ep.3 ‘Guest’ changes meaning.

「そういえば館長、引っかかってる事があるみたいなことおっしゃってましたよね?副館長のほうが適任だとかなんとか。」


個室から出てきたミネがアランドに問う。


「まだ確信はないのだけどもね。いろいろ騒がしくなりそうだ。」


目を細めアランドは虚空を仰いだ。

3人を残した個室の扉が開きギャズが姿を見せる。


「ミネさん、時間外労働ですまないがコーヒーの準備をお手伝い願えるかな?館長は話の準備を頼む。」


「不正入館を許した疑惑をかけられたままじゃ帰れませんからね、お手伝いしますよ。不審者に出すコーヒーなのは不服ですが。」


「館長呼びは慣れませんね・・・監視映像を用意しますのでお待ちを。ミネさんも怒らないで、誰も疑ってませんしこれからその証明をしますので。」


「時間外のお手当もお願いしますね!」


施設の営業は17時まで。既に時刻は19時を回っている。


カチャカチャとマグとマドラーを準備するミネと持ち込んだであろうミルで吟味した豆を挽き始めるギャズを横目にアランドはいそいそと準備を進めている。


「副館長、私たちの分も淹れてくだいさいね!とっておきのやつみたいですし。」


「もちろんさ、とっておき中のとっておきを出そう。」


忙しくしているアランドのそばで緩やかなやり取りが行われる。


「できました、このモニターで映像を見ましょう。気になる点は都度説明します。」


「仕事が早いで助かる。いつでも任せて余生に向かえそうだ。」


「始めますね。」


にやけた表情で館長を強調するギャズにアランドは半ば無視で話を進めた。


「まず私としては彼が故意に、ましては悪意を持ってあそこにいたわけではないという意見という前提でお話しさせていただきます。ではその根拠に肉付けをしていきます。」


ミネとギャズは軽く頷き、コーヒーの入ったマグカップを手に椅子に腰かけた。


「まず監視設備は各階地下書庫の入り口と階段、中央通路にありますが階段の監視設備には動体検知のセンサーがついています。そして今日一日地下書庫全ての階段のセンサーに反応があった時間に移っていたのはシーエさんのみでした。この事から1Fの受付を通り階段を地下4階まで降りたというのは階段のセンサーが全て彼にだけ反応していないという奇天烈なことがない限りほぼあり得ないかと。」


「中央通路に関してもシーエさんと少年が接触するその時間まではざっと早送りで確認しただけですが人影はありませんでした。」


「そもそも今日は町の人々もの準備でうちの地下書庫に用事のある者もいないのでしょう、利用者はいませんでした。共連れ入館の可能性もゼロに近いほど薄いです。ここまで気になる点はありますか?」


アランドの見解を2人は口を挟まず聴く。


「・・・はぁ、とりあえず私のミスではなさそうでよかったです。もやつきは無くなりましたが彼に強く言葉をぶつけてしまった事に後悔しはじめちゃいました、後で謝らないと。」


ミネも不安から気を立ててしまっていた。


「でもだとしたらなぜ?」


ミネが問う。通常の入館でないなら謎は深まる。あたりまえの感情だ。


「それだけではないのだろう?アランド。」


ギャズの問いにアランドは頷く。


「前日に関しては閉館前の巡回作業でも異常がない事を確認しています。昨日も勤務はシーエさんですね。彼は誠実さは疑う必要はないと思いますので。」


ここまでの話をもとにギャズが口を開く。


「彼はシーエ君が閉館作業のため地下4階を巡回するタイミングで突然に現れた・・・と?」


「はい、ただタイミングに関しては偶然のもとの推測します。実際はシーエさんが地下4階についたと同時にというわけではなく地下3階を巡回していた際に物音を聞いて駆け付けた形になります。」


「彼の証言にも今のところ状況との不一致はありません。まず廃刊したものや増刷のされていない数の少ない本など多少の価値のある物はありますが一般書籍が殆どの地下4階に不正をしてまで入館する理由がないです。相当な古書マニアでもなければですが。」


「私にとっては宝の山だがね。」


状況整理が一段落した様子を感じ取ったミネが2人に交互に目を合わせため息をつく。


「まさか魔法とかってまた言い出そうとしてます?」


「そのまさかで話そうと思っている。」


胸を張るギャズを見てミネがうなだれる。


「副館長ならまだしも館長も今回はって事ですか?」


アランドは申し訳なそうに頷く。


「魔法なんてもうこの世界には無くなったっていうのが現代の一般論ですよもう、たまに副館長みたいな自称魔法使いがいますけども!あの子が魔法使いだとでも?」


飽きれたミネが声を張る。


「自称とは失礼な。依然見せただろう私の華麗な風魔法を。」


「すんごい時間かけて空き瓶一つ倒すあの華麗な風魔法ですか?」


「そうだ、でも事実だろう?あとね無くなったとされているのは魔法そのものではなくそれを構成するエネルギー。魔力と呼んだりマナと呼んだり様々な呼称はあるが。だが無くなったというのも適当ではない、あるにはあるんだよまだ・・・微かにだがね。」


疲れた様子のミネが帰り支度を始める。


「あとはおまかせしますね、戸締りお願いしますよ・・・お先に失礼します。」


荷物を持ち休憩室からミネがでていった。


「さてコーヒーを淹れなおして戻らねばな、待たせすぎてしまっている。彼らも2人きりでは気まずいだろうさ。」


ギャズが自分を含め3人分のコーヒーを淹れなおす。今度は個室で待つ2人の物だ。


「招かれざる客だった彼が私にとっては国賓級である可能性があるようなのでな。」


「久々に滾ってますねギャズ。」


「呼び捨てとは久しいなアランド。」


「わたしの勤務時間は一区切りついたようなので今はプライベートということで。旧知の友人に良縁がありそうで良かったよ。」


トレーにコーヒーを乗せたギャズがシーエと少年の待つ個室へ向かう。




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エーテルの残り香 男鹿浜雄 @shikabambix2

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