第7話 英雄の再来

 ロドス・カルデラを住処としている、オーク部族のパトロール隊が、いかにもおかしな物を発見した。彼からの日常でも観ない不可思議な色の泉である。彼からオーク語で話し合ってた。

「おめぇ、昨日雨でも降ったか? 同じ色の」

「いんや、いつも曇ってはいやがるが、雨はここのところ降っちゃいねぇし、ここだとこう言う綺麗ないろの水たまりはできない、すぐに水は吸われる」

「そうだが、こげな水たまりあるのはおかしい」

「そうだども」

「それにしても、きれいな水たまりだな」

 彼等の一人が、おそるおそる少し此の泉を指で触ってみた。

「うぎゃあ!」

 すると彼から一気に生気が抜け、ひからびてしまった。

「うわ! なんじゃこりゃあ!?」

「恐ろしい!」

「何かでてくるべ! 逃げるぞ!」

 彼らは、近くに岩影に逃げていった。ひからびたオークの死体は、塵となっていった。

 此はアメジストの色をした水たまり〈プール〉。普通の泉ではなくではなく、警戒心の強い動物は野性的な危険感値で一切寄りつかない。本来、異世界の入り口になる〈プール〉は滅多にこの世界に出現はしないのだ。

 プールから、何かが這い上がってきた。牙の生えた体長7フィートも有ろうかという蛙である。手には、水掻きの他に、鋭い爪が生えている。蛙とは思えぬおぞましい鳴き声を発していた。至る所から、彼らが出てくる。そのあとにも何かが現れた。大きなコウモリの翼を持った女性であった。彼女らは5人出てきた。

「我らの界王の命を全うするぞ。よいな」

「はい」

 此の奇妙な集団を見ていたオークのパトロール隊は、岩影に身をひそめては居たが、このまがまがしい物を見て悲鳴を上げてしまった。

 すかさず、蛙の化け物達は気づいて、体格に似合わない身軽さで追いついた。そして、彼らを掴み、噛み殺した。


 ツール達は銅の鱗をもつドラゴンのカルドラスに乗って、アリス達を探していた。

「今日の時点で、アリス達が砦にいると言うことは、こいつの翼で合流出来そうだ」

 ダーク・グラスは銅竜をなでる。

「奈落界からの住人~タナーリ~が現ると言うなら、俺は奴らを倒す事になるな」

 騎士ツールは、白銀に輝く剣の柄を握った。

「半日も飛べないぞ! 竜使いの荒い奴らめ!」

 カルドラスは溜息をつく。

「高い仕事だぞ! とっておきの冗句を1時間以上聞くだけではすまさないからな!」


 アリス達は、不毛で荒れた地面を歩いていた。フィロッグはカルデラの地図を広げて言った。

「私たちは、砦から数マイル先にいるでしょう。順調に火山にたどり着くには、丸1日かかるとおもいます。此のカルデラは、古竜~神龍~の居城であり、昔からのリクニア(昔はオールファルド)とローフヘイムの大カルデラ内の支配者であるのです。古から彼は畏怖の存在でした。祖先は彼を崇め、代わりに彼は私たちの祖先を、悪しき物から守って

 くれたのです。

「ある時、一人の若者がオールファルドから旅立っていきました。数十年後に彼は戻ってきました。其の姿は神々しく力強いと言われています。そして彼は1対1で古竜と勝負をしたのです」

 魔技が火山を指さした。

「無謀じゃな」

 と、ドルマは言った。

「普通、誰しもそう思います。しかし、彼は戦いに勝ち、古竜は彼を永遠の友としました。何故に彼が戦いを挑んだのか、どういう風に勝ったのか分かりません。しかし、彼はオールファルドの人々から【英雄】と讃えられ、オールファルドの王となり、私たちの心のよりどころとして今も見守っていてくれます」

 フィロッグがそう言った後、間をおき、

「其れが英雄神カイン」

 アリスが言った。

「はい」

「私たちは、英雄の剣【大剣】を手に入れ、平和を取り戻す為に此処にいるのです。どんな障害も越えましょう」

 アリスは厳しい表情で皆に告げた。

「必ず生きて!」

「うむ」

「分かってるわよ」

「もちろん」

「………」

 5人は互いに右手を重ね合わせた。

「行きましょう!」


 先頭にJ・Jがパーティから30ヤード先行して進む。相変わらず、噴煙が空を覆う。積もった火山灰で足が動きにくい。幸い、灰は今のところ降っていないので、視界は良好だ。

 火山方面に何かの群がいる。南から小さな空飛ぶ影も見えてきた。彼は、後列に其れを指さした。

「群があるのね?」

「オークの群かな?」

「南の空を飛ぶモノはドラゴンじゃないのか?」

 南の方から見える影が徐々に大きくなって、大体の形が分かってきた。まさしくドラゴンである。

「…銅竜? 何故こんな所に?」

 皆が首を傾げた。

「おーい」

 ドラゴンの背中から聞き慣れた男の声がした。カルドラスがアリス達の頭上を旋回してから、羽ばたきながら地面に降りる。灰が巻き起こり、皆がせき込んだ。

「おっと、すまない」

 竜が謝る。

 ダーク・グラスがひらりと竜から降りて来た。

「どうして?ここに?」

 アリスが駆け寄って吟遊詩人に訊いた。

「予定外のことが起こったので、護衛に来たのだ」

 と、吟遊詩人が言った。

「予定外?」

「ユーリルの死去は聞いた。これ以上王家を絶やすわけには行かない。そして、地上にいる人間では太刀打ちできない【存在】が出てきているのだ。そのためには俺達も付いていく」

「人間では太刀打ちできない者?」

「ああ、此の近辺は、異世界へ通じる〈プール〉が出来ているらしい。しかも奈落(アビス)界の門だ。悪魔が此処に現れている。先ほど遠くから見ていたが、どう見ても、あの群は此の世界の生き物ではない。奈落界の悪魔だ。」

 ダーク・グラスは答えた。

「俺は反対だ」

 J・Jが反対した。

「お前みたいな、宿敵の血を引いている奴と組める気はしない」

「じゃあ、お前は帰るがいいさ」

 吟遊詩人はさらりと答えた。

「喧嘩はよしなさい!」

 カルドラスの上から女性の声がした。シアだ。

「同感だ」

 今度は男の声である。そして、鎧を着ているのに、軽々と竜から降りた騎士をみて、アリス達は驚いた。天秤を持った竜の紋章。

「貴方は!」

「初めまして、王女様」

 彼は兜を取り、ひざまずいた。英雄ツール・ラルスである。

「俺達が先行して、あの群の正体を突き止める。王女達は其の後に付いてきていただきたくございます。そして、私が殿下をお守ります」

 ツールは、そう言って、剣を胸に掲げる。誓いの印だ。

「有り難う、騎士ツール」

「J・Jと言ったね、分かってくれる?」

 シアが、カルドラスから降りてきて、彼を促してきた。

「私からも、お願い」

 アリスが、言う。

「分かりました」

 J・Jは渋々承諾した。

 ドラゴンは、遠くの群が小さくなっているのを目撃する。

「奴ら、火山に向かってるぜ」

「急ごうか。何故火山なのか分からないが」

 3人は、再びカルドラスに乗り、飛び立っていった。

「気を付けろ!」

「あなた達も!」

 アリスは手を振って見送った。


 大きなカエルの群は、火山に向かっていく。コウモリの翼を持つ女達は、其の頭上を飛んでいた。

「アレを」

 一人が後ろを指さした。ドラゴンが見える。

「愚かな下等生物が来たか。わらわは、先に火口に行く。奴らを始末しろ」

「は」

 3人の女は、向きを変え、異形のカエルも全員ドラゴンに向かって歩き出した。

「きたぜ」

 カルドラスが言った。

 そのままカルドラスと共に降りる。

「さて、奈落界の化け物め」

 ツール達は、竜から素早く降りて、白銀の剣を抜き走っていった。カエルは、ツールを囲み総攻撃してくる。しかし、彼は臆することなく突き進んだ。

「魔界の生き物め!己の世界へ帰るがいい!」

 白銀の剣『ハルク』を構えると。ハルクが喋り始めた。

「マスター。敵ですか?」

「そうだ、ハルク。お前の力借りる!」

「分かりました」

 ツールは剣を一振りして、雄叫びをあげて立ち向かった。

 そして、先頭のカエルの化け物に一撃を与えると、其のカエルは灰となってしまった。驚く化け物達。

「無に消えるしかないぞ!!」


 ダーク・グラスは降りた後にリュートを取り出し、歌い始めた。

 

  空高く舞い上がれ!

  鳥のように!

  空を自由に飛べる翼を我に与えよ!


「奴は『呪歌使い』だ。唄わせるな!」

 女悪魔は一斉に、魔法の矢を放った。が、彼には全く当たらなかった。

「何! ハーフなのに魔法を弾くのか!?」

「其の通りだよ、長年の修錬……お前達には関係はないから省略させて貰おう」

 吟遊詩人は宙に浮かびあがる。

「さて、剣で相手しようか?竜に噛み殺されるか?」

「ふざけるなぁ!」

 1人悪魔が叫んだが、左胸に矢が刺さった。

「馬鹿な?」

 其の悪魔は絶命し、そのまま地面に激突した。

「おお」

 吟遊詩人は下を見て、シアが弓を構えているのを確認した。

「下の女に射抜かれるかだな」

 彼は不敵に笑った。


「数が出てきても無駄!」

 一撃で、化け物が灰と化す。ツールは鬼神のごとく剣で斬りつけていく。しかし、化け物は空間から穴をあけ、同じような化け物を呼び出しているのだ。

「凝りん奴らだ!」

 ふと、後ろが暗くなったのを感じ、彼は横に飛び退いた。後ろにはカルドラスがいたのだ。息を大きく吸い込み、息を吐いた。凄まじい轟音と共に酸の息が化け物達を溶かした。吐息に逃れた化け物もいるが、そのまま逃げていく。

「後、1匹だけか?」

 カルドラスは火山を見て言った。

「乗せていってくれ」

 ツールは竜に頼んだ。

「あいよ」

 軽く、彼を片手で持ち上げ、背中に乗せ飛び立った。

 吟遊詩人が剣で斬りつける。1人はそのまま絶命した。しかし、もう1人の悪魔が「皮膚石化」をかけているので、全く傷を与えられない。

「やっかいだな」

「アレをすぐかけられると消耗戦になるわね」

 シアの放った矢も当たらなかった。

「くっ!」

 悪魔は、瞬間的に消えたのであった

「くそっ。後少しだったのに!」

 ダーク・グラスは舌打ちした。

「ツールを追う。シア君はアリス達を守ってくれ」

「分かったわ!」

 2人はその場で別れた。


 1人の悪魔は、そのまま火山へと向かっていく。

「おお! 感じるぞ感じるぞ! あの方の波動が、此処の古竜がなんだと言うのだ。ん?」

 もう1人の悪魔が姿を現したのに気づいた。

「なかなかのやる生物です」

「で、おめおめ逃げてきたのか」

「うう」

「ふん、後でどうなるか分かっているだろう?」

 悪魔はそのまま火山に向かって行こうとするが、後ろを振り向いた。

「相手してやるか」

 竜が彼女らに追いついていたのだ。

「悪魔よ! 我の剣と交えるつもりが有るのか!」

「対等と思っているのか! 馬鹿め!」

 すぐに追いついたのは、ハーフエルフの吟遊詩人であった。

「ほう、半闇エルフもいるか」

「何故に淫魔がいる。ひょっとすると、それは移動上便利だからだろう? 本体ではでかすぎるからな」

 ダーク・グラスが彼女の真の姿を推測する。

「ん。気が付いたか!ならば望み通り本当の姿で殺してくれる!」

 地面に降りた悪魔は、瞬く間に大きな腕が6本ある上半身が女で下半身が蛇の姿になった。

「マリリス! 勘は当たったようだ、出てきたタナーリの群では指揮系統が少なすぎる」

「これは、やっかいだな! バロールに近い強さだぞ、爆発しない分宝一杯でいいんだけどよ」

 ドラゴンと吟遊詩人は身構え、対悪魔戦の構えになる

「さぁ! どうする」

「言わずと知れたこと! お前を無にしてやる!」

 ツールは、カルドラスから降りて地面に足をつけた。吟遊詩人はリュートを奏で始めた。リズミカルなマーチのように。

 ツールは其れに応ずるかのように鼓舞されていった。逃げてきた悪魔は、そのまま逃げていったが、カルドラスが逃さなかった。そのままつかまえられて、握りつぶされてしまった。

 マリリスが念じた。ツールを『念力』で動きを封じようとしたのだ。しかし、ツールは動じることもなく、走って来た。

「ならば!」

 ツールがたどり着いたときに、まず手に持っている斧で攻撃した。ツールは其れを『ハルク』でかわす。マリリスが次に、ロングソードで横から斬りつけるが、彼の魔法の鎧に弾かれてしまった。

「そんな馬鹿な!」

「悪魔! 滅せよ!」

 ツールは斬りつけた。マリリスは激痛を感じるが、剣の込められた強力な魔力効果に抵抗した。

「ふざけるなぁ!」

 尻尾でツールを跳ね飛ばした。巨体の騎士の体が空を舞う。彼は地面に叩き付けられた。

「下等な生き物の分際で!」

 マリリスは怒りを露わにし、今度は演奏中のダーク・グラスに向かおうとしたが、

「俺はまだ生きている」

 と、ツールは起きあがった。

「しつこい!」

 もう一つの剣で、上から叩き斬る。しかし、難なくツールはかわして、一撃を与えた。

「消え失せろ!」

 『ハルク』はマリリスの新造を突き刺し、一気に魔力があふれ出る、邪悪な敵を倒す時に洗われる「スレイヤー」の効果が発動したので。

「馬鹿な! 我らの野望が! 我らの神の復活が」

 マリリスは灰となって行く。

「必ず、お前達を殺してやる……絶対に!」

 と、言い残して。

 ツールは、剣にもたれかかるように立っていた。カエルとの戦いで傷を負っていたのだ。今や、立っているので精一杯のようだ。

「ご苦労だったな」

 親友がねぎらった。

「お前も何かしろよ」

「ん? やったぞ。呪歌を唄ったぞ、あれは歌うの大変なんだからな?」

 吟遊詩人はパイプ草を取り出し、2つのキセルに其れを詰め込み、一つを騎士に渡す。ツールはキセルを受け取り、火を付けて貰って一服する。

「美味いな」

「やっと此の味が分かったか」

「お前は良いのか? 喉やら肺に悪いと聞くんだが?」

「大丈夫だ。ちゃんとした医療のパイプ草だ、ハーフリングやアルケミスト達の努力の賜でな。栽培地の『中地』から取り寄せた」

「はっはっはっは、苦労したろうに」

「お、アリス達がやってきたぞ」

 吟遊詩人はシアとアリスの姿を見て言った。


 数時間後、火山の麓まで一行はついた。

「有り難う、ツール、シア、ダーク・グラス。そして、カルドラス。あなた達がいなければ、私たちはあの異世界の者達の餌食になっていたでしょう。」

「ありがたきお言葉」

 ツールは恭しく礼を言った。

「これからは、私たちだけで行きます」

「何故!」

「此が私にとって、試練で有るからです」

「……御意。無事に帰ってきて下さい」

「もちろん」

 アリスは3人に、微笑みかけた。そして、いつも共にしている仲間に向かって、

「行きましょう、ロドス火山の中へ」

 と、言った。


 火口には、悪魔達の死体が転がっている。其の中央に、老人と少年がいた。

「本気ですね」

「まったくじゃわい。」

「まぁ、貴奴らが登ってくれれば問題無しじゃ。のう、バフォード」

「しかし、ヴァフォードが…」

「あいつか、嫌がらせが好きじゃからなぁ。昔の一つのお前と同じで」

 バフォードと言われた少年は溜息をついた。

 火口に邪悪な気配を強く感じるようになった。

〈復活まで、後わずかだ…くっくっくっくっく〉

(絶対に復活は阻止しないと…)

 バフォードは火口の底を睨んでいた。

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