第6話 火葬・離別
ロドス火山のカルデラ地帯に竜の形をした大きな湖がある。その目に位置する小島に奇妙な家が建っている。その形は6面体のサイコロ。窓が各面につき2-5つまで付いている。天井には6つ規則正しく2X3列で並んでいるのだ。入り口となる「5」の面は、中央の窓をうまく利用してドアを作っている。こんな偏狭の土地に何故有るのか?部屋の中は外観から見るより、結構広い。どこかの研究室らしい部屋に眼鏡をかけて上等な灰色のローブを着た老人が居る。この老人は水晶球を持って、何かを見ている。
「とうとう、この日が来たか……。彼女はこの試練に耐えられるだろうて。只、誰しも予想を越えることを体験できよう。しかし、本人がそう思っているだけじゃな。まあ、全ては運命じゃて」
と、独り言を言っていた。その水晶球には、アリス達がロドス・カルデラの外、山の麓にある砦に居るところを映し出していた。
アリス等は、未だに人間と抗争しているオークとの防衛戦に参加するため、この砦の領主・シュバルツと話をしているところだった。
「王女様が、我らの手助けをして下さること大いに感激いたします」
彼が恭しく彼女に礼を言った。彼は何時来るか分からないオーク軍に備え、フィールドプレートを着たままである。しかし、その鎧は、戦いの傷や染みついた返り血で、痛んでいる。彼自身、否、此処にいる兵士全員は疲弊しているのだ。其処に王女、若しくは英雄が来れば、士気もあがる。願ってもない彼女の来訪には彼は驚いていたし、本心から喜んだ。
「ご苦労様。あの時から、貴方達の守りがなければ、またオークとの戦争が起きることでしょう」
「ありがたいお言葉」
「今の、戦況を教えてくれませんか?我々は、全力を尽くしたいのです」
「後、半時より軍議がございます。其れまでゆっくりされてはいかがでしょうか」
「分かりました」
アリスは、自分はともかく、仲間が旅の疲れで参っていることを知っている。そして、軍議に参加するのは自分だけで良いのだろうと考えた。
「皆は、奥で休んで良いわよ」
アリスは仲間に告げた。
「戦うときには起こして下さい」
と魔技・フィロッグは言った。
「では、儂の拳で起こしてやろう」
とドルマが指を鳴らす。
「ははは」
苦笑いするフィロッグであった。
「儂は、オークどもを蹴散らすのにうずうずしているのじゃ!儂はやすまん!」
「戦いの前にへばっていたら、大変よ。さっさと休みましょう」
女剣士・レオノアは皆に忠告した。
一方、砦の城壁には、ユーリルがいた。望遠鏡であたりを見渡す。周りは森があり、そこかしこに煙があがっている。オークの野営地であろう。また、戦場となる砦の地面は、オークや人間の血で黒く染まっている。城壁には、油が燃えた跡が生々しく残っている。兵士達が、修繕作業に追われているのも見える。
「数は、4-500か。オークの軍としては、中規模だ。多分、前は、1000以上はいるだろうね。良く此処まで減らせたモノだね。いや、此処まで持ちこたえているよ」
と、感心するユーリル。
オークは、人間に次ぎ数が多く、非常に好戦的である。また、ドワーフに匹敵するほどの鉱夫で、粗野ながら軍事のプロである。人間が彼らと共存できるかというとそうではなく、彼らは独占欲が強く、エルフやドワーフなどと敵対しているし、残忍で極悪な強奪なおどを生業とするのである。しかし、或る程度の規律~掟と強さの支配~を持っており、戦いにおいては狡猾な戦術を用いてくる。攻城戦となれば、ラム(城門破りの丸太)や梯子などを用いてくる。そして、カタパルト(投石機)などを使用するだろう。土地的には、平原部が狭いので、大きなカタパルトではない。しかし、岩ではなく、油樽をこれで投げるならば、戦況は大きく変わってくるのだ。
「オークの戦術を馬鹿にしていない事の証拠だ。さて、偵察でも行くかな」
彼は、城壁を飛び降り外に出て、森の中に消えた。
軍議がはじまり、皆がオークの数は半減していることと、一踏ん張りすれば、オークを撃退できると判断している事を話し合った。主要防衛ラインは、王女達が守ることになった。其処は城門で、危険な場所である。むこうは、未だにこの砦の制圧を諦めているわけでは無いようで、数が少なくなった分、守りが厚くなる所~弱い部分~を叩いて、短期決戦に持ち込むであろう。各城壁の攻撃は囮部隊になる可能性が強い。
「ほかに、質問はないかしら?」とアリスが、皆に尋ねた。
「何故、オークが数を減らしてまでここを狙うのか良く解らないわ?」
レオノアが口を開く。
「うむ、それはですな」
シュバルツが席から立ち上がって、話し始めた。
「数年前、この国は闇エルフとの戦いがあるのはご存じでしょう。奴らが、オークを率いて人間の住むこの地を襲ってきたこと、ここから始まります。今我々が拠点にしている砦の近くに、闇エルフのすむ地下空洞があるのです。過去に出てきた闇エルフの大半は、日光をある程度克服していた者達だったのですが、戦うにつれ数が少なくなったようです。その時が勝利のチャンスでした。今、奴らが出来ることは、オークを使いこの地下空洞付近から我々を追い出そうとしている訳です。オークも、奴らの恐ろしさを知っていますから、嫌々ながらでも戦ってはいたのでしょうが、元々は好戦的な存在ですし、この近辺を支配できれば、我々に対抗できる事とほかのオーク氏族との抗争に有利の働く事をしっているのです。それに、表立って闇エルフの活動はないにせよ、まだある程度の援助はあるのですから」
「例えば?」
「強力なオークや亜種オルグ、オーガー、トロールの補充などですね。武器などは、何故か弱体化するのです。物によったら塵になりますし、オーク達は戦争に有利な武器を使いますから。」
「強力なオーク?」
「我々と同じ能力者です。地下空洞で奴隷だったのでしょうが、たまたま能力を持っていたりしたかと思われます」
「権力闘争がおこるでしょ?」
「そうですね。奴らは今が弱体化しております。しかし、砦は我々のそれより堅固です。」
「では、守りにはいるしかないの?」
皆が考えている間に、会議室にユーリルが入ってきた。彼の服は汚れ、何回か戦った様である。傷や返り血が付いている。
アリスは弟の顔を見て、
「何かつかんだ?」
「囲まれてるね。オークだけじゃない、ノールもいるよ。この近辺の非人間を結集している。これで最後にしたいらしい」
彼は客観的に返答をした。さらに続けて喋る。
「話の途中から聞いていたけど、今の族長は能力者のようだよ」
その言葉で、砦の士官達はどよめいた。
「静かに!いくら族長が変わったとしても、オーク軍が強くなったわけではありません。闇エルフは、あれらを捨て石にしているのみ。士気は無いも同然です!」
アリスは彼らを制し、静めた。
「王女の言うとおりだ」相づちを打つシュバルツ。
「この戦いに終止符を打ち、この地に平和を!」
アリスは、檄を飛ばした。
夜、ユーリルは傷を癒したあと、周りを警備していた。手には永久光をつけてもらった、光を調整できるカバー付きランタンを持っている。城壁の兵士達は今までの疲れから、眠っているように見える。いや、寝ているに違いない。
先ほども、兵士はいらだちがつのり喧嘩をやっていたのを覚えている。どちらも、必死なのだという事が、見て取れる。
“精神的に参っている”
彼は、何か不安を感じていた。自分も含め、姉や仲間に何か起こるという。ユーリルはそれが気になり寝ることができない。傷は癒えたが疲れはとれてはいない。彼は、壁にもたれかかり夜空を見上げた。星が一面に広がっている。
「この胸騒ぎはいったいなんだろう?神経質になっているのか?」
ユーリルは、何とかしてこの不安を取り除こうと頭を振る。しかし、ぬぐい切れない。
「今考えても、だめだ!」
と、自分に言い聞かせることにした。そして、また歩き始める。
その時である。城壁の上に影が走った!ユーリルはそれを見逃さない!何者かが、砦の外から入って来た?
彼は、城壁にあがる階段をかけのぼる!
その先には、3人の影がいた。黒いタイツとマスクそして、床には兵の死体。ユーリルが登ってきたときに、一人の影が彼の足下めがけてハンドクロスボウを放つ。ユーリルはそれをかわす。尽かさず二人が横から短刀で刺そうとするが、ユーリルはランタンで一つを受け止める。もう一方は、紙一重でよけた。刺さったら毒にやられる。
短刀によってランタンのシャッターが壊れ、魔法の光があたりを照らした。星明かりから、日中の様な明るさになる。周りに異常をを知らせるほど十分な効果だ。ユーリルはランタンを正面の影の手に投げつけ、ハンドクロスボウを落とそうとしたが上手くよけられた。その後も執拗に攻撃されるが、服を切るのみに終わる。彼もまた長剣を抜き間合いをあける。その間に、他の兵士が駆けつける。数は5人。
影は、不利と考えてそのまま撤退するが、ユーリルは一人を剣の平で首を叩いた。よろめく影。しかし、残り2人は逃げた。
「こいつらは何者だろう?」
気絶した影のマスクをとってみる。人間である。もし、オークからの影ならハーフオークの暗殺者を使う。
「僕か、姉さんを殺しにきた暗殺者?どこかの貴族の陰謀か?」
ユーリルは、これが胸騒ぎの理由かと、納得するのであった。だとしたら、姉さんが危ない。
彼は急いでアリスの元へ走っていった。
ユーリルの予想は当たった。アリスが眠る部屋に入れば、すでに暗殺者が一人アリスと知能剣セインJr.によって殺されていた。彼女は、肌着だけで戦っていた。美しい素肌に傷がつきそこから赤い血が流れている。
「ユーリル」
彼女の息が荒い。
「姉さん。大丈夫?」
弟は、姉に近寄り抱きしめた。アリスは剣を落とし、ユーリルにもたれかかって気を失った。熱がある。毒が回ってきている?ユーリルは急いで傷口に口を当て毒を吸い出し吐き出す。そこから数分後、ドルマがやってきて、解毒の祈りを捧げ、難は逃れた。
「うむ、迂闊じゃった。しかし、祈りを用意しておいてよかったわい」
ドワーフは、そう言った。
「全くだね。今までの道中に刺客がこないのが不思議だったんだ」
「経験者は語ると言う事かの?」
「ああ」
「例の刺客、自害したそうじゃ。当然と言えば当然だ」
ユーリルは、気を失っているアリスを抱える。ドワーフは布を持ってきて彼女に掛けた。
「弟のお主が守ってやれ。儂は扉で見張っておくから」
「ありがとう」
と、ユーリルは自分の部屋に戻っていった。
ドルマは、落ちた剣を見つめた。剣は、カタカタとS.O.S.を出している。
「おまえを持つことが出来んので、朝までがまんしろ」
「ひ…非道い」
早朝、アリスは目を覚ました。傷は治っている。ベッドの横で、ユーリルが腕を枕にして寝ていた。扉の向こうでドワーフのいびきが聞こえる。アリスは、安堵のためか涙がこぼれ落ちていた。「あ…ありがとう」
ユーリルは、彼女の涙が顔に落ちる事で目を覚ました。
「姉さん…。よかった」
弟は微笑んだ。
「ユーリル」
姉弟は抱きしめ合い、しばらく動くことはなかった。
安堵している場合ではない。そんなことは分かっている。しかし、アリスはこうしていたかった。これから起こる試練の数々に耐えられるのは、仲間がいる事以上に、愛する弟が側にいることなのだ。たった一人の肉親……。
やがて、戦闘の音が聞こえてきた。投石が壁にあたった振動がここまで来ている。砦は騒然となる。叫び声が、剣戟が聞こえる。姉弟は、顔を合わせ頷いた。ユーリルはアリスの部屋に行き、服と鎧を持ってきた。剣の方は縄で付けられ引きずられてきた。ユーリルはセインの抗議に耳を貸さず、姉に服を渡すと部屋を出ていく。数分後、アリスは鎧を着て剣を携えて出てきた。
「いきましょう」
いつものアリスであった。
血のにおい、喧噪、熱気、そして殺気があたりを支配していた。鋼が肉を裂き、骨を砕く。平穏とはほど遠い混沌の世界であった。次々と、城壁の兵士がオークの毒矢で殺されていく。人間も負けじと城壁から登ってくるオークの脳天に武器を叩き付ける。落ちた者は、そのままオークにリンチを食らって絶命した。砦は、完全に囲まれた状態である。一見不利に見える。
アリスが、城門前に着くと、仲間が安堵した顔をした。
「ユーリルの言う通り、城門から突撃するみたいよ」
城壁の上のレオノアが大声で報告した。向こうでは、ラムを担いだ20体のオークが雄叫びをあげている。それを守るかのように、その倍以上のオークが火矢の雨を降らしている。兵士達は弓で応戦している。
「フィロッグ!」
ドワーフが叫び、城壁用階段に向かっていった。
「分かっていますよ」
魔技は、黒い玉をポーチから取り出し、呪文の詠唱に入った。矢の雨の中で平然と呪文を唱えている。矢は、彼に命中すると思われる数インチのところで弾かれた。すでに、対投射武器防御結界を張っていたのだ。
「フラド・ギャニアス・ベルゼソー・アスサ-ド!」
フィロッグは黒い玉を握りしめた。その後、彼は玉を握りしめた手でラム隊を指さす。その指から赤い光線が発射された。ラム隊にその光線が届いた瞬間、オーク達は爆音と業火に包まれた。オークの絶叫は、爆発の轟音にかき消される。そこに残ったのは、オークの消し炭と真っ黒に焼けた地面だった。
レオノアは、オークが数体逃げていったのを発見した。
「すごいじゃない!」
「当たり前です」
そこには、いつもと違うフィロッグがいた。
しかし、向こうには投石器の攻撃があった。二人がいるところに岩が命中する。さすがの結界も、大型の兵器の攻撃には効果がない。その命中で、城壁が壊され、歩いてでもいけるようになってしまった。城壁の兵士はほとんどこの岩に押しつぶされている。
運良くレオノアは岩をかろうじてよけた。が、衝撃と、岩が砕けたときの破片で、傷を負っている。たどり着いたドルマが、治癒薬を取り出して彼女に渡した。
「フィロッグは?」
「分からないわ」
「つぶされなきゃよいが」
「レオノア~。大丈夫ですか~?」
彼の声がかすかに聞こえる。上手くかわせたようだ。しかし、城壁が破壊されて、二人の反対側にいる。砂煙でよくは見えないが、彼は、しりもちを付いて手を振っている。
「私は大丈夫です。まだ、攻撃を続けます。あなた達は下に戻って迎撃してください!」
「分かった!レオノア歩けるか?」
「大丈夫」
レオノアは治癒薬を一気飲みをした。痣や、かすり傷が、見る見る内に治っていく。そして、二人は走り出した。フィロッグは、赤い玉が数多く付けているネックレスから一つ玉をちぎった。それを投げると、落ちた地点で爆発した。
「本番はこれからです」
アリスは、ファランクス隊を前に出し、この大きな入り口から入ってくる敵に備えた。彼女は彼らの先頭に立ち、鬨の声をあげている。それに呼応するかのように、兵士は前進する。オークの突撃隊が入ってくるやいなや、アリスはセインJr.で一人、二人と斬りつけた。まるでオークの鎧は布地のように切れていく。剣は、血は付くことはなく、白銀の輝きを失わない。 アリスの剣技は、華麗であり、強烈な一撃を加えていた。鎧を付けていないような、軽やかなフットワークで敵の攻撃をかわし、強力な上段の攻撃を行う。オークの肉体は、骨ごと綺麗に斬られている。
「あれが、リクニア王家の剣技」
士官が彼女の剣舞に、感嘆していた。しかし、見とれているわけではない。彼も一介の戦士である。
彼女の攻撃をかわしたオークは、ファランクス隊と交戦している。押し切られそうになるところを、ドワーフが転がって割り込んだ。反動で飛び起きたときに戦鎚を振り回す。オークはその一撃で動かぬ肉塊と化していった。
「努号大回旋じゃ!腐れオークども、儂の鎚の餌食になれぃ!!」
ドルマは、戦鎚を掲げ叫んだ。オーク達は一寸とまどったが、そのまま数の暴挙に出る。ドルマは数に押しつぶされそうになるが、横からレオノアがオークを片づけてやってきた。
長剣の一撃で、斬りつけ、逆手の短剣で急所を突く。もしくは、長剣を使って攻撃を受け止め、短剣で武器を落とす。死体には、十字のように見える傷が付いていた。
彼女は、ドワーフと合流し、背中をあわせた。乱戦状態の中、オークに囲まれたようだ。
「レオノア、お主の『十字剣』は、いつも綺麗じゃな」
「あら、ドワーフにはそんな言葉が出るとは思わなかったわ。明日は雨が降るわね」
「やかまし。人が誉めてるのにそんな返事あるか!」
オークが叫びながら飛びかかってくる。しかし、彼らの敵ではなく、あっさりと倒されていく。
「何匹倒せるか競争しようか?」
レオノアはドワーフに訊いてみた。
「いいじゃろう。勝ったら、酒をおごれ」
ドルマは、強力な一撃をオークに与えた。オークは吹っ飛び城壁に当たって、ひしゃげていた。
J・Jは、この乱闘の中をかいくぐり、士官級のオークの後ろに回り、急所を突いた。他のオークは何が起こったのか分かっていなかった。彼は、第四階位上級透明をかけてもらっている。時間が切れるまで、彼は姿が見えない。彼は、アリスの影として、彼女のしとめ損ねた敵を始末している。
もし、アリスが危機になれば、彼が水路からの強襲(バックスタッブ)で助けるのである。しかし、その心配は無用のようだ。黙々と敵をしとめるJ・Jに何か殺気を感じた。その殺気の出所がはっきりした。
いきなり、自分の目に前に両手斧の刃が振り落とされる。かろうじてよけた彼は、その方向を見た。普通のオークより強靱な体をしており、オークの貧相で汚らしい鼻の突いた甲冑をきた人間だった。人間とオークの間でできたハーフオークである。この忌まわしき種族は、透明の存在を見極めることが出来るほど、知能の高い能力者なのか?いや違う、片目は目ではない。何かの宝石だ。
「そこの出来損ないめ!細切れにしてやる!」
(やっかいだな…)
J・Jは、慎重にこの敵の間合いから離れた。
ハーフオークは、J・Jの居場所を知っている。そのまま追い続け、斧を振り攻撃する。J・J紙一重でよける。受け止めることは無理だ。弾かれる。不意を打つことは出来ないとなると、斧が攻撃できない懐に入るくらいか。彼は注意しながら、アリス達を見た。彼女達は、まだ戦ってはいるが、疲労していることは確かである。彼はすぐさま反対方向に走った。
「逃がすか!」
ハーフオークは、J・Jを追いかけた。J・Jは森の中にきえた。
そのまま森の中に入ったハーフオークは、気配を読みとろうとしている。しかし、J・Jも情報部の端くれ、盗賊の能力には、自信があった。木に登っていた彼は、そのままハーフオークに飛びかかり、片目の宝石を抜き取った。
そのまま陰に隠れる。ハーフオークの苦悶する声が、下品に聞こえる。
「やはり、ジェム・オブ・シーイング(透視の宝石)か。結構な宝物だな」
ゆっくりと、この魔法の宝石を眺めながら、敵の後ろにまわった。そして、急所に一刺し。ハーフオークは絶命した。
「族長は出てくるのか?」
ちょうど、彼にかかっていた上級透明が解けた。
城門の攻防は、人間側に有利になってきた。このまま、死守できると誰もが思っていた。しかし、遠くの方で轟音が聞こえることで、その希望が失われることになる。
オーガーやトロールがそれぞれ50体、突撃してきたのだ。地響きが起こり、兵士達は恐怖した。オーガーはそのまま門や、崩れた城壁から入ってくる。トロールは、城壁にぶち当たって倒れるが、素早く起きあがって兵士達に噛み付き、そのまま食べていた。オーガーは大きな棍棒を振り回し、人間達をミンチにしていった。いきなりの蹂躙が兵士達の士気を低下させていった。
アリスは、この光景に怒りを覚え叫んだ。近づいてくるオーガーの腹部に剣を深々と突き刺しそのまま下まで、切り下ろす。傷口から内蔵が落ちてくる。血しぶきが彼女の体にかかる。そんなことは彼女にはおかまい無かった。そのオーガーが倒れた後、次々に周りのオーガーを仕留めた。その数、5分で6体。最後の一匹は倒れざまに、脳天に一撃を食らって絶命している。次はトロールだ、アリスは群がってくるトロールの足を胴から、切り離した。トロールは歩くことが出来なくなったが、離れた足が蹴り上げてくる。それに当たって倒れるアリス。そのままトロールはアリスにのしかかり、彼女の腕を押さえ、涎が滴り血生臭い大きな口を開け、アリスの左肩に噛み付いた。アリスは激痛のあまり言葉にならない叫び声をあげた。
彼女は、意識を保ちトロールから逃れようともがく。しかし、噛み付かれたままなので激痛が走る。そのまま、アリスは意識を失いかけた。トロールがいきなり苦しみだした。アリスから離れ、のたうち回っている。よく見ると、トロール共が燃えている。
城壁にいた弓兵達が、ユーリルの指揮の元、火矢を射撃していたのである。
(間に合った)ユーリルはアリスが、起きあがるところを見て安堵した。
アリスは、城壁の援護を見てから、立ち上がる。他の兵士二人が彼女を支えてくれた。「ありがとう」と言うとそのままオークの本陣へ向かっていく。
「王女様!そんな体で何処へいかれるのです!」
「族長を仕留めます。それが出来れば、この戦いは終わります」
「無謀です!」
「私なら大丈夫です!必ず生きて帰ります」
「またんかい」
彼女を止めたのは、ドルマだった。後ろでレオノアが、オーク軍と交戦している。
「そこまで先陣切って、進む必要はない。仲間がいることを忘れたか?」
ドルマは、彼女の傷に手を当てて祈りを捧げた。傷が塞がっていく。
「お主らしくないぞ」
と言って、彼がそのまま先に進む。
「貴方は何処へ?」
「儂は、今レオノアと勝負しとるんじゃ。今35体39で向こう側有利での」
「で、それで族長を倒そうと?」
「そうじゃ。族長は100体分として数えるんじゃ」
その返答にアリスは呆気にとられた。
「あはははは」
「これで落ち着いたか?」
「ええ、ありがとう。でも、それは貴方でも無理よ」
「分かっておる。だから25体分で我慢しようとしとるんじゃ」
ここにいるのはアリス、ドルマ、二人の兵士で4人である。この二人は、なかなかの手練れらしい。二人ともチェインメイルを着ている。そして、トゥハンデッドソードを持っている。サーコートには、英雄神の紋章がかかれている。二人とも神官戦士のようだ。
「向こうからやってくるようです」
神官戦士の一人が言った。
森の奥から、10人の甲冑と大盾、戦斧を持ったオークより一回り大きいとオルグ・ロイヤルガードと、屈強な肉付きを持った甲冑と両手斧を持ったオークが現れた。甲冑には、オークの紙族長を表す首飾りを付けている。
向こうは、獣の叫び声を発していた。
「まとめて、殺すと言っておるの」
ドルマが通訳した。
「ならば返り討ちにしましょう」
アリスは、セインJr.を構えた。神官戦士とドルマは、それぞれの神に祈りを捧げ、神の祝福を得た。
J・Jは、光景を木の上で見ていた。
「無茶なことを……」
自分はどうやって参戦するかを考えていた。
しかし、この後ろで待機しているオーク100匹をどうするかが重要だった。向こうはアリス達にまかせて、こっちの片を付けよう。
手持ちにあるのは、火炎瓶が10本、黒塗り顔料…、ロープに盗賊工具、透明化の指輪、耐火の指輪…、飛行術の薬。ランタン用の油瓶10本、ほくち箱。
「あまり、森を焼くわけには行かないが、四の五の言っていられない。しかし、只の護衛がここまでになるとは、俺は何やっているのだろうな」
と、彼は少し笑っていた。しかし、すぐに真剣な顔になり、
「…仕事だ」
木の枝を伝ってオークの大隊の上から、火炎瓶の空襲を開始した。落としては、別の木に隠れ、またそこから別の場所で、火炎瓶を落とす。それを繰り返した。
いきなりの攻撃に、慌てふためくオーク達。攻撃しようにも、頭をぶつけて互いに喧嘩を始めてしまう。その追い打ちに、炎に包まれる。
煙たかったが、いま下では士気が崩壊し、逃走や喧嘩をする役に立たないオークだけとなった。
アリス達は苦戦していた。
オルグ等は単純に突撃するわけではなくシールドで囲み、押しつぶそうとするのだ。いくら歴戦の戦士でも、後ろをとらない限り、このシールド囲みを破るのは厳しい。4人は完全に囲まれてしまった。彼女たちは戦い続けているので、疲弊している。ドワーフでも流石に肩で息をしている。しかし、敵はじわりじわりと間合いを詰めて来ている。
アリス等は、この沈黙の中で起死回生を狙っていた。
「……」
ドルマは、何かうなり声を静かにあげていた。アリスは、どうしたのか不安になった。間合いが5フィートになった。
森の中が騒がしい。いきなり、武器を持っていないオーク達が逃げている光景を目にした。族長もガード達もそれに気を取られた。ドルマは一番近くのオルグの大盾に気合いの叫び声と共に戦鎚を叩き付けた!
「剛腕岩碎破!」
盾は、鉄で補強されてはいるが大部分が木で出来ている。その盾が、補強部分からはがれ落ちるように、バラバラになった。尽かさず、神官戦士が、そのオルグに向かって大剣で叩き斬った。頭蓋骨が鈍い音を出して砕けた。そのオルグはそのまま倒れた。穴が出来たそこをアリスが突破する。その目の前は、オークの族長!!
「この、邪なオークよ! 忌まわしき歴史を生み出した敵!覚悟」
「黙れ! おまえ達人間も一緒ではないか! 俺達と同じ獣がなにをほざくか!」
族長は、大きく斧を振った。アリスは右横にずれてよけた。そのままセインJr.で族長の腕を切った。しかし、鎧に傷が付いただけである。もう一度攻撃するが、致命的な一撃を与えることは出来なかった。
「あまい!」
オークの裏拳が、アリスをとらえる。腕に当たって吹き飛ばされた。しかし、反動を利用し回転して起きあがった。 起きあがるときにオークの強烈な一撃が、先ほどトロールに噛まれた左肩に命中した。鎖骨と肋骨が砕かれ、心の臓近くまで刃が届く。血が噴き出し地面をを赤く染める。アリスは、激痛を感じることはなかった。意識は、はっきりしていた。こいつに勝たなければ。精神力で立ち上がる。オークは斧を引き戻そうとするが、抜けなかった。斧が、彼女の肉や骨の摩擦でとれなくなっている。オークは恐怖した。このままでは丸腰ではないか!逃げるべきか?そうも行かなかった、セインJr.を右手でしっかり握りしめ、オークの左腕を切り落とした。いくら甲冑でも関節部分はもろい。その部分ごと綺麗に切り落としたのだ。苦痛で叫び苦しみもがく。斧がアリスの体から落ちる。
「終わりよ」
彼女の剣の一閃は、見事に族長の首を切り落とした。
彼女は、意識もうろうの中、自分に『癒しの手』を使い、傷を癒した。しかし、砕かれた骨は治ってはいない。倒れそうになるところに、ドルマが支えてくれた。もうすでに、敵は戦意を喪失し、退却している。
「無茶しおって」
「ありがとう。しかし貴方もそうよ」
ドルマが治癒の祈りを捧げた。完全ではないが砕かれた骨や肺は元の形を取り戻したようだ。しかし、1ヶ月は安静だろう。
「混乱の根元は無くなったわ。闇エルフもこの先大きな事はしないでしょう」
そのまま、意識を無くしそうなアリスにドルマは心配してか、
「途中参加のアリスの勝ちか。やられたわい」
と、大きな声で喋った。
「そうね」
彼女は微笑んだ。
その先には勝利に歓声を上げている砦が見えた。
彼女は担架で運ばれる中、ユーリルが付き添った。
「姉さん、無茶して。だめじゃないか」
「ユーリと同じよ」
「黙って。まだ完全に治ってないんだから」
「うん」
アリスは、そのまま眠った。
彼は、どこかから殺気を感じていた。あのときの殺気である。どこだ? 寝室に向かって行くところで、兵士が駆けつけてきた。
「あちらで、体を休まれるようにと」
「ありがとう」
ユーリルと、担架を持った兵士がこの兵士から背中を向けたときに、この兵士は短刀を持ってアリスを刺し殺そうとした! すぐにユーリルは、腕を伸ばし庇って刺された。激痛と異常なまでの熱さが体に走る。
「ちぃっ」
兵士はそのまま逃げようとしたが、ユーリルが苦しみの中で短刀を投げ、足に刺さした。後から現れたJ・Jに取り押さえられたが、男は自害した。
「危なかった……」
ユーリルはそのまま意識を失った。しかし、今までと違った闇を見ていた。
(これで、終わりかな。ごめんよティクス)
J・Jはユーリルを抱えて起こそうとする。しかし起きることはなかった。
アリスは、泣き声で目を覚ました。レオノアが泣いている。他の仲間も只、黙している。どうして?
「どうしたの、レオノア?」
「アリス…目を覚ましたのね」
「何があったの?」
「……」
「…? ユーリルは?ユーリはどうしたの?」
「……」
「!?」
アリスは、ベッドから飛び起きて、部屋に出ようとした。仲間が止めに入ろうとするが、J・Jが制止し、彼女を支えた。
「王女、このつらい事実は受け止めなければなりません。王子の居場所までお連れしましょう」
J・Jにつれられて、アリスが付いた先は、礼拝堂であった。
祭壇の前に棺桶がおいてある。中には、頼りないがいつも最善を尽くしていた愛する弟が、笑顔で眠っていた。しかし、起きる気配はない。
「ユーリ?どうしたの?起きてよ?悪い冗談はやめようよ…。ねえ…?」
「これが現実です。貴女が暗殺者に狙われるときに身を挺して庇ったのです」
「……そんな。ユーリル!起きて!起きて!どうして?貴方には大事な人がいるじゃない!何故なの!…ティクスがかわいそうよ!」
彼女は泣き叫び、弟を揺さぶった。しかし、体は冷たくなっている。返事はしない。
「私を一人にしないで!わああああっ!!」
J・Jはその場から立ち去り礼拝堂の扉を閉めていた。彼は、頭を垂れて涙が出るのをこらえていた。
長い時間、アリスは泣き続けた。とても長い間。数日後の早朝、集団葬礼の儀をが行われることになった。砦の広場で皆が集まった。死者の魂と肉体を屍術から守るために、火葬となった。
アリスは、弟が持っていた長剣を握りしめ、口を開いた。
「英雄神よ、古竜よ。勇敢に戦い、命を落としていった者達に、安らかな眠りを与えたまえ」
その後に、生き残った兵たちが、鎮魂歌を合掌した。
英雄神よ 導き給え
悪と戦った 勇敢なる魂を
永遠の眠りと安らぎを
残された者に いきる希望を
古竜よ 守り給え
ロドスの火口へ向かう魂を
業火から通じる 天界への門を開き給え
彼の者等に 安らぎを
彼の者等に 安らぎを
死して守りし この地を
生きていく者が 継いでいこう
アリスは、ユーリルや死んでいった兵士達の入った、組木に松明で火を付けた。
一気に燃え上がり、火柱があがった。
ユーリルはもう居ない……。彼女は、まだ形見を抱きしめていた。涙は出なかった。枯れたのだろうか? しかし、泣きたかった。もう一人なんだ。肉親は居ないんだ。でも、私はやらなくてはいけない事がある。
こうした悲しみをなくすために、私はこのリクニアを平和にしなくてはいけない!
この煙は、砦へ向かう旅の途中のハーフ・エルフの吟遊詩人にも見えた。彼は、魔法の家から起きて出てきたばかりである。
「一足遅かったか。どれぐらいの犠牲者が出たのだろうか?」
近辺に、暗殺者の存在、そして誰が雇っているかという事を報告するために向かっていたのではあるが、何かしらアリスに、第四階位遠通信が出来なかった。彼は、何かあると不安がよぎった。
「念のために、ツールにも連絡しておいたが…。この先はどうなるのか?」
急ぎたかったが、この近辺は転移呪文を使うには危険な場所だ。あまりこの近辺を知っているわけではないのだ。「先を急ぐか」彼は荷物をまとめて旅立つことにした。目的地はロドス・カルデラ。
全ての組木と遺体が燃え尽きた頃、葬儀は終わった。
ユーリル……。
さようなら。
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