第5話「疑」
俺はこの声に気付かされた。
己の弱さを。
だから俺は自分を変えることを決意した。
最強の武器である思考を鍛えることを。
「じゃあ具体的にどうやって思考を鍛えたらいいんだ?」
『簡単なことだ。目を凝らせ。物事の細部までちゃんと考えるんだ』
「そんなこと言われたって抽象的すぎてわからないぞ」
『あぁ。簡単に言おう。全てを疑え」
そんな哲学者みたいなことできるのかよ。
「まさかお前俺に哲学者になれっていうんじゃないだろうな?」
『いや違う。お前が目指すべきは哲学者ではない。自分のやりたいことをちゃんとできる人間になれ』
「やりたいことをできる人間?」
『そうだ。お前はさっき本当に自分の意思を使って動画を見ていたか?』
俺はちゃんと自分が見たいと思ったものを見ているつもりだったのは確かだが、それはもしかしたら最初の一本だけかもしれないし、最初の一本すら自分の意思だったかもわからないな。
『お前は簡単に操られていた。企業にそしてアプリに」
「じゃあ俺はどうやったら操られないようにできるんだよ」
『さっきも言っただろ。全てを疑え」
ピコン!
母からのラインだ。
「もうご飯できたよ」か
実はこの母親が偽物で、本物の母親が別の場所にいるとか。
実はこの家は現実の家じゃないとか。
もしかしたら俺は存在していないのかもしれないとか?
『ごちゃごちゃいうな。さっさとご飯を食べにいくんだ』
「なんだよ」
俺はこいつに不満を抱きながらも夕食へと向かった。
「今日の夕食はハンバーグよ。かぬいが食べたいっていうから張り切って作ったの」
「別に好きじゃないし」
俺は反抗期特有の強がりを見せた。
内心は結構嬉しい。
「いただきまーす」
家族全員でご飯を食べるというのは今まで当たり前になっていたけど実は結構幸せなのかもしれない。
『そうだ。思考を鍛える第一ステップ。それは当たり前を、そして日常を疑うことだ。実は幸せというのは普段の日常にある。何か起こってからあの日々が幸せだったなって気づくのじゃ遅い。毎日噛み締めて、考えろ』
俺はいつも以上に一口一口を味わった。
いつもはご飯を三杯おかわりする。
いや、非日常の方がスリルがある。そのことに気がついた。
だから僕は四杯目を頼んだ。
「ごはん!」
「よく食べるわねー」
母親がご飯を入れてくれた。
湯気の立つ茶碗。
手に伝わる熱さ。
そして白米特有のあの香り。
俺は五感を使って普段の食事を思う存分たのしんだ。
いつもより一口を、いつもよりゆっくり。
その結果...
俺は全然食べれなかった。
「ごめん。もうお腹いっぱい」
「四杯目ついでからまだ5口ぐらいしか食べてないじゃない」
普段よりゆっくり噛んだせいで満腹中枢が刺激されてお腹がいつもよりいっぱいになったのだろう。
四杯目は急いで食べたら全然食える量ではあるのだが。
『お前は普通に頭が悪いな』
「うるさい」
満腹になった腹を抑えて俺は椅子にもたれかかった。
「あー。お腹いっぱい」
「そういやかぬい。そろそろ体育祭だろ」
父親から話をしてくるのは珍しいな。
「うん。そうだけど」
「なんかの競技とかでるのか?」
「あー。クラス全員のリレーがあってそれだけかな。俺が出るのは」
正直言って俺は運動が苦手な方だ。短距離はまだマシなのだが、少し距離が伸びただけで俺はお荷物になる。
だから今回のリレーも正直言って怖い。
「リレーか。楽しそうでいいじゃないか。写真撮ってあげるから頑張って走るんだぞ。」
写真撮ってあげるか..
俺にとっては逆に苦痛になるんだがな。
俺は部屋に戻りベッドでくつろいだ。
(あー走りたくねー)
『そうか。じゃあ明日から毎日ランニングだな』
「!?」
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