魔法使いに憧れて

にゃべ♪

僕を魔法使いにしてください!

 僕は魔法使いに憧れている。幼い頃に観た魔法使いの映画にハマったからだ。最初は映画の中の作り話だと思っていたけれど、書店やネット情報で魔法関係の情報を目にして、本当に魔法使いが存在している事を知った。

 そこからは信憑性があると思えた本を読んでの独学修行の日々。友達からの遊びの誘いや部活への勧誘を蹴っての孤独な在宅魔法研究。魔法の薬、魔法の呪文、魔法陣、魔法に関するものは全てが興味の対象だった。


 そんな日常を9歳の頃から続けて5年。未だの僕の身体からは何の魔法も放出されない。見様見真似で作った杖を振っても何も感じない。やはり僕には魔法の才能はないのだろうか。修行の日々で学んだ魔法の知識が無駄になるのも面白くないし、いっそラノベ作家を目指そうかな。魔法使いの活躍する話なら書けそうな気がするし。

 そんなあきらめの気持ちに押し潰されそうになりながら、僕は帰り道を歩いていた。


「ん?」


 通い慣れた道を映していた僕の両目が捉えたのは、地元では見慣れない人物。その姿は真っ黒なローブ姿の老人だった。映画やアニメとかで目にする典型的な魔法使いファッションを自然に着こなしていたその御老体を見た瞬間、僕の体に雷が落ちる。


「あの! あなたは魔法使いですか?」

「ああ、そうじゃよ。よく分かったのう」

「いやひと目で分かりますって!」


 魔法使いの爺さんはカカカと気持ちよく笑うと、僕をまっすぐに見つめてきた。顔に深く刻まれたしわ、温厚そうでいて鋭い眼光。その風貌は、様々な経験を積んできた歴史の凄みを感じさせている。

 この人は本物だと感じた僕は、反射的に深く頭を下げた。


「僕を弟子にしてください!」

「いいよ」

「えっ?」

「とりあえずワシの家に来なさい」


 こうして、話はトントン拍子に進む。僕はこの爺さんの家に招かれ、改めてお互いに自己紹介をした。


「えっと、僕は鈴原瑞樹と言います。14歳の中学2年生」

「ワシはマーロック斎藤じゃ。おっと、スマン。斎藤マーロックと言った方がいいかの。歳は……そうだのう、見た目通りじゃよ」

「やっぱり軽く100歳は超えてるんですか!」

「見た目通りじゃと言うておろうに」


 マーロック氏は白紙の紙を用意して机の上に置き、その上で軽く指を動かす。この動きに呼応するように紙に文字が浮かんできた。それはまるであぶり出しのようで、僕は初めて見る本物の魔法に興奮する。


「一応師弟契約書を作っておかんとの。形式的なものじゃが」

「これに名前を書けばいいんですね」

「なんで君は魔法使いになりたいんじゃ?」

「魔法使いになりたいからです!」


 志望動機を強く宣言したところで、目の前の老人は明らかに困惑した表情を浮かべていた。まぁ普通は目的があって魔法使いになろうとするのだろうな。

 場に微妙な空気が流れ始めたので、僕は書面の該当欄に名前を書き記す。それが出来たところで、恐る恐る顔を上げた。呆れられているかと思っていたら、意外にもマーロック氏はニコニコ笑顔で視線を落とし、サインの確認をする。


「うん、これで契約成立じゃな。いつでもここに来なさい。ワシが家にいれば稽古をつけてやろう」

「ありがとうございます! 師匠!」


 こうして、僕とマーロック氏は師弟になった。弟子と言っても住み込みで師匠の身の回りの雑用をこなすとか、そう言う古臭いものではない。家庭教師と生徒のような関係だ。

 契約書には師匠と弟子と言う関係を認める程度の意味しか書かれてなく、魔法の指導にしても金銭を支払う義務は存在はしていなかった。


「お金、いらないんですか?」

「ああ、別にいらんよ。本業で食ってけるしの」

「でも……」

「どうしてもと言うなら受け取るぞ。別に止めもせん」


 いくら何でも、教えてもらうのに何も対価を払わないのは気が引けた。なので、帰宅後に親に塾に通うからと言ってお金を引き出す事に成功する。これを魔法の指導代にして師匠に渡す事にした。


「これで僕も本物の魔法使いになれるぞ!」


 本物の魔法使いに出会えた奇跡と、これからその魔法使いに魔法を教えてもらえると言う幸運に、この日の夜は興奮して寝られなかった。

 翌日の放課後、僕は脇目も振らず師匠の家に向かう。その家は魔法使いが住んでいるような如何にもな造形の家じゃなくて、普通の住宅でしかも築50年以上は経っていそうなボロボロさだった。


「まぁここには仕事で来ているからな。終の棲家でないのだから安く上げた方がええじゃろ」

「どんな仕事なんですか?」

「秘密じゃ」


 母親から貰ったお金を渡し、僕は雑談を楽しむ。師匠は魔法協会の仕事でここに来たらしい。赴任して2日目で僕に出会ったのだそうだ。仕事の内容は教えてもらえなかったものの、大まかな日程については教えてくれた。

 基本的には夜中に仕事をしているので、夕方からの僕の魔法の指導には何の問題もないらしい。


「いい暇潰しが出来てワシも嬉しいんじゃよ。人に魔法を教えるのも好きじゃからの」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

「それにしても、今どき魔法使いになりたいだなんて珍しいな」


 僕と師匠の会話に割り込んできたのは師匠の使い魔の黒猫、マロタだ。スラリとしてスタイルのいい彼は、物を浮かせる浮遊魔法を駆使して師匠の生活をサポートしている。

 初めて会った時はビックリして腰を抜かしたものの、余りに使い魔のイメージ通りだったのですぐに慣れた。


「僕は魔法使いが活躍する映画を観て、なりたいと思ったんだ」

「ああ、あの映画なら知ってるぞ。そう言えば原作が出版されてから魔法使い志願者が増えたんだよな。もうブームは去ったけど……」


 マロタはそう言うと遠い目をする。少しの沈黙の後、師匠の視線が僕の方に向けられた。


「本気で魔法使いを目指す者は少ないぞ。だから君は特別なんじゃ」

「あ、有難うございます!」


 師匠は僕に魔法使いになるための様々な指導をしてくれた。独学で学んでいた魔法の基礎知識を本物の魔導書で学び直したり、瞑想したり、夢見や占いの方法を教えてくれたり、魔導体質になるような食事や体操をしたり、杖などを使った魔法の実戦をしたり……。

 何かを学ぶ度に本物の魔法使いに近付く気がして楽しくて、時間はあっと言う間に過ぎていった。


 親に塾に通っていると言ってお金をもらっていたので、当然学校の勉強も疎かには出来なかった。真面目に予習復習をして成績を高い水準でキープ。努力は裏切らないと言う事をテストの点が教えてくれた。


「ふう、魔法使いになるのも大変だ」


 指導を受け始めてから半年。毎日師匠から指導を受けているものの、全く魔法が使える気配はなかった。そんな体たらくに師匠は何も言わない代わりに、マロタが毒舌を飛ばしてくる。


「これだけやっても成果なしか。まぁマスターはお小遣いがもらえるから文句は言わないわな」

「分かってるよ。それでも僕は本気なんだ」

「まぁ精々がんばんな」

「くっ……」


 師匠の指導は丁寧で分かりやすい。それで全く使える気配がないのは、やはり僕には魔法の才能がないのかも知れない。熱意だけではどうにもならない世界があると言うのは理解している。ただ、まだ納得は出来ていないだけで……。

 そんなある日、いつものように師匠の家に行くと室内がパーティーのような飾りつけになっていた。部屋の中央のテーブルにはホールのケーキまで置いてある。


「師匠、これは?」

「君の卒業を兼ねたパーティーじゃよ」

「えっ、僕まだ魔法は……。あ、そうなんですね。才能がないから無駄だって言う」

「何を言っておる。ワシはすべてを教え、瑞樹君は全てを学びきった。それ故の卒業じゃよ。これは卒業証書じゃ」


 師匠はそう言うと僕に立派な卒業証書を渡してくれた。証書の最後には極東魔法協会西日本市部長マーロック斎藤と書いてある。師匠、やっぱり偉い人だったんだ。


「ワシのお墨付きじゃ。これで正真正銘の魔法使いじゃな」

「魔法の使えない、名誉魔法使いですか」

「君はまだ自分の力を自覚出来ていないだけじゃ」

「そう言うウジウジはいいから、早くケーキ食べようぜ。瑞樹も素直に喜べよ!」


 マロタが急かすので、とりあえずモヤモヤな気持ちは棚に上げてパーティーの方を楽しんだ。ケーキを食べて、ジュースを飲んで、師匠が魔法の出し物で盛り上げて、マロタが歌を歌いながら踊って――楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。


「そうじゃ、忘れておった。これは卒業祝いじゃ」

「あ、どうも」


 渡されたのは小さな小箱。何が入っているのかと中身を確認すると、出てきたのは口紅だった。


「何ですか、これ?」

「それは魔法のアイテムじゃよ。使ってみなさい」

「あ、これで魔法陣を描くんですね?」

「違うぞ、本来の使い方をするんじゃ。唇に塗りなさい」


 そう言うのはしたくなかったものの、圧がすごかったので逆らえず……。僕は口紅を唇に塗っていく。そんな自分を直視したくなかったので、敢えて鏡は見なかった。

 口紅を塗り終わったところで身体に変化が訪れる。不思議な光が身体を包んで、気が付くとひらひらの可愛い衣装に身を包んでいたのだ。


「え?」

「うむ。やはり適正はあったようじゃの」


 師匠はニコニコ笑顔で何度もうなずいている。何が起こったのか想像はつくものの、現実を直視しないようにしているとマロタが鏡を持ってきた。


「可愛く変身出来たじゃないか、瑞樹

「うわーっ!」


 予想通り、僕は美少女に変身してしまっていた。魔法少女になっていたのだ。


「才能があるって、僕が目指していたのはコレじゃないよ!」

「でもこれで魔法が使えるようになったぜ」

「師匠! これじゃなくて僕をちゃんとした魔法使いにしてください!」


 僕は美少女の姿で訴える。ただ、今の姿だと様々な魔法が使えそうだなと言う事も直感で理解していた。

 師匠は優しい笑顔を浮かべながら、僕の両肩に手を置いた。


「魔法は姿かたちじゃないんじゃ。後は任せたぞい」

「え?」

「ワシはこの地を離れねばならなくなったんじゃ。マロタは置いておく。後の事はコイツに聞いてくれ」

「え、ちょ……」


 要件を言い終わった師匠は杖を振って姿を消し、室内は一気に殺風景になる。いきなり取り残されてしまった僕は、全く理解が追いつかなかった。


「よろしくな! 相棒!」

「あ、うん……」


 マロタを抱いて家を出る。しばらくしてから振り返ると、玄関に売家の張り紙がついていた。まるで魔法使いが住んでいた事実がサクッと削除されたみたいに、生活の痕跡が全て消えている。


「なんで?」

「魔法使いってのはそう言うものなんだよ。もうお前もその一員なんだぞ」

「何だか淋しいな」


 その後、僕は街を守る魔法少女になって様々な事件を解決していくのだけれど、それはまた別のお話。



(おしまい)

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魔法使いに憧れて にゃべ♪ @nyabech2016

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