第6話「三つの課題」

「ランニングってどう言うことだよ。お前の言う思考とはあんまり関係ないんじゃないのか?」


『言い訳をするな。私の言ったことはちゃんと実行すること。いいな?』


 そんなこと言ったって、俺は運動が苦手だし...

 しかもランニングする時間もないし、すぐ疲れてしまうし..


『言い訳など考えれば無限に出てくる。やった方が確実にプラスになることからなぜ逃げる?ランニングすると脳が活性化するし、脂肪を燃焼することもできる。しかも体育祭のリレーでももしかしたら活躍できるかもしれないではないか』


 こいつの言っていることは正しい。

 運動をするデメリットなどほとんどないのだ。


「でもそれがお前の言う思考とはつながらないんじゃないか」


『自分でプラスになるとわかっていてなぜ実行しない?それにランニングをすると脳も活性化する話を知らないのか?』


「脳が活性化する?どういうことだよ」


『詳しく話してやろう。いいか。お前の脳がスマホだとしよう。 今のお前は、古い機種で、充電も切れかけ、おまけに熱暴走を起こしている。そんな状態で最新の「思考」という重いアプリが動くと思うか? ランニングは、いわばメモリの解放と、最新のOSへのアップデートだ』


「そんなこと言ったって俺にはなにもわからない。俺は機械なんかじゃない。俺は優秀な脳だ」


『それは嘘だ。過去を振り返ってもお前の脳がいかに弱かったかがわかる』


 俺はなにも言い返せなかった。


 さっきスマホに脳を乗っ取られたところなのに、また言い訳をすらすらと並べて逃げようとする自分がここにはいる。


「わかった。俺今日から走る」


『しっかり意思が固まったようだな。じゃあ明日4時半にちゃんと起きるんだ』


「4時半!?」


 俺はいつも6時起きだ。

 6時おきだとしても学校に行くまで結構な余裕がある。

 だがその時間をスマホで埋めて今までを過ごしていた。


『お前がいつも何かに追われているような気分なのはなぜかわかるか?』


 何かに追われている?

 俺は別に追われてなどいない


『お前には少なからずやるべきことというのがあるはずだ。朝の時間だったら朝食を取ること、駅まで行くこと。電車に行くこと。だがその間と間を埋めている時間はなんだ?』


「その間を埋めている時間?」


『もうわかっているだろう。スマホだ。やるべきことを避け、遠回しにしている。だからお前はいつまで経っても何かに追われている気分なのだ』


 そうだったのか。

 だから俺はいつもなにかしら焦っているのか。


『そうだ。だから解決策としてはやるべきことをしっかり終わらせてから触ることを許可すること。一見当たり前のことのように思えるがお前はそれができていない。』


 かぬいは自分は実はやるべきことをできていないことに気がついた。

 現代の毒スマホの存在を改めて認識したのだ。


『そこで私からお前にやるべき課題を与えよう』


「課題?」


『そうだ。今から渡す課題を1日の間でしっかりとこなすことができたらいつのまにかお前は別人のようになっているだろう』


「別人か」


『お前にやってもらう課題は全部で三つだ。一つ。毎日5km走ること。

 二つ。日々考えること。三つ。人と接することだ。』


「5km!?最初の二つの課題はまだわかるが三つ目の人と接することというのがよくわからない」


『ならば教えてやろう。人との交流がお前にもたらす影響というものを。いいか。お前の脳がどれだけ優れていようと、一人で考えているうちは「自分という箱」の中にある情報をこねくり回しているだけに過ぎない。だが、他人は違う。他人はお前にとって予測不可能な「異物」であり、未知の「データ」だ。』


「異物か..」


『他人の言葉、反応、感情。それらはすべてお前の思考を揺さぶり、拡張させる刺激になる。お前が避けてきた周りの視線も、全てお前の脳を働かす刺激となり糧となる。


(ぐぬぬ)


 5kmのランニング。 思考の継続。 そして、一番苦手な対人コミュニケーション。


 この三つが、俺を「操られる側」から「操る側」……いや、「自分の人生を生きる側」へと変えるための処方箋というわけか。


『私のいうことがわかったのなら今すぐにスマホで4時半にアラームをかけなさい』


 ん?スマホでアラームをかける?

「お前が脳にいるのならお前が起こしてくれればいいんじゃないか?


 謎の声は少し間をあけて言った。


『企業秘密だ』


 企業秘密だ..と?


「なんでそこを隠すんだよ」


『お前には関係のないことだ』


 俺は呆れてなにもいえなくなった。





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