第4話— 夜の正義

夜の闇が街を覆う頃、夢原ひかりは目を覚ました。

室内は静まり返り、月明かりがカーテンの隙間から差し込む。

しかし、何かがおかしい。

青あざが腕に広がり、爪の間には湿った土が入り込んでいる。

服は乱れ、靴も泥だらけ。

机の上には、別の筆跡で書かれた紙が置かれていた。

「彼らは変わらない」

「私が助けている」

「りん」

ひかりの胸は、恐怖と混乱で押しつぶされそうになる。

しかし同時に、心の奥底で奇妙な安心感も芽生えていた。

――りんは、確かに自分を守ってくれている。


その夜、ひかりは意を決して外に出た。

街灯が点滅し、道路は静かで、人通りはほとんどない。

闇の中、りんが現れる。

影のように、しかし確実に存在感を放つ。

「恐れる必要はない」

低く囁く声。

ひかりは小さく頷く。

「でも……怖い」

りんは微笑み、手を差し伸べる。

その手を取ると、体の奥から冷たい力が流れ込む感覚。

――自分は、もう一人ではない。

街の一角で、加害者たちが現れる。

昼間、ひかりをいじめた者たちの影が、夜の静寂に浮かび上がる。

りんは判断する――罰するべきか、それとも見守るか。

ひかりは心の中で葛藤する。

「私が……やるの?」

恐怖、罪悪感、しかし正義感――すべてが交錯する。

そして、りんの力が自然に行動を導く。


暗闇の中、加害者たちが逃げようとした瞬間、

影の中から鋭い視線が突き刺さる。

ひかりは息を呑む。

足は動かない。しかし、心の奥で何かが動く。

――りんが指示する。

――正義を成す。

金属音、低い唸り声、そして静かな恐怖。

加害者たちは次々に恐怖で固まり、最後には街灯の下で膝をつく。

ひかりは理解できない感覚で見守る。

自分が何をしたのか、すべては影に導かれた行動だった。

街に静けさが戻ると、りんはひかりの肩に手を置き、囁く。

「怖がらなくていい。これが、私たちのやり方」


帰宅途中、ひかりは胸の奥で問いかける。

「……私、本当にこれでいいの?」

自分の手は汚れていない。

しかし、心の奥では、罪悪感がじわりと広がる。

夢と現実、光と影――

自分の中の二つの存在が交錯する。

青井と美香は遠くからひかりを見守る。

「最近のひかり、変だよ……」

青井はつぶやき、美香は小さく頷く。

黒川も遠くから街を観察している。

「影の正義……だと?」

眉をひそめ、ノートにメモを取りながら、ひかりの動きを追う。


夜が深まると、また別の事件が起こる。

覗き魔が、路地裏で誰かを狙う。

りんは静かに現れ、瞬時にその人物を捕らえる。

ひかりは恐怖と興奮の入り混じった感覚を覚える。

「私、……やっぱり、やってる」

心の中でつぶやく。

しかし、体は自然に動き、影の正義に従う。

街の片隅で、警察のサイレンが微かに聞こえる。

――この影の正義は、まだ誰にも知られていない。

しかし、ひかりの行動は、確実に現実に影響を与え始めていた。


朝になり、ひかりは無事に帰宅する。

制服は泥だらけ、手はかすかに震えている。

だが、胸の奥には奇妙な達成感が残る。

鏡の前に立つと、りんの影がわずかに揺れる。

「今日も……守った」

低く囁く声。

ひかりはまだ言葉にならない感情で頷く。

――これが、夜の正義。

――そして、私たちの始まり。

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