第4話「惨めな自分」

 俺は家に帰ってから早速頭の中にいるこいつをどうにかしようと色々考えた。

 さっき拳を作って後頭部を殴ってみたが効果はなかったようだ。


 ハンマーで思いっきり誰かに叩いてもらう?

 いやそれは俺が死んでしまうだろう。


 十分な睡眠をとったところでこいつが離れることはないし、病院にいって検査してもらう?いやいやそれは流石に別の病気を疑われてしまう。


 ここで一つ俺が思いついた案としては爆音で音楽を流してみることだ。

 いくら俺の頭に住み着いているとはいえ、外部の音がうるさかったらこいつも俺の頭を離れてどこかに行くだろう。


 ということで俺は早速スマホをリュックの中から取り出して机の上に置いた。


 部屋の扉もしっかりと閉めて、部屋の窓もしっかり閉めて防音対策だ。


 よし。これで外部に音が漏れることはないだろう。

 一通りの準備が終わったところで俺は早速選曲を始めた。


 うるさくするならやはりロック音楽だろうか。いやそれとも普通に俺の好きな音楽をかけるか?

 こんな時は動画サイトを頼るのがいい。


 どんなことでも調べればそれに見合ったものがしっかり出てくる。


 俺は動画サイトを開いて検索欄に行こうとしたがちょうどおすすめ動画にさっきまで見ていた動画があった。


(そういやさっきは邪魔されて見れなかったんだよな)


 途中でこいつに邪魔をされて見れなかった動画がたまたま出てきたのでそれをとりあえずみることにした。


 動画を開いた瞬間実況者の威勢のいい声が聞こえてきた。


「はい!ってことで早速やっていきましょう。今回やっていくのは〇〇というゲームなんですけど」


「うるさっ!」


 そういやこいつを驚かすために音量だけはMAXにしていたのだった。

 俺は急いで音量を下げて動画に没頭した。


 気がつけばあっという間に動画を見終わり、また次の動画が出てきた。


(これも気になるんだよな)


 俺はつい指が伸びてしまいその動画も見てしまった。


 そしてまた次の動画をタッチしようとした瞬間だった。


『お前はなにをしている!』


 今までに聞いたことのないどこか怒りを含んだ声だった。


 流石の俺でもびっくりしてしまい、心臓が一瞬止まったかと思った。

 次の瞬間から心拍数は急激に増え心臓の鼓動をどくどくと感じた。


『お前は自分で自分の意思をコントロールしていると勘違いしているがお前はスマホにコントロールされているだけの人間に過ぎない』


(なんだと..?)


 俺がスマホにコントロールされている?

 なにをいっているんだ。

 俺がスマホを操作しなければなにもできない。


「スマホを操作しているのは俺自身だ。他の誰でもない。つまりコントロールしているのは俺の方だ」


『その根拠を言え。まずお前がこの家に帰ってきて真っ先にやろうとしたことを忘れたのか?』


 俺が家に帰ってやろうとしていたこと....とは


 俺はハッとした。

 帰ってきたら真っ先にこいつを頭の中から追い払う。そう心の中に誓ったはずだ。


 だがしかしやっていたことといえばスマホで動画を見るだけ。


 俺は自分の意思で動画を見ようとしていたのではなく、動画を見せられていたのか?


 いやなにをいっているのかわからない。


 だがそう思えば自分の意思で動かしていたはずの指がまるで他人の肉体のように思えてきた。


 画面に吸い込まれるように画面をタップしていたのは俺の意思ではなかったのか...


『答えられないのか?ならば教えてやろう。お前の残酷さというものを』


「お前如きに俺のなにがわかる。残酷さ?それがどうしたっていうのだ。俺は俺の人生を生きる。それにお前は干渉してくるな」


 自分でもよくわからないぐらい大きな声が出た。


 俺がコントロールされている側というのをなんとかして否定したくて、その事実に目を向けたくなくて、俺は必死に叫んだ。


 だがわかっていた。

 俺は自分の意思をちゃんとコントロールできていないことを。

 でも俺は弱い人間だから...


 俺の目にはいつのまにか涙が溜まっていた。


 情けなくて、悔しくて、でも図星すぎてなにも言い返せない自分が嫌で...


『そうだ。お前は弱い。だが、残酷なのはその弱さそのものではない。弱さを認めず、ただ「なんとなく」で時間をドブに捨て続ける、その無自覚さだ』


「じゃあどうすればいいんだよ。俺はこのまま弱い自分なんて嫌だ。」


 俺はスマホをもう一度眺める。

 脳を刺激するたくさんの動画。見たくて見たくてしょうがない。


『武器を使え。思考という名の、唯一人間に許された抵抗手段を。そのスマホを閉じろ。それが、お前が「支配される側」から抜け出す、最初の、そして最大の戦いだ』


 俺はスマホを手に取った。

 こんな小さい機械が俺をコントロールしているなんて..


 震える手で電源を消し、暗転した画面には俺の泣き顔が映る。


 ださくて、情けないどうしようもない自分が写っている。


『私がその最高の武器を最大まで研いでやろう。話はそこからだ。』


「本当か..」


『あぁ。だが約束しろ。私についてなにも考えるんじゃない。私は私だ。』


「わかった。約束する。もうお前について考えるのはやめる。」


『それでいい。それでこそかぬいだ』
























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