ep.2 Let's talk by the rules!

 状況も把握できぬまま飛び込んできた男性の声に咄嗟に身を隠してしまった。


 そもそも隠れる必要があるのか?とも考えたが男性の声色から穏やかでない雰囲気は感じて取れた。


 ここが居てはいけない場所、それが時間的な物なのか手続き的な物なのかはわからないが異物、不審物に対する警戒の声色であることは確かだ。


 本棚が無数に置かれた場所、ゲームであればエネミーとのチェイスにはうってつけかもしれないが出口もわからない場所でそもそも逃げる必要などない可能性まで捨ててまで行動するのは割りあわない。


「すみませーん!こっちでーす!」


 僕の答えはこうだ。通路にでて手を挙げ声を出す。投降、諦めだ。意味があるかわからないカロリーを使う余裕は貧乏学生にはないのだ。

 男性の足音が真っすぐに僕のほうへ向かい10m程先の本棚の列から声の主が顔を出した。30代くらいだろうか、怒りというより焦りを表情をした守衛らしき男性が小走りで駆け寄って来た。


「子供・・・?どうしてここにいるんですか?」


 男性は僕から5m程離れた位置から質問をする。やはり現状僕は不審者なのだろう。


 不審者ならばまだいい、僕がこれからする返事によって不審者から異常者になる可能性すらあるのだから。


「なんと説明したらよいものかなんですが気づいたらここにいました。嘘じゃないです。」


 とっさの効果的な嘘を思いつく才は無いし、あとあと面倒になるのが目に見えている。


「悪いけどそんな頓狂な話は信じてあげられない、出入管理を預かる者としてちゃんと確認させてもらわないと困るんだ。とりあえず一旦一緒に外に出てもらうよ。」


 てっきり怒号を浴びせられるものだと思っていたが冷静に大人な対応をされている。

 選択は正しかった。


「拘束とかしなくていいんですか?」


 我ながら聞かなくていいことを聞いたと思う。


「凶器でも持っているのかい?そもそもそんな道具もってもいないよ、そこまでの権限は与えられていないからね。ただ私の前を歩いてくれますか?方向はこちらで支持するので。ちなみに出口はしまっているから走って逃げるという選択はしないでほしい。」


「余計な事にまで答えてもらってすいません。」


 返事は返ってこなかった。


 男性の指示に従ってフロアの端にあった階段を上り、4階分上った所に機械で施錠された扉があった。

 男性が首から下げたカードキーを端末にあてると錠の開く音がした。


「え?この子ですか?不正入館って。」


「ええ、地下4階にいました。あと本人に聞こえるように不正とかあんまり言わんでくだい。」


 受付スタッフだろうか、20代くらいの女性と男性が会話をする。不正だなんだと聞こえるが仕方のない事だしむしろ配慮してくれようとしているので嬉しいくらいだが何せ全部聞こえてしまっている。


「とりあえずそこの個室1って所にはいってくれもう一人呼んでから話を聞かせてもらうから。」


「わかりました。」


 本来は集中して本を読んだり仕事や勉強をする為のスペースだろう、予約表みたいなものある。ここも図書館のような施設であることは間違いなさそうだ。


 個室には2人掛けのソファーが二つと机、小規模な会議や勉強会ならできそうだ。

 立って待っているのも不自然だし申し訳なさを感じつつもソファーに腰を掛けた。

 男性は個室のドアの外で立っている。


 ガチャッ


 ドアが開いた。

 先程の守衛らしき男性と受付らしき女性スタッフ、それともう一人中年の小太りの男性が入ってきた。


 とりあえず誠意を見せておこうと立ち上がろうとすると小太りの男性に止められた。


「ああっいや掛けたままでかまわないよ、すまないねこんなところに押し込んで。」


 会釈をして中途半端に上げた腰を再びソファへ降ろした。


「とりあえず、館長のアランドです。単刀直入に聞きますがどうしたあそこにいたのか聞かせてもらえるかな?」


 アランド?一目見た時点で日本人でないことはすぐにわかった。そもそも最初にあった守衛らしき男性も受け付けらしき女性スタッフも少なくとも日本的な顔立ちでないことはすぐ気づいたがあまりも自然に日本語を操っているのであまり気にしていなかっただけなのだ。だが3人目はどうだ、館長とまで言っている。そういった人々が集まる職場なのだろうか。いろいろと思慮に耽ってしまったせいで質問に答えない僕に追撃が来た。


「答えられないのかい?」


 すこし表情は穏やかでなくなってしまった。失敗した。


「すみません!ただ本当になんて説明したら分からなくて、気づいたらあそこにいたって以外の答えを持っていないんです。少なくとも受付手続きのような事はしていないし階段を下りた記憶もありません・・・」


 そう僕は、受付のいらない町の図書館で階段は上っていた。


「そうか・・・」


 想像していない返答が返ってきた。

 てっきり嘘をつくなと捲し立てられるものだと思っていた。


「館長!そうか・・・じゃないですよ!このままだと私が受付で居眠りをしていただの、共連れ入館を許しただの在らぬ噂を流されるにきまってるんですから!」


 受付の女性スタッフが怒り始めた。守衛の男性にもだが僕という不審物が働いている人に迷惑をかけている。申し訳ない。


「君もさぁ嘘ついてたって帰れないからね!どこからいつどうやって入って何をしてたか!それだけでいいからちゃんと答えて!」


 矛先がこちらに向いた。まぁ正しい方向ではあるのだろうが。


「ですから本当にっ」


「第一ね、明らかに手続きが必要な場所なのは君くらいの年ならわかるよね?」


 言葉を遮られて追い打ちを受ける。


「あのっ」


「地下書庫の入室料だって子供のお小遣いでも問題ない値段でしょう?それくらいも払いたくなかったのかな?」


 喋らせてもらえない。苦手だこういう大人は。


 最善手でない事は分かっているがこたらだって状況がわからなくて困っているんだ、せめてもの抵抗で口をつぐんでしまった。


「黙ってちゃ何もわからなっ」


「ミネさん、少年相手にそれでは少々大人げないように思うよ。」


 個室にもう一人男性が入ってきて女性を制止した。

 スラっとした背の高い老人。180cmくらいあるのではないだろうか。


「会話はターン制だよ、相手の時間を邪魔してはいけない。」


「すみません館長・・・」


 館長らしい。おかしい2人目の館長が現れた。いよいよ頭が追い付かない。


「僕は先月末付けで副館長に就任したはずだよ、新館長が可哀想だから早めに慣れてくれたまえよ。」


 先程のアランドさんが館長でこの老人は前館長で現副館長という事らしい。


「僕も話に混ぜてくれるかい?なにか引っかかっているんだろうアランド。」


「ええ、そうしてくれると助かります。私の予想が当たっているとたぶんギャズさんのほうが適任かと。最初からお呼びすべきでした。」


 受付はミネさん、副館長はギャズさんというらしい。

 やはり日本名ではない。


「改めて、僕はギャズと言う。先月までこの建物の責任者をしていた者でね、今回の件は僕が預かりたいと思っている。お三方もそれでいいかい?」


 副館長が僕を除いた3人へ問う。受付女性と館長は軽く頷き席を外し個室の外へ消えていった。


「私は警備を任されていますのでまだ副館長と彼を二人きりにするわけにはいきません。」


「わかりました、シーエさんも同席して下さい。最初の状況などシーエさんにも伺いたいことがありますので。」


 守衛らしきひとは警備員だろうか、名前はシーエさん。ここまであった4人全てが日本人ではないが日本語が通じる。もうわからないのでタイミングを見てこちらから聴こう。幸いな事にまともに話してくれそうな2人が残った。


「さて、話は手短にしようとは思うが緊張し空気が好かんな。少年、君はコーヒーは飲めるかい?」


「え、あぁ、はい飲めます、むしろ好きです。」


「そいつはいい、趣味の一つでね。とっておきを持ってこよう。」


 そういってギャズさんは個室を出て行った。


「シー・・・あの警備さん、いただいてもいいもんなんでしょうか?」


 名前で呼ぼうかと思ったが会話を聞いただけで自己紹介をされたわけでもないので馴れ馴れしいからやめた。


「大丈夫だろう、受けられる施しは受けておくべきだよ。それと別に我々も君を危険視までしているわけではないから怯えないでいい。いた場所が場所だからね。詳しい事は副館長から聴いてもらうけどどうか真摯に答えてほしい。」


 笑顔というわけではないが所謂子供に向けるやわらかい表情で答えてくれた。

 いた場所が場所という所に少しひっかかるが重要な機密があるような書庫ではなかったという事だろうか。難にせよ最悪の状況は回避したらしい。


30分程経った頃、再び個室の扉が開いた。


「お待ちどうさま、とっておきの豆の挽きたて淹れたてだ、ご賞味あれ。」


 戻ってきた副館長がテーブルにコーヒー3つを並べた。


「ありがとうございます。頂きます。」


 普段からポットで作る水出しコーヒーや900mlで100円で買えるペットボトルのコーヒーを常飲しているがそれらのコーヒーにはない酸味と強い香りがある。

 ただそれを「美味しい」と思うかは十人十色で正直慣れ親しんだ苦みが全面にでた安コーヒーのほうが飲みやすい。


「すごいいい香りです・・・」


 味はともかく香りは明らかにこちらのほうが良い。嘘はついていない。


「それはよかったよ。さて」


 副館長が啜っていたマグカップをテーブルへ置き本題へ口火を切る。


「話をしよう。ちゃんとターン制でね。」





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