第9話 アークスの直感



アークスは書類を閉じ、椅子の背にもたれた。


(……なるほどな)


頭の中で、点が勝手につながっていく。


用意された聖女。

ルディ王子が確実に引っかかる容姿。

承認欲求が強く、立場に弱い少女。


――設計としては、悪くない。


むしろ、よく出来ている。


(問題は……)


アークスは、わずかに口元を歪めた。


(当たりだと思っていた聖女が、

 ただのハズレだったことだ)


ここまで制御が効かないとは、

さすがに想定外だっただろう。


聖女として“使えない”だけなら、

まだ取り繕いようもあった。


だが、周囲まで巻き込み始めたのは――

完全に、誤算だ。


(……これは、笑うしかないな)


操るつもりの駒が、

盤面そのものを引っ掻き回している。


操り人形どころか、

糸を絡めて自滅する類だ。


(いや、笑えないか)


肩書を与えた以上、

後始末は必ず回ってくる。


神殿は便利な場所だ。

面倒なものほど、流れ着く。


(……本当に、俺は何係なんだ)


だが一つだけ、はっきりしている。


(シルヴィアでは、無理だった)


あの公爵令嬢は、

疑う。

考える。

従わない。


利用するには、危険すぎる。


(だから、リーゼだった)


そう考えると、筋は通る。


通るが――


(人を見る目が、途中で死んでいる)


聖女は“用意された”。

だが、“管理されていなかった”。


そこが致命的だ。


(……まあ)


アークスは肩をすくめた。


(これは、俺の仕事じゃない)


気づいたところで、

口にすれば命が危ない。


考えるだけで十分だ。


それに――


(どうせ、世界が先に答えを出す)


あんな聖女では、

どのみち、長くは持たない。


アークスは立ち上がり、

次の書類を手に取った。


(しかし……)


(用意された聖女が、

 ただのハズレだったとは)


(悪いが、少しだけ――)


(少しだけ、面白い)


それにしても、だ。


神託の場にいた神官長と、その周囲の者たち。

名前も、出身も、辿れない。

まるで最初から存在しなかったかのように、綺麗に消えている。


(……ああ、これもだ)


五年前。

王位継承を巡って、神殿でも意見が割れたあの時期。

反対派が黙った理由は、「シルヴィアが王妃になるなら」という一文だった。


その前提が崩れ、

代わりに“聖女”が現れ、

札が増え、

金が動き始めた。


(偶然にしては、出来すぎている)


アークスは、思考をそこで止めた。


考えすぎるのは、命取りだ。

自分はただの大神官。

世界を正す役ではない。


(……賢く生き残る方が、性に合っている)












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