第8話 火口の戦い

「んー、どうしたんじゃ?バフォード」

 さいころを握りしめて遊んでいる灰色のローブを着た老人が、バフォードという少年に訊いた。

「火口を見て下さい」

 少年は火口を指さした。

 ロドス火山の火口は、裏側が空洞になっており、彼らはその中から其処を観ることが出来る。マグマの中に蠢くモノがみえる。腕のようでそうでないモノ。その上に中に浮く剣の刃。

「ヴェルヴァーザの肉体がどうしたんじゃ?ほう、活発化しているとでも言いたいのかのう?」

「数千年の間もこうして、ロドスの溶岩で消滅しない以上は、彼の力がまだ弱まっていない証拠です」

「そうも行かぬわい。元々やつは奈落界の存在じゃ、炎や熱は効かぬ。此の溶岩の神聖さで、閉じこめているだけじゃ。其のエンハンサーがセインじゃからな。もし、あれが取れれば、封印が解けるぞ?いいのかのう」

「人間が、破壊の心に支配されないための、古き友の与えた試練ですよ」

「ほう…」

「信じていますよ、人間を」

 バフォードは、微笑み返した。

〈其れがチャンスなのだ〉

 火山の空洞を揺るがす程の大きな声がした。天井に漆黒の〈ゲート〉が開いている。其処から声がしているのだ。

「ヴェルヴァーザ!」

〈お前達の安定した世界はいらんのだ!全てが一度無になる時が迫っているのだ!〉

「其れは違う!断じて!そして、お前の好きなようにはさせない!」

〈黙れ!お前がしたこと永遠に忘れてはおらん!あの時、儂の能力を封印した時を!〉

 声は憎しみに比例するかのように、大きくなっていった。〈ゲート〉から何匹かのカエルの化け物がひょこひょこと現れる。しかし、老人が指を指しただけで電撃が走り、カエルを消し炭にした。其の後にマリリスが現れ、襲いかかってくるが、老人が、シミターを振りかざすと其の刃が白銀に輝き、マリリスを斬った。マリリスの体に凍傷が出来る。彼女はうめき、反撃を試みようとするが、老人は素早く身をかわす。そして、もう一撃を繰り出すと、マリリスの頭は胴から離れていた。シミターには返り血が付いていない。

「いい加減諦めたらどうじゃ?年寄りに激しい運動をさせるんじゃないわい」

 老人は深い溜息混じりで暗闇に向かって叫んだ。

〈おいぼれのオージィ・レイ!〉

「何じゃ!」

〈何故に加担する!もう、此の世界の寿命が来ているのを知っているだろう!〉

「其れはそれじゃ。いずれ皆が気づく。お前だけが世界を動かして良いわけではあるまい。其れに世界の寿命はまだじゃよ。早とちりするな馬鹿たれ」

 老人が言い返すと、暗闇から黒い電撃のようなものがオージィを襲った。しかし、彼はヒラリとよけてローブを少し焦がしただけにとどめた。

「暴力は反対じゃ」

 老人は鼻を鳴らす。

「そう、寿命はまだです。貴方が現れる時代でもないのです。もう自分の世界に戻りなさい破壊神!」

 少年が叫んだ。

〈そうはいかん!、此のチャンスを逃すこと自体が愚かな行為だ!くっくっく、破滅が見えるぞ、お前が守っていた人間の国が混沌と欲望、憎悪に包まれる姿が!なぁ、古竜の片割れ…〉

「そうはなりません!」

 バフォードは言い返すが、暗闇が沈黙したまま消えていった。

「カインに祝福された人の子よ。頼みますよ…」


 アリス達は、火山を登山するのではなく、洞窟を見つけその中から入っていった。其の洞窟は、50フィートはするほど高い。

「何か居るのか?」

 J・Jが此の不自然な洞窟の大きさに疑問を抱いた。

「ドラゴンのほかに居るのかも。巨人とか」

「あり得るね」

 アリスの問いに、レオノアが答えた。火山には火や熱に強い生物が住み着く。邪悪な炎巨人が住処にしているのに違いない。他に、野生のサラマンダーが居るかも知れない。

「気を付けないと」

 中は、溶岩の熱気が伝わってきて暑い。数分歩いただけで、汗が吹き出す。J・Jが先に歩いて、状況を確認する。何も居ないようだ。そのまま空洞の先を進む。

 大きな扉を発見した。其の扉は石作りで両開きのようで、人間が動かすことは出来ないような重さである。しかし、わずかに人1人が入れる隙間があった。

 まず、J・Jとレオノアが入った。其の先には大きな広間になっており、何倍も大きいテーブルとイスがある。2人はまるで、自分たちが小さくなったような感覚を覚える。壁の近くには、これも大きい剣や槍が立てかけられている。

「昔、物語で聞いた事ある風景だ」

 とJ・Jが呟いた。

「でも現実みたい」

 レオノアが奥にある扉から、誰かが来るのに気が付いた。ボロボロの革を着た巨人である。片手に棍棒を持っており、もう片方には、緑の小さな竜を引きずっている。

「うげ?」

 どうも、此の巨人は気が付いたようだ。近寄ってくる。

「お前ら何処から来ただ?」

 と、彼は訊いた。

「あのね、居ないことにしてくれない?」

 と、レオノアがいきなり言った。

「?うー?んー?」

 と、巨人が理解していない隙に、皆を呼び一目散に、奥の扉まで移動した。

「丘巨人だったから、大丈夫だったわ」

 扉に隠れて、目の前に居なくなった事に驚いている巨人をみている女剣士は言った。

「召使いの感じだね」

「先に進むか」

 J・Jは先を急いだ。

 此の部屋には中央に大きな石のテーブルがあり、ソードぐらい大きさのある包丁や、大型のヘルメットのような鍋が、壁に掛けてある。炊事場のようだ。近くの壁に、別の扉がある。先ほどの丘巨人しか居なかったようだが、もう一つの扉から荒い大きな声がしてくる。アリス達は物陰に隠れ様子をうかがった。

 やってきたのは、頑強な甲冑を着た濃い紫のような肌をした燃えるような真紅の髭をはやした2人の巨人だった。腰には大きな剣を帯刀しており、人間の言葉ではない何かを怒鳴りながら会話している。大きな声で怒鳴った。隣の部屋から、先ほどの丘巨人がやってきて、平謝りをしている。屈強な巨人は彼よりも一回り大きい。甲冑の巨人は、丘巨人を拳で頭を叩いた。

「下っ端は辛いな」

 J・Jは、ぼそっと呟いた。

「今のうちかな」

 彼は用心して先を進む。しかし、甲冑の巨人は其れを見逃さなかった。

「誰だ!此のちびめ!」

 巨人は大きな剣を振りかざし立ち向かってきた。大きさから考えればひとたまりもない。

 巨人は剣を振り下ろす。J・Jは其れを横に飛んでかわした。剣が近くの壁を壊す。それと共に響く轟音。其の後に扉の先が騒がしくなった。

「これは大変だ!皆さん手を繋いで下さい!」

 フィロッグが透明空間結界をはり、J・Jを除く仲間は透明になった。J・Jは指輪をこすり、徐々に姿を消す。

 5人の巨人が、どかどかと現れて、先ほどの巨人と口論をしているようだ。そのまま喧嘩を始めた。その隙に、フィロッグを中心に静かに扉の先に向かった。J・Jは彼らの姿をあの時手に入れた「宝石」で見ることが出来るので、後を追った。

 先は、大きな空洞になっていた、巨人達の家財道具が散らばっている。松明で明かりがともされており、其の先に、上り坂の通路がある。そして、蒸し暑い。鎧を着ている者から汗がボタボタと流れ落ちている。今も巨人達が何かを叫んでいるのが聞こえる。

「急いで、あの先に進みましょう。巨人に関わっている時間はないのです。」

「確かに」

 坂を登り、次のフロアへ向かった。其の先にある部屋は、マグマの光で照らされた先程の空洞より暑い所だった。マグマの煮えたぎる音が聞こえる。吹き出したマグマの1滴が近くの崖に落ちてくる。皆は慎重に先を急いだ。

 しかし、マグマから、火柱が舞いあがり、炎に包まれた半人半蜥蜴が4体、姿を現したのだ。そして、侵入者に向かって殺気立って近づいてくる。

「サラマンダー!!」

 フィロッグが叫んだ。

 ドルマは、水銀で指を濡らし、印を結び祈りを捧げ始めた。

「彼の者に炎に耐えうる力をあたえたまえ!!」

 そして、アリスに軽く触った。アリスは、今までの蒸し暑さが無くなったような気がした。レオノアとアリスは剣を構え、サラマンダーと間合いをとる。フィロッグはポケットの中に有る埃を摘み、逆手で水袋に指をいれ濡らした。そして、不思議な言葉を歌うように喋り始めた。

 「吹き荒れろ!!」

 埃を水で濡れた指に付け、サラマンダー達を指さした。瞬間、其の地点を中心に吹雪が巻き起こる。サラマンダーは苦痛に藻掻き苦しみ、燃えさかる体の色が変色していく。其の隙にアリスとレオノアが1体を切り裂いた。他のラマンダーがスピアでレオノアの肩を突き刺した。肩当てが熱で溶け、そのまま体に突き刺さる。熱で肉が焼ける。レオノアは苦痛でうめいた。しかし、彼女は剣で怪物を斬り、間合いを取る。サラマンダーが迫ってくるところを彼女は軸をずらし懐に入った。瞬間に剣の強力な一撃を見舞う。サラマンダーは苦痛にあえぎ小さな火になって消えた。

 アリスは、少しずつ火傷を負いながらも、確実に今の相手に傷を負わせている。火蜥蜴のスピア攻撃をかわし、セインJr.で大きく、体を切り裂いた。

 J・Jは魔技を庇い続ける。呪文を詠唱し終えたドルマは、愛用の戦鎚を掲げ、迫ってきたサラマンダーの脳天を叩き割った。

「良く持ちこたえたの」

「ふん」

 笑っているドルマに、J・Jは鼻を鳴らした。


 数分後に、火蜥蜴を始末し終えたとき、皆の体に無数の火傷を負っていた。アリスやドルマが傷の手当をしている。

「流石に連戦では持ちこたえられんわい。慎重に進もう」

「そうね」

 彼らは出発しようとすると、先の方に琥珀色のフードローブを着たフードで顔を隠した老人が歩いてきたのだ。皆は警戒し構える。

「ここは、人が来るところではない。早々に立ち去れ」

 老人はヨボヨボの手を広げアリス達に向けた。

「老人…。お主、何者じゃ?」

 ドルマが老人に向かって叫んだ。

「言う必要はない」

「あまりに不自然じゃ。其の姿は」

「何とでもいえ。ビアダルめ」

「何じゃと!」

 ドワーフが声を荒げ、戦鎚を構えようとしたが、アリスに止められた。

「まさか、貴方が古竜「琥珀」のヴァフォードでは?」

「…ん。流石だな」

 アリスの問いに老人は満足そうににやけた笑いを浮かべた。最もフードで良くは見えないが。

「なかなか楽しいことをしているようだが、俺の住処で勝手に暴れられても困るのだ。わかるか?迷惑

 なのだ」

「それは、申し訳ないとは思っています。しかし、我々の住む国の危機には此処にある「大剣」が必要な

 のです。ヴァフォード、お願いです。私たちを通して下さい」

「んーどうしようか」

 老人は近づいてくる。フードの奥に見える蜥蜴のような琥珀色の目が、アリスを捕らえる。そして、周りをうろうろし、品定めをしていた。

「まぁ、いいかな。あいつが気に入っている人間だと言うことがはっきりした」

「?では」

「勝手にするがいい」

「有り難うございます」

「しかし、本当にあれが要るのか?あれは此処にとっても大事なものだ」

「どういうことです?」

「片割れが教えてくれるさくっくっくっ」

 そう言うと、ヴァフォードは姿を消した。

「一体何が?」

 アリスは不安に駆られていた。

 アリスは、火口までどのくらい上かを見定めるため、マグマが煮えたぎる所が見える崖まで向かい、上を見上げた。其の先に、なにか光っている。其の近辺に、何かの空洞を見つける。そして、マグマの煮えたぎる底に、精霊が蠢いているような姿を発見した。

「何なのかな?」

「フィロッグ、此処から皆を飛ばすことが出来る?」

 レオノアが魔技に聞いた。

「それは一寸無理があります。済みません」

「残念」

 彼女は溜息をついた。

「先を行きましょう」

 アリスは皆にそう伝えた。

 空洞をくぐりぬけ、更に上と進む。皆はこの火山の蒸し暑さにモノを言うことはなくなっていた。汗があふれ鎧や服がべとつき不快を感じる。それでも、今は気にしている場合ではなかった。そして、最後の空洞とおぼしき光を発見したとき、J・Jは先行し、先の様子を調べて見た。

 それは、不思議な光景だった。大きな空洞に灰色のローブの老人と、質素な服を着た金髪の少年が、火口の底を眺めているのだ。不自然きわまりない。彼は、近くの岩に隠れ様子を見る。少年はなにか老人に話しかけている。しかし、マグマの煮えたぎる音が反響し何を話しているか分からなかった。敵なのか分からない。不安ながら、彼は戻っていった。しかし、少年は、ちらりと其の方向を見ていた。

「来たようです。オージィ・レイ」

「そのようじゃな」

 J・Jはそれに気が付かず、去っていき、

「不釣り合いな2人が居る。老人と子供だ」

 J・Jは皆にそう伝えた。

「どうも、もう1人古竜が居る」

「バフォードかしら?」

 アリスはそう言った。

「灰色のローブの老人がバフォードかも」

「もし、古竜なら、私たちを邪魔することはないわ」

 アリスは剣を鞘に収めそのまま突き進んだ。


 アリスが空洞の中にはいる。其の先には1人の少年だけがいた。

「貴方は誰?」

 少年はアリスにそう問いかけた。

「私はアリス。アイリス=ロウル=リクニア。ローレンス=リクニア王国々王の長女です」

 少年は彼女を見つめ、ほっと胸をなで下ろした。

「間に合って良かった」

「?」

 アリスは何か分からなかった。後ろから仲間がやってきた。

「何じゃ?この子供は?」

 ドルマは少年をみて不意にそう言った。

 少年は只、微笑むだけであった。彼は、火口を指さし、其の底を見るように促す。アリスは少年の方に近寄り、其の示された場所を見た。其の先には、マグマの底と此処を挟んで剣の刃が浮かんでいる。

「あれが?」

「貴方の求めている剣の1つです、人の子よ。英雄神は貴方に祝福を与えました。そして危険な戦いの試練を与えました。これからが貴方の試練の始まりです」

「どういうこと?」

「剣の刃を取ると封印が解け、破壊神との世界に直接つながり、長い間破壊神は化身の姿を取り戻します。本来、神々はこの世界には化身でしか出現できないのです。過去に我々が破壊神を元の世界に送り返したときに彼の化身の能力をこの火山に封印したのです。あの刃を使って」

 悲しい顔をし、マグマを見つめた。

「我々?まさか貴方が?」

「ええ、私がバフォード。もう一つの古竜です」

 アリスは、まさか古竜がこんな小さな子供と言うことに驚いた。

「ひょっとすると「最も邪悪なる者」とは、破壊神ヴェルヴァーザのことなのか!?」

 ドルマは少年に向かって叫んだ。

「間違いなくそうです。彼は、この世界の破壊を考えています。もし、剣の刃を抜くと、あの神が復活するのです」

 ドルマ達はどよめいた。

「じゃあ、神と戦えと言うのか」

「無茶よ!」

 アリスは、力が抜けたように膝を落とした。

「私は、国を滅ぼすために此処まで来たの?剣が有れば国を平和に出来ると思っていたのに」

 愕然とした表情だった。今までの事が無駄だったのかと自問自答していた。しかし、すぐに立ち上がり、

「私は国を元に戻さなければならない。私の使命でありそれが私の生きる道。此処で神と戦う事になるのならそれも喜んで受けましょう」

「アリス!」

 王女の迷いのない一言が、驚きはしたが皆を元気付けた。

「アリス、よく言いました。さすが友が祝福した人の子です」

 バフォードは笑った。

「私たちは、どうやってヴェルヴァーザと戦えばいいのですか?」

 アリスは、バフォードに訊いた。

 バフォードは彼女の鞘にある剣を指さしてこういった。

「セインの子を使い、破壊神の化身の胸に突き立てるのです。そうするともう一度封印することが出来ます」

「そう言うこと。前に言ったじゃないか。僕を此処まで連れていけばいいと」

 剣は、珍しくまじめに喋った。

「それが、僕の使命であり本来の仕事だったんだ」

「セインJr.」

 アリスは鞘から剣を抜き、そう言った。

「楽しい旅だったよ。今まで有り難う。さぁ、はじめよう。君の道を切り開くために!」


〈時が来た〉

 破壊神は、この空洞の隅に小さな〈門〉を開いた。この世界に姿を投影できない以上、この門を使って、この世界を見るしかない。其の先にはアリス達がいる。彼は感謝する気分であった。

〈まさか、カイン自身が封印を解く手助けをしてくれるとは笑える話だ。我の復活を待ち望んでいるのか?まぁよい。我の力とくと見せてやるさ。我に勝てるはずがない〉


 アリスは剣を構え、古竜から「飛行」の呪文をかけて貰った。

「良いですか、剣の刃を取ったらすぐに戻って下さい。破壊神は何処から現れるか分かりませんから。用心して下さい。そして、私は精神体をとどめることで精一杯になるのであなた達で、化身能力の具現化と戦って下さい」

「分かりました」

 アリスは答えた。そして、皆に笑いかけて、こういった。

「皆、本当に有り難う」

「アリス!」

「援護は任せろ!」

「約束どおり、生きて戻りましょう!」

 皆がアリスに返事を返した。アリスは、意を決して飛び降り、刃に向かっていった。其の後、仲間は自分のベスト配置に付く。レオノアとJ・Jがフィロッグを守るように固め、ドルマが崖の所で待機した。古竜は、〈門〉気づき、其の方向を睨んでいた。


 ゆっくりと下降するアリス。火口全体に緊張感を感じる。封印の魔力のせいであろうか。

「さあ、触るんだ、アリス。慎重に。気を付けろ」

「ええ」

 彼女は剣の刃に向かって飛び、ゆっくりと片手で掴んだ。すると、強力な電撃がアリスを襲った。

「うあああっ!」

「耐えるんだ、アリス!」

 彼女は電撃に体を焼かれながらも、耐えた。剣を強く握ったので、刃に身を切り、血が流れる。そしてそれが治まったとき、周りの魔力が薄らいだ。すると、刃がゆっくりと重みを感じ始めた。封印結界が解けてきているのだろうか。アリスは力強く刃を掴み、上昇していった。すると、下の方でマグマが激しく動き始めた。そして、大きな地震が起こる。周りの岩が崩れ始め、地に足をつけている者は立っていることが出来ない程だった。何とかして立ち上がり、アリスの帰りを待つ。地震が止んでアリスが戻ってきた。皆は安堵の息をつく。

 しかし、後ろから何かが、アリスを襲った。アリスは、勢い良く飛ばされ、岩壁に激突する。それは、筋肉隆々の人間の肉体に見えるが、肌が白く、目も鼻も口もない。

「アリス!」

「…おのれぃ!」

 ドルマが、この肉体に戦鎚をブチ当てた。しかし、手応えがない。

「何じゃこりゃ!?」

 物体は、ドルマを拳で殴りつける。ドワーフの鎧は砕かれ、そのまま吹き飛ばされた。

「うぐう」

 物体はその場で止まった。すると、近くで黒い穴〈門〉が開き、其処から不気味な声がした。

〈ははははは!有り難う。本当に有り難う!まさか、憎きカインの僕共からわざわざ封印を解いてくれ

 るとは!感謝しているぞ。おっと、お前達にお礼をしようじゃないか。魂もろともこの世から居なくなると

 いうすばらしい礼を!〉

「そうはさせない!」

 古竜は、印を結び〈門〉に向かって指さした。すると、〈門〉が徐々にしまっていく。

〈なに!解呪するというのか!小賢しい!我の復活を邪魔するなぁ!〉

「急いで下さい!瞬間的にヴェルヴァーザの関与を遮断しています。今のうちの肉体にセインJr.を突

 き立てるのです!」

 バフォードがそう叫ぶ。

 アリスは脳しんとうで動けなかった。レオノアが剣を持つと。激痛が走る。知性剣は使い手を選ぶために、そうした能力を持っているのである。

「今は、痛みに耐えるしかないわ」

「おい、止めろよ。君の体が持たなくなるぞ」

「どのみち、此処で倒れても一緒よ」

「確かに」

 女剣士は、剣を持って、突き進んだ。物体は拳で殴りかかってくる。彼女は、肩当てを壊されながらも剣で斬りつけようとするが、上手くかわされてしまう。そして、物体の足蹴りで吹き飛ばされた。そのまま彼女は気を失う。

「レオノア…」

 アリスの意識が戻った。目の前に、J・Jが喋る剣を持っている。フィロッグが彼女に軟膏をつけていた。

「ダメよ!J・J!貴方には剣は!」

「他に誰が居ると?」

 J・Jはにこりと笑って走っていった。

「J・J!」

 J・Jは、身のこなしの軽さで物体の攻撃をかわす。しかし、間合いに入ることは出来ない。全く隙がないのである。このままだと剣の魔力で自分が危なくなる。剣で物体の腕を斬った。物体はもだえ苦しみ始める。

「好機!」

 J・Jは止めに入ろうとした。しかし、物体は頭突きをいれる。

「なに!?」

 そのまま彼は、宙に浮き物体が彼を掴んだ。其の後、急所を爪で5回も切り裂き始める。其の後、物体は彼の首を絞めると、彼の体が燃え始めた。

「ぐわあ!」

「J・J!」

 物体は、J・Jを投げ捨てる。その後、古竜の方に向かっていく。バフォードは〈門〉を閉めているので精一杯である。

「皆」

 アリスはよろよろとJ・Jに向かっていった。火傷で見る影もないが、幸い、息がある。彼女は「癒しの手」で彼の火傷を治した。そして、剣を握る。

「フィロッグ…。彼らをお願い」

「アリス」

「何とかしてみせる」

 彼女は立ち上がり

「まだ私が残ってるわ!」

 と叫んだ。物体はやおらアリスを見る。

「破壊神の化身よ!貴方が本当に目覚める事は決してさせない!これが最後よ!」

 彼女は、そのまま向かっていった。

 物体は、突きを繰り出し始めた。アリスはセインJr.でかわしていく。一撃でも当たれば致命傷になる。隙を作る訳にはいかない。しかし、間合いに入ることが出来ない。肩当てが飛ばされる。腕や足に剣で切り裂くが、相手は苦しみの表情を見せることはなかった。このままだと自分が疲弊しやられてしまう。さらに、熱気の漂うこの場所がアリスの体力を著しく消耗させていた。彼女に疲れが目立ちはじめた時、肩を掴まれた。このままではJ・Jが受けた攻撃をうける。しかし彼女はそのまま間合いに入ろうとした。まず1撃目に鎧が砕かれ、首から血が噴き出す。しかし、アリスは突

 き進む。2撃めに腹をやられる。そこで彼女は動けなくなった。そのまま残りの攻撃をくらい、最後に物体が両手でアリスの首を掴んだ。

(私は、国を救えなかった…更に悪いことに世界を破滅させようとしている。何て愚かなんだろう。ごめ

 ん…ユーリ…)

 彼女に絶望の感情が芽生えた。しかし、一条の光を見た気がする。其の先には、英雄神であった。

《諦めるな》

 そして、神の隣に愛する弟がいた。彼はにこりと笑っている。それが何を意味しているか彼女は分かった。

「破壊神覚悟!」

 彼女は体が炎で燃えながらも、化身の胸にセインJr.を突き立てた。物体は藻掻き苦しみそのままアリスもろとも崖に転落する。しかし、アリスは一緒に落下せず、宙に浮いていた。

〈馬鹿な!我の復活が!おのれぇぇ!〉

 と、ゲートは弱々しく完全に消えた。

 バフォードは、彼女を引き寄せ、息を調べてみる。無かった。ぴくりとも動かない。彼は溜息をついた。気がついたレオノアが、その場に駆け寄ってくる。其のアリスの状態を見て、叫んだ。

「何故!一緒に生きて帰ろうと約束したじゃない!何故死んじゃうのよ!貴女はリクニアを復興させるって張り切ってたじゃない!どうして!どうして!」

 彼女はアリスの亡骸を抱き泣き崩れる。ドルマやフィロッグもJ・Jを担いでやってきて、無念の表情を浮かべる。剣の片割れは手に入ったしかし、其の代償はあまりにも大きい。バフォードは何も言わなかった。

「ん。終わったのか?」

 灰色のローブを着た老人がやってきた。

「あんたは何をしていた!」

 ドルマが老人を怒鳴りつけた

「封印の仕事じゃ」

 と、平然と答えた。

「そしてもう一つある。万が一のための保険を使うときがの」

 そういうと、彼は何か呪文らしい言葉を唱え始めた。すると、彼女の火傷や傷が消えていき、生気が戻ってきた。すると彼女は目を覚ました。レオノアが彼女に抱きつき泣き始める。アリスは状況が掴めていないようで、驚いている。

「もう大丈夫じゃ」

 老人は、満足そうに微笑んだ。

「あんたは、何者じゃ?」

 ドルマが訪ねた。老人はきょとんとしたような顔つきで、

「儂?儂は、ジーチャ・オージィ・レイ。只の隠居ぢゃ。其処の子供とチェスの相手をしているだけぢゃよ。何はともあれ、間に合って良かったわい。確かに、失うモノは多かったもしれんがの。生きていれば良いことはくるんじゃ。気を落とさず前を見て生きて行くが良いぞ」

 と答えた。

「ま、今日は色々忙しかったがな」

 彼は髭を手でなでていた。

「これと言った手助けは出来ませんでしたが、帰りぐらいは何とかしましょう」

 とバフォードは言った。

「麓で待ってる連中もな」

 この奇妙な2人は、アリス達の傷を癒し、其の後一休みさせた。アリス達は、今もまだ自分達が生きているという実感を信じられないし、目の前にいる2人の特異な存在も、信じられないでいる。只、目的の刃が手に入ったことだけは分かっていた。

 火山はいつになく静かになっていた。そして〈プール〉も消え去り、何事もなかった様に夜が更けていく。噴煙が無くなり、珍しくもロドス・カルデラに月が見えた。

 アリスは、この夜、ロドスの空を見上げていた。

 手には、剣の刃がある。これを手に入れるために、弟を失った。複雑な心境だった。弟の形見である剣を持って、涙を流していた。

「ユーリ、励ましてくれて有り難う。私は頑張るから…」

 その後ろで、少年が心配そうに見ていた。

(まだ、試練が続きますよ、アリス。今度は邪神と戦うのではなくて、貴女の人として、統治者としての器

 を試されるでしょう。今は、心と体を休めておきなさい)

 少年は、声をかけず、その場を立ち去った。


 マグマが煮えたぎるなか、セインJr.が力強い光を発していた。進むべき「道しるべ」の様に…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る