第2話— 影の声
夜の帰り道。
スーパーの袋を手に下げながら、夢原ひかりは足を止めた。
目の前で、三人の小学生が上級生の男子に囲まれている。
息が止まりそうになる。
――助けなきゃ。
でも、体は動かない。
恐怖が、全身を凍らせる。
「おい、見ろよ。こいつらチビばっかりだぜ」
一人が嘲る。
「金を出せ。動いたら殴るぞ」
もう一人が威嚇する。
小学生たちは縮こまり、震えていた。
ひかりの心臓は、鼓動が耳をつんざくように早くなる。
――ここで、何もできないの?
頭の奥で、低くブーンという音が響く。
まるで回路が入れ替わるかのように。
瞬きをすると、体が勝手に動いた。
気づけば、ひかりは加害者たちの背後に立っていた。
「……な、何……?」
驚く上級生たち。
暗がりの中、少女が静かに立つ――それは自分自身のはずなのに、どこか異質で、威圧的だった。
ひかりの手は、知らぬうちに金属のコンテナを掴み、重く叩き倒す。
街灯がチリンと鳴り、鋭い金属音が闇に響く。
少年たちは悲鳴を上げて逃げ去る。
ひかりは息を切らせ、立ち尽くす。
自分が何をしたのか、理解できない。
窓ガラスに映る自分の姿――そこに映ったのは、りんだった。
黒い影のように立つ少女。
目は冷たく、しかし確かに生きているかのような存在感がある。
「私は、あなたの声を聞いている」
鏡の中のりんが囁く。
ひかりは恐怖で後ずさる。
胸の奥で、未知の力が蠢く感覚。
翌日、学校。
普段の教室は、何も変わらないように見える。
しかしひかりの内側には、冷たい震えが走っていた。
――眠る捕食者が、目を覚まそうとしている。
黒金あゆみは、相変わらずひかりに嫌がらせをする。
しかし、ひかりの視線は以前のように怯えない。
心のどこかで、影の自分――りんが見守っていることを感じる。
放課後、ロッカールームで財布が消える事件が起きる。
ひかりはその場にいたが、何も記憶がない。
次の日、匿名で送られた映像により犯人が特定される。
ひかりは震える手を見つめる。
――何もしていないはずなのに。
スマホには、新しいファイルが残されていた。
自分の名前が、そこに刻まれている。
「……私、何をしたの……?」
声にならない問いが、部屋に溶けていく。
夜、ひかりは夢を見る。
りんは暗い街を見下ろしている。
見てはいけない人々の裏側。
夜道を徘徊する大人。
暴力をふるう者。
「……どうして……」
ひかりは問いかける。
りんは答えない。
ただ、冷たい瞳で街を監視し、判断し、裁き、罰している。
夢から覚めると、現実のひかりの胸にも同じ冷たさが残る。
これが、自分の中の“影”の一部なのだと理解する。
学校では、あゆみの嫌がらせは続く。
しかし、ひかりの内面は変化していた。
以前のように恐怖で固まることはなく、代わりに冷静で鋭い観察眼が宿る。
放課後、ひかりは図書室に立ち寄る。
本棚の影に、誰もいないはずの存在が視界の端に現れる。
それは、りんのようでもあり、ひかり自身のようでもある。
「抵抗する方が辛い……」
低く囁く声。
しかし、ひかりは首を振る。
「消えたくない……」
自分と影が、まだ完全に融合していないことを感じる。
しかし、行動は自然に“影”に導かれる。
次第に夢と現実の境界は曖昧になり、ひかりは気づく。
――もう、単なる少女ではない。
――影は、確実に、私を支配し始めている。
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