第5話 俺のヒーロー(後半)

あたりには煙が立ちこめる


熱い。


室内は、至る所に炎という赤い悪魔みたいなのがいて、いまかいまかと獲物を取り食おうとしているようで。


夕立「優真、どこだ!返事しろ!!」


優真「かーちゃん!!なあ、かーちゃ、」


優真の声が隣の部屋で聞こえてくる。


まずい、そっちもしかして火の元なんじゃないのか!?


そして、なんだいまの、言いかけてとまった……?


あっっ!!!!


夕立「優真!!見るな!!!たぶん、それお前が見ちゃいけないやつだ!!お前が見るんじゃなくて!消防や医者のおじさんたちに見せるべきものだ!!!」


優真「かー、ちゃ?そこに、いるのか?」


夕立「優真ぁぁぁぁ!!!だめだ!!」


優真「なあ、かーちゃん。どうしたんだよ?遠くて俺の声聞こえない?なら、いま、ちかくまでいくから。そしたらいっしょに逃げようぜ?」


その瞬間。

大きな音を立てて、火のついた本棚が。

優真を襲う。


優真「……?」


優真は半分放心状態だ。

かわせない!


夕立「優真!!!あぶない!!!」


その行動をしたあとのことなんて。


どーでもよかった。

ただ、優真さえ助けられるなら。

それしか考えてなくて。


夕立「……っく、!」


肩に、腕に。

重い本棚と衝撃と、赤い悪魔が食らいつく。

熱い通り越して、もはや痛い。


でも、そんなことすらどうでもよくて。


夕立「……ケガ、してないか?優真」


優真「……ゲン?」


夕立「……(ふっとわらって)良かった。どこも、いたいとこないな?」


優真「ゲン?なに、して。ゲンのほうが痛いだろ!?なにしてんだよ!!」


夕立「痛くねぇよ。痛くない」


嘘はついてなかった。


少なくともそのときは。


本当に。


——優真にケガがない。



ただそれだけで、その喜びだけで。



いまも噛みついてきてる赤い悪魔の熱さも痛さも、何も感じなくなってた。


夕立「落ち着いてくれ、優真。これじゃ、すぐには俺もお前も動き取れない。落ち着いてこのまま、消防のおじさんたちを待つぞ。

未奈おばさんのことも……。おじさんたちが来てくれるのを待て。いいな?できるな?」


優真「お、おう。わかった。ゲンが…そういうならそうする。」


夕立「ん、いいこだな」


痛みも熱さも、ほんとにどうでもよくなってて。

ただただ、嬉しさと安堵の優しい笑顔しかでなかった。


消防隊員A「見つけたぞ!ここだ!子供2名発見!」


消防隊員B「あれは、……っ!」


消防隊員A「何を見ても口を慎め、子供たちの前だ!」


消防隊員B「………。女性1名発見。ただちに救急車にて搬送を!」


消防隊員A「………それでいい。……それでな」


————


【SSS、スタッフルーム、咲夜視点】


俺は、言葉を失っていた。


咲夜「そんな、こと、が——」


夕立「小学生の俺から見ても。おばさんは、あの時点ではもう——。」


咲夜「………それを、見てしまったのか。優真は」


夕立「火の不始末、ってことでした。たばこの火がそのままだった、って。」


咲夜「……たばこ!?」


夕立「未奈おばさん、普段は吸ってなかったけど、実は喫煙者で、優真がいない時には密かに楽しんでたんだってことだったらしいです」


咲夜「…………。」


夕立「まあ、12歳といえば優真はもう心臓病発病してました。そりゃ、その母親が喫煙者だなんて、隠れて吸うしかないですよね」


——俺は固まっていた。


冷や汗が流れる。


未奈さんが、——喫煙者、だと?


思い返される、未奈との思い出。


————


未奈『けほ、けほ…』


咲夜『未奈さん、どうかされたんですか?!』


未奈『ほら、群三さま、葉巻がお好きでいらっしゃるでしょ?


【わたし、日常生活にはそこまで問題ないんだけど〈〈あまり、煙の類には得意でなくて。食事も禁煙や分煙の店に好んで行くくらいなんだよね〉〉】』


背筋に悪寒が走る。


そんな未奈さんが、喫煙者?


——ありえない。


ぜったいにありえない!!!


夕立「ま、そんなこんなで。卒業も近かったので優真は一旦卒業まではうちで引き取ることになって。


母さんはずっと引き取り続けるつもりだったらしいけど、病気になっちゃって、入退院繰り返すようになったせいで叶わなくて。


それで、優真は施設に入ることになったんです。


それからしばらくはお互いバタバタしてて会えてなかったけど、偶然再会して、

施設、あまり環境良くなかったらしいから、

ならいっそ暮らすか?ってことになって東條さんも許可出してくれた感じですね」


咲夜「そ、うか……。いや、なんか。わかった。


優真が、ちょいちょい夕立のこと、『ゲンは俺のヒーローだから!』っていうのは、そういうことだったのか……って、夕立?なんだ、どうして急に硬直した!」


夕立「……すみません、それ、出来ればやめてもらっていいですか」


咲夜「それ?それってなんだ?」


夕立「ヒーロー、って呼ばれるの、もうその単語自体が。


ーー正直、拒否反応出ちゃってて」


咲夜「なんでだよ?胸はれよ。


立派に命がけで、火傷まで背負って優真の命守ったんだろ?だったら、」


夕立「もう!もういまの俺には……、」


夕立「優真にヒーローなんて呼ばれる資格なんか、ーーーないんです」


咲夜「…夕立……?」


そう言うと、夕立はスタッフルームから出てしまった。


一人取り残された状態で立ち尽くす。


——なにがあったというんだ?

落ち着け、落ち着いて情報を整理しろ、咲夜。


咲夜「未奈さんが喫煙者で、たばこが原因の失火?ありえない。たしかに未奈さんは煙が苦手なことを人前では伏せてた。


『そう言ってしまえば、たばこ好きな人が心地よく過ごせなくなるから』

そんなことをいうほど、優しい人だった。


——なにがあった?あの火災の日。真実は何だったっていうんだ?そして、」


咲夜「夕立。お前は、………なにを、なにを抱え込んでんだ……!?」


5話、『俺のヒーロー』完。

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