって固まってるんだ?


なぜ先輩方は裸の五十嵐見た途端執事メイドの起立体制をとっているんだ?



優真「??????な、なにしてるんすか?東條さんがたは?」


柚原「あ、いや、わからないですけど、って!!!店長も固まってる場合じゃないでしょう!!優真!下!下は隠せ!!!ドアを閉めろ!バカタレ!!」


優真「う、うわ!すみません!!失礼致しました!」


シャワー室を閉めた途端、呪縛から解き放たれたかのように先輩方は使用人体制を解いた


しばらく沈黙が続く



夕立「こんなに………似ていた………のか」


青ざめた店長が何か呟いている


東條「何か知っているのか夕立」


日野「ねぇ、今の顔、どういうこと」


夕立「………………」


柚原「あ、あの?いま優真の髪色とかどうするかって話ですよね?」


東條「すまない、柚原。ここは席を外してくれ。創設時の初期メンバーだけで話し合いたい」


柚原「は、はい」


東條「五十嵐、悪いがいいと言うまで出てこないでくれ」


優真「は、はい???」



な、なんだかわからないけどとんでもないことになってる???


でも、多分聞いちゃいけないことだ 落ち着いて、店に戻ろう




————東條視点


東條「どういう事だ。夕立」


夕立「あいつは。五十嵐優真は母子家庭で過ごしていました。もし、父方の姓を継いでいたなら、」 「【紫暮 優真】と名乗っていたでしょう」



心臓が締め付けられる気がした



日野「うそ……でしょ」


東條「納得は行く。でなければあんなに壱馬坊っちゃまそっくりであるはずがない」


日野「最初に会った時から金髪だったから全然気付かなかった」


東條「夕立、お前、いつからどこでそれを知ったんだ?」


夕立「本家全焼事件の日です。あの日のあの夜………、俺が……、郡三様を………、この、手で………、(絞り出すように紡がれる言葉)」


東條「そのときか……。わかった。もういい。みなまでいうな……。しかしまずい………」


日野「なにが、ですか」


東條「あいつが、紫暮の後継者として正当な財産を主張してきたら」


日野「…………!!」


東條「優真は……、夕立の罪については知ってるのか。」


夕立「誰を。までは知らないと思います。


でも……。



< 俺 が 人 を ふ た り も 殺 し た >



は、おそらく察してるかと。


以前から、


「俺はゲンの秘密、知ってるもんねーw」とか言っていたり、



名目上は『優真の心臓移植チャンスがあった時の費用』としてだけど、



多額の金銭を毎月要求されているのも、それの口止め料かもしれません。」



東條「………!!ゆすられてるのか!?夕立!」


日野「うそ……。あの優真君にそんな裏の顔があったなんて……」


東條「所詮、紫暮の血は紫暮の血、ってことか……。」


日野「思い込み、ってことはないの?ほら、夕立君、たまに人が話してるの届いていない様子で考え込んだ後自分なりの結論出しちゃう癖が。」


東條「日野!」


日野「!!ごめん……。被害にあってるのは夕立君なのにね。信じたくないあまり、無神経が過ぎた……」


ゲン「とにかく、もうすぐあいつの午後のシフトも始まりますし、俺たちもずっと店空けているわけにはいきません。ヘルプだからということで、サングラス以外は特例で許すことにしませんか。公私混同も甚だしいですが……」


東條「やむを得ない、正直、こちらがあの顔を見てまともに仕事をできる気がしない」


日野「同意見です。まだ震えが止まりません」



みんな、あの親子には辛い目に遭わされてきた


従者が言うことでは無いのは100も承知だがまともな主ではなかった


そうか、あいつもその血を受け継いでいるのか —————。



優真「あの、俺どうしたら。まだっすか?」


「「 「———!!!」」」


東條「いい、俺が出る。五十嵐、とりあえず特例として金髪とピアスは許可する。ーーーーコロコロ変わって申し訳ないが、その色を、落としてくれ」


「?????は、はい、よくわかんねっすけど、ら、ラッキー?」


———ラッキーか。 俺はもうこれ以上、夕立に罪を重ねさせたくない。 ならば、いっそこの俺が。 目の奥に殺意がやどる。



<従者に殺される運命> これが、紫暮家が持つ血の定めなのか? 否。 これは、俺の意思だ。




優真、これ以上夕立を傷つけるなら、——俺は本当に容赦はしないぞ。





<夕立視点>


【数週間後】


——ターゲットを見つけた


東條『こちら東條。アイツを見つけた』


『殺ってくれ。アリバイは任せろ』


オレらにとって大切な夕立をゆすっているという噂の五十嵐優真


ったく。なにが優真だクズ魔にでも改名しておけ



後ろをとった。


顔バレしないようにフードは深く被っている ひとけはいない。



ナイフを振りかざす、



夕立「………こんな時間にどうかされましたか?東條さん」


腕を後ろで組まれた。その声には聞き覚えがある


東條「夕立……!」


優真「お、ゲン!!それと、、東條さんじゃないすか!どうしたんすか!こんなとこでばったりとか、奇遇っすね!」


底抜けに明るい

たった今殺されそうになってたくせに



もっとも、その凶器は後ろ手でガッツリ組み抑えられていてヤツにも見られていないんだが


東條「(どういうつもりだ、夕立)」


夕立「(こっちのセリフです)」


優真 「どしたー?」


夕立「なんでもない、ちょっと仕事のことで悩んでたら、東條さんを見かけたから追いかけてきていたんだ。ちょっと待っててくれないかすぐ話しが終わる」



——路地裏



東條「なぜ止める」


夕立「アイツとの因縁は俺とアイツの問題です。手を出さないでください。」


東條「店にとっても不穏分子なんだ」


夕立「わかってます。これ以上店に迷惑かけませんから」



なだめて家に返す



———これでよかったんだろうか


ほっとけば俺はもうこれ以上手を汚さず、ゆすりたかりから……。



いや…、違うだろ。———違わないのか?



もう、優真への愛情と、ゆすりたかりへの憎悪が混ざって、なにも……わからない。

でも 、




優真「話し終わったのか!?じゃあ帰ろうぜ!ゲン!」




この笑顔を見てしまうと、やっぱり守ったのが正解だったかのように錯覚する


夕立「あぁ、待たせたな」


優真「別に構わねーよ!忙しいんだなーオメー。あ、ここ!見てくれ!!!wwww


パチンコなのにパが消えてんのwwwwな!?ウケんだろ!?」



どうでもいいことで笑うアイツからのコミュニケーションをうまくかわす


——そらには満月が輝いていた



夕立「なぁ、優真」


優真「ん?」





夕立「月が、綺麗だな」




心臓がバクバク言う



そんな言葉通用する相手だとは思っていない 。だからこそ、





優真「あぁ、そうだな」





は!!??



これは、合意ととって、、いや、優真のことだし、



優真「なんかまんじゅう食いたくなってくるくらい綺麗な満月だな!!!」



肩の力が抜けた


夕立「そういうところだぞ優真!!!」


優真 「な、なにが!?」



はー、ダメだ、こいつにそんなこと期待したおれがばかだった。



優真「なぁ、ゲン」


夕立「あ?」


優真「手、繋ぐか?んで、走ろうぜ!ガキん時みたいにさ!!」


夕立「は、はぁーーーー!?ガキん時でもそんな事しなかっただろ!」


優真 「はー?しただろ!手繋ぎ鬼とか覚えてねーのかよ!」


夕立「だからほんとそういうところだぞ優真!!」


優真「なにがだよ!!!」



(わかってる、優真にその気はこれっぽっちもないってことくらいは)



優真「ーーでよ、ーーーおばちゃんが、最近、ーー薬ーーをちゃんと服用してないらしくて」



(でもこんなことされたらこっちはたまったもんじゃ)



優真「ーーも困ってたみたいでよ、まー、薬を嫌がる時期ってのは治療上よくあることだし」



(ほんとに人の気をなんだと思ってるのか)



優真「おい、おい、ゲン!聞いてんのか!」



夕立「あ、ああ。聞いてたぞ」




優真 「ほんとよ、いっそのこと、こんな思いどおりにならねーなら、





<おばちゃんの食うまんじゅうに薬でも仕込めたらいいのにな>」






その言葉に冷静さを失った



優真「ほら、ガキの内服ではゼリーとか使うじゃね?」



何か言っていても耳には入ってこなく、思わず襟元を掴んでいた




夕立「二度とそんな口を開くな!!!




次そんなこと言ったら、そんなことしたら、絶対に許さねぇ!」



優真 「げ、ゲン?」



入院中で!必死に闘病してる母さんに一服盛るだと?




・・ふざけんな、ふざけんな!!!




夕立「風に当たってくる。勝手に帰ってろ。なんなら帰らなくていい」


優真「お、おいどうしたんだよ急に!」



満月は綺麗だ。 夜風は冷たい。



優真は。俺にとって昔から太陽だった。




でもいまは・・?


満月が、雲に覆われ隠れていく。まるで欠けた満月のように。


・・まるで、俺らの関係の矛盾を暗喩してるかのように。


・・・この、冷えた夜風は、二重に火照った身体を冷ますのにちょうど良さそうだ。


やはり。守る必要なんかなかったんじゃないか?


毎日、もうなにがなんだかわからない。 俺たちにとって何が正解なんだ・・・




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