第4話 聖域の山頂で

 リクニア城門前は物々しい雰囲気に包まれていた。各地の為政者達が、屈強な騎士、兵士を護衛を連れて城の中に入る。城下町の人々は、戦争の布告宣言をしに来たと考えて不安がっていた。


 傷を癒し、旅の準備をしたアリス一行だが、ある人物の姿が見えない。

「仕事を忘れてるのか?あの情報屋」

 ドワーフは文句を言う。アリスは

「他に用事ができたのでは? 任務の続きはするつもりでしょうし。もう少し待ちましょう」

 と、なだめた。

「それに、中央が騒がしいようですし」

 小一時間後。彼は帰ってきた。何かしらスクロールケース(書類入れ)を持って。それには、三領主の紋章の印がついている。J・Jは恭しくアリスに渡した。

「この地の城にて五領主会談を行うようであります。招待状のような物でしょう」

 アリスは、封を開け、中にある羊皮紙を読み始める。

「目的の地より、先になさねばらないことができました。私は、今の領主達に会いに行きます」

「無茶なことを!」

 ユーリルが反論する。しかし、彼女はこう言い始める。

「不言実行がもっとも良い方法。しかしそれは時と場合による物。今の為政者が正当な後継者がいないと判断するとどうなるか分かるでしょ?そのためには、私は其処に赴かなければなりません。そして、私の試練を知らせなければなりません」

「最もですね。ひょっこり出できて、私が統治の権利を持っているよ、なんて誰も納得しません」

 魔技・フィロッグが同意した。

「参りましょう。会議室に」


 ここは、リクニア城の大会議室。其処に北の三領主と南のファザム伯、ロイエンタール公が丸いテーブルを挟み今後のリクニアの政治について語り始めた。まず、各地自治権を持ち、一切の領地争いを禁止するということとなった。また、かつて〈滅びの城塞〉や〈破滅の町〉と言われた町シュバックの悪政を行っている監察官に対しての処置をどうするかを決めていた。三領主は一切、王女が生きていることを隠して言ってる。それに少し疑問に感じるファザムがいた。すでに彼は、古き友人である闇の吟遊詩人に教えてもらっているのだ。何故、それを隠す?誰かを信用してない証か?

「これで、意義はありますまい?」

 議長を務めていたムールワンが皆に尋ねた。

「別に問題はない。民は戦いの毎日で疲弊している。そんな中、己の利のみを求める事など、出来はせぬ」ある人物をのぞく為政者達は同意した。

「貴公等は、消極的ではないのか?」

 その人物が、意義を述べ始めた。それはロイエンタールである。

「レイガースは、覇道を目指そうとした。それは何故か? 貴公等は考えたことはあるのか? 彼は、元はこの地の子孫。それが我ら南から来た異国の者が統治し、400年続いた。その間、彼の先祖は耐えに耐えた。その苦しみを知ってはいるのか? 実際どれほどのものか私も知ることはできない。しかし、闇エルフの争いでラーズ王子が戦死されたとき、もう不治の病に倒れ伏した王に従えるといえるのか? 彼には王家に憎しみを持っているのだ。それが爆発した。それの他、真に民を導くには力のある己が動くしかないと考えた。誰も手を汚さないと言うなら、自ら戦い革命を起こして民を導こうとしたのではないのか?それに比べれば、貴公等の考えは己の保身のみを考えているにしか思えん!」

「貴公の話は分かるが……」

 議長が喋り始めようとしたとき、会議室のドアが大きな音を立てて開いた。そして、若い女性が入って来て

「覇道で人を導くのであらず!王道のみが真の統治者の姿です!」

 と叫んだ。その声は若くとも凜々しくカリスマ性に満ちていた。

「アリス王女様!!」

 その場にいた全員が驚いた。

「生きておいでで!!」

「今まで、私が不在だった事を詫びます。しかし、直ぐに私がこの地の統治者になっても、民に不満が出るでしょう。そのために、私は、王道を目指す為の探索、【大剣】を探します!」

 その場に居た者達は黒フードの男を除いてざわめいていた。


 会議が終わりそれぞれ自分の部屋に戻っていく、すでにアリスは居なかった。皆の制止を振り払い去っていった。しかし、三領主の例の二人の間で喧嘩が始まった。

「全く、いきなり王女が現れたのが解せん!フェイマス!おまえは何をたくらんでいる?」

 罵声を浴びせハーフエルフの胸ぐらをつかむバリアンがいた。

「私とて彼女がここへ来るとは思いも寄らなかった。一応、使いの者に書は届けたがね。過ぎてしまったことだし、私はそんなに野心などない。大体私ではなく怒りをぶつける相手は王女ではないのかね?」

 フェイマスは答えた。

「話をそらすな! 貴公が裏で何かをやっていることは大体見当はついている!情報の早さ、都合のいい行動。その行為にどこに野心がないといえるのだ!?」

「それに、いきなり現れた王女もそうだ! 【大剣】を探す! 理にはかなっているが条件が厳しいという【大剣】探索は王女には無理な話だ! そう易々と見つからん! あれは神の力だ! 絶望し彼女が第二のレイガース以上になりかねん!」

「バリアン卿……。いい加減手を離してはくれないかね? 私とて、統治者の前に能力者(危機を救える何らかを力を持つ者)なのはご存じだろう? この状態でも貴公の首を胴から離せることは可能なのだ。今は興奮しているから、それに免じて忠告だけはしておいておこう」

 フェイマスは、両手に何かを持っていそうな感じを見せた。それと同時にバリアンの周りの沢山の鋭い殺気を感じる。もし、このままこのハーフエルフを締め付ければ、自分が危うい……。渋々手を離す。

「貴公は、血気が多すぎる」

 襟を直してフェイマスが言った。

「やっと、貴様の正体が判ったよ。裏家業が」

 バリアンは憎しみを込めて言い放つ。

「表裏有るのが普通だよ卿」

 ハーフエルフが堪えた。

「止めたまえ! 二人とも」

 止めに入ったのが、クリスとフードの男であった。

「また、不愉快な者を連れてきたか。懲りないな」

「我々の決めたことを今更変更できるはずもないだろう。落ち着くのだ。ロイエンタール公の言葉に惑わされてはならないはず。民を苦しめない最善の方法を我々で考えなくてはいけないのではないのか? 王女を助け見守ることを」

「クリス卿。失礼する」

 バリアンは去っていった。フェイマスは不敵な笑みをこぼしている。

「貴公の、知恵、判断、行動はすばらしい。辺境の警備をしているだけの私は貴公が羨ましい限りだ。しかし、それで終わりだ。見返すつもりはあるが憎んだり妬んだりはしない。しかし、そうでない輩を居るのを忘れるな」

 クリスが忠告した。

「心配ご無用。失脚させようとする者に慎重かつ的確に片を付ける自信はある。私はこの国が好きだ。そして、この国を善き方向に導いてくれる者の手助けをしたい。クリス卿、貴公も同じ考えだろ?」

「そうだ」

「私は英雄になれる柄じゃない。中途半端に生きていくしかない者は、誰かを支えることに生き甲斐を感じるのだよ。其処の男もそうだろ?」

 フェイマスはフードの男に問いかけてみた。

「貴公の言う通り。俺もまた、人より長くは生きるが、純血より短い。だから吟遊詩人になった。しかし、何だね? 俺を嫌いじゃないのか?」

「嫌いだね。只、悲しき宿命に同情しているだけだ。私より君は不幸を負いすぎている。悲しみも、寂しさも。しかし、信頼できる友も持っている。私が妬んでいるだけかもしれん」

「友達になれそうにはないな」

「当然だ。其処まで私はライフキーパーのエルフより、寛容ではない」

 フェイマスはそういい残して立ち去った。

「強情な人だな」

 クリスは言う。

「仕方ない。彼は国を守る責任を果たすために必死なんだから。俺みたいに気楽で無責任な輩を好きにはなれんよ。俺も昔はツール等に嫌われたさ」

 フードの男は悲しそうに言った。責任を持つ重さに耐える苦しみをフェイマスは一人で背負っているのだから。自分もそうである。

「ファザムに会いに行く。君も行くかね?」

 フードの男は提案した。

「そうだな、ツールのこともあるし」

「決まりだ」


「王子を連れてくる事に失敗したと?」

 ロイエンタールはどこかに潜む『影』に尋ねた。

「はっ。リクニアにて発見し、仲間達がお連れしようと思いましたが、とんだ邪魔がはいり任務に失敗したご様子です」

「でも、生きておられるのだな?」

「はい」

「ならば、次の機会を見る。しかし、王女は…存在しては困る。私の悲願を達成するにはあの方には申し訳ないが、消えてもらうしかない。直ぐに計画を始めろ」

「御意」

 影は立ち去った。

「私は、こんな片隅の領土では満足しない。私とて、リクニアの遠縁。そして、秩序ある世界にし、愚民を管理せねばならぬ義務がある。そのためには王子が必要なのだ…。私の娘と契りを交わしてもらうしか」

 ロディス・メネス・ロイエンタールはそう野心を燃えたぎらせた。その訳は彼には男子の跡継ぎに恵まれず養子を見つけることもできなかったからだ。彼は焦っていた。このままでは、ロイエンタールは疎か、己の信奉する秩序の教団ログナードまで衰退しかねない。全てを守らなければ。

「父上。入ってもよろしいですか?」

 とノックと共に可愛らしい女性の声がした。「いいぞ」

「本当に、王子が見つかったのですか?今どこに?」

「訊いていたのか?オリエ。本当だ。しかし、すまないが会いに行くことはできぬ。今はな。」

「私は会いとうございます。幼きときに仲の良かったあの人を…」

「今は待ってくれ。お前の王子に対する想いはよく分かっている。案ずるな。必ずうまくいく」

 ロディスは、愛おしい娘を抱きしめてなだめた。

「解りました。待っております」

 それに素直に答える娘。

 我が子のためにもと思う父が其処にいた。


 例の二人は、英雄ツールの父親にして、ロック地域の領主ファザム伯爵の控え室に向かっていた。すんなりと中に入れてもらい、茶を飲みながら談笑をしていた。親しき友のごとく。

 茶は、遙か遠くの土地から輸入し、栽培に成功した。いわゆる麦茶、緑茶、抹茶などの東洋的なものである。過去は高級な物だったが、いまや一般の民も口にしている。実際この国は豊かなのだ。森林も多く、季節の移り変わりが緩やかで、カルデラの中なのに肥沃な土地に恵まれている。自然の城壁により、殆どの外敵から守ってこれたのである。そして、この地の守り神達のおかげで。

「いつも、愚かな息子が迷惑をかけて申し訳ない」

 ファザムが言った。

「いえ、全くそんなことはありません。貴公の息子殿は立派な英雄ですぞ」

 それにクリスが答える。

「違うぞ、あのへっぽこに世辞を言わなくていい。俺が居ないと全くと言っていいほど頼りない。確かに力があるがな」

 ダーク・グラスが口を挟む。

「……むう。さて、雑談はそれぐらいにしておき、本題に入ろう。ファザム伯、貴方は王女のことをどう思われますか?」

 クリスは、率直にファザムに尋ねた。

「彼女の存在はうれしい限りだが、あまり期待はできない。彼女は幼き頃から気丈な方だ。しかし、例の物を探すという試練を本当に達成できるのか分からない」

「そう言うな。ファザム。もう一度、彼女に会ってみることだ。その【大剣】を持てるかどうかの資格を。彼女は、結局あれを手にするには、本人の本当の心を知って、人間以上の存在に認められたならば、君も納得するはずだ」

 闇の吟遊詩人はそう答えた。

「神の導きか?」

「無論。元々アーティファクトは偶然にて手に入れてしまうケースが多い。己の意志によって手に入れるようなことでは決して手に入れる事は難しい。ただ、彼女のあの自信は、伝説を紐解き手がかりをつかんだのだ。おそらく、俺の知っている範囲ではストースク湖に向かうだろう。聖地の島へ。その後にお呼びすればいい。その役は俺に任せろ」

「分かった。任せる」

「後は、忠告すべき点が」

「分かっている。ロイエンタール公の行動に注意することだろ?心配するな」

「彼もまた、もう一人のレイガースになるのかもしれん」

 黒き吟遊詩人はそう言ってからティーカップに口を付けた。


 アリスは、仲間と共にストークス湖の中央にある島に向かって、定期船に乗った。ドルマは、船に乗るときに、足が震えていた。ドワーフという生き物は海や湖など、水が多く存在しているところをどうしても好きになれない。皆に冷やかされると「武者震いじゃ!」と反論し、勇気を振り絞り船に乗った。しかし、ぎこちないことこの上ない。

「あんたらは、あの島に巡礼するのかい?」

 船長が、この一行に尋ねた。

「はい」

 アリスは答えた。

「そうだよな。あの島は、カイン様が住まわれておられる。カインの信者なら一生に一度は行くのが筋って物だ」

「しか……」

「どうしたのです?」

 不安げな顔をしている船長に王女が尋ねた。

「この戦乱続きで、聖地を守る兵達が少なくなってきてな。今や聖地には凶悪な怪物や異形の巣窟と化しているとか」

「……」アリスは黙した。

「心配いりません。アリス。私たちがいるじゃないですか! ドラゴンだろうと『目の暴君』であろうと助け合って戦えば凶悪な魔物など敵ではないはず!」

 フィロッグが励ました。ドルマは珍しがっている。

「そうね」

 にこやかに笑うアリス。

「あなた達と共に、聖地に向かいましょう。どんな危険があろうと!」

「勇気が有るね。あんた達!気に入った!往復の船賃は只でいいぜ!」

 船長が笑いながら言った。

「おおっ! 太っ腹じゃのう! 儂もお前さんが気に入った!」

 この水嫌い(深い水たまりなど)のドワーフはそんなことを忘れ、島への旅路、船長と談笑していた。「あれで、僧侶? 単純だわ」

 レオノアは呆れ返っていた。


 4日後の事である。島に着き、城壁に守られた町を見ることが出来た。船長が言った通り、この地域の平穏バランスが崩れている証拠を指している。その城壁は、本部の砦を囲む物以外、丸太や、作りかけの作業中の物が多かった。防波堤にも、灯台と物見の島を兼ねた物を造っている。

「だいぶ、危険な感じが」

 とその町の風貌を見ていたJ・Jとフィロッグが押し黙ってしまった。

「どうしたの?」

 レオノアが尋ねてみる? 彼らは震えながら見た物に向けて指を指した。その先には、島の唯一高い山の頂上辺りに竜達が飛んでいたのである。その数は恐ろしく5頭。それには彼女も震え上がった。

「船長!この危険度は度が過ぎてるわ!」

 彼女は悲観した叫び声をあげて言った。「全くです!」魔技は、アリスに励ました言葉を忘れ同意する。「だから言ったろ?」

 船長はため息をつきながら言った。

「町にちょっかい出しにくるのはオークや山賊、湖賊が多いだけで、奴らはあの山の縄張り争いをしてるだけだ。最も、その余波がこっちにくるがね。そして、魔技さん。あの元気は何処行ったのかい?」

「うっ」

「儂だって怖いが、我を忘れちゃならんな」

 さらり船長は言った。あなどれん男だ。

 竜は、物質界に存在する生き物の中で最上位に位置する。最強の生き物である。伝承、小説、遊戯などで、彼らは恐ろしく強く描かれており、一人でその生き物の成長しきった者を殺したと有れば『竜殺し』の称号を受け英雄扱いされる。それほど強いのだ。鱗に色があり、それによって生息地、吐息武器(ドラゴンブレス)の種類、性格が違うのである。原色(赤、青)と言った者は凶悪な者で、宝石のような輝かしいものは中庸的な者、そして、金属色を持つ者は善竜とされるのが一般的だ。彼らが見たのは、最も邪悪で強力な赤竜のようだ。視認範囲で色が識別出来るとなれば、それは壮竜(初老)であろう。竜は歳をとるほどにほどに強くなるのである。いくら、勇気を振り絞って立ち向かっても、年の功には勝てないだろう。いや、その前に一定端の距離に以下付くことすら叶わない。

「皆! 臆することはないわ! 彼らと戦うことが私たちの目的ではないはずです! あくまで彼らは、私たちを阻む敵! それだけ! 必ず倒すことを考えるから怖いのです!」

 アリスは一括した。

「では、どうするのです?」

「簡単な事よ。避ければいいじゃない。彼らを」

 あっさり答えた。

 皆は、呆気にとられる。

「遭遇すれば、戦わなければいけないでしょうけど、今は生きて帰って国を立て直すことが優先です。本来の任務忘れてはならないのですから。倒したいのならあの英雄ツールでも呼んできたら? リッチ・ゼルスを倒した英雄。彼なら友達と共に彼らを始末してくれるわ」

「面白い事を言う姉ちゃんだ! わはははははは!」

 船長は大笑いした。 

「名前を互いに訊くのを忘れてたな。なんちゅう名だい?」

「私?私はアリス」

「覚えておこう姉ちゃん」

 船長が笑いながら堪えると、アリスはくすくす笑う。

「儂は長生きして良かったぁ! 元気な若い者が世界救う為に聖地に赴くってってことは」

 船長は舵を取りながら、目が潤んでいた。


 一行はそのまま宿には行かず、アリスは堂々たる態度で、この砦の主の謁見を求めた。

 兵士は一度疑ったものの、彼女の紋章を見るやいなや。気が動転し、急ぎ伝令が送られた。10分もかからず、応接室に案内され、領主、ギルバルド男爵が現れた。

「殿下が生きておいでで、何よりでございます」

 恭しく膝をつき一礼する。

 アリスは毅然として、

「今までこの土地の民を守ってくれていたこと感謝します。今まで通り、民を守って下さい」

「ありがたきお言葉!」

「さて、今後の事にて貴公と相談したいのですが、よろしいですか?」

「私より、実情に詳しい使者と、あるお方と共に数日後にはこられるそうです」

「詳しい?」

「今は何とも……」

「分かりました、待ちましょう。私達は疲れています。質の良い食事とサービスを要求します」

「御意」

 男爵は、恭しく一礼し立ち去った。アリス等は、何者が来るのだろうと全く分からない。不安がる皆に、アリスも困ってはいるが顔には出しはしなかった。


 ロック領より南にある、シュバック。其処にダーク・グラスが平然と歩いていた。本来民に石をぶつけられるという者なのに、そんなことはなかった。何せ彼はこの町を救った英雄なのだから。町は寂れきっている。今の監察官の圧政のせいであろう。それには用はない。それより、大事なことがある。

 ある、異臭の漂う路地裏に彼は入っていた。この筋は、魔法使いが、研究所としてもうけられた地域であり、数多くの魔技がいる。しかしながら、戦乱続きのため、廃墟同然と化していた。その筋の中央に一件の小綺麗な研究室とは思えない家が建ててあった。地下に書庫と、研究室を設置しているのだろう。ダーク・グラスはそのドアの前に向かっていった。その扉には、ライオンの顔のレリーフがある。ノッカーがない。しかし、それが喋りだした。

「用なきものは立ち去りなさい」

 エルフの綺麗な女性の声である。

「追っかけには用はない! 早く意気地なしを出せ! アルティーナ!!」

 彼は、これが

「第一階位呪文・魔口」

 で有ることを知っている。多分、扉には「第二階位呪文・魔法錠」や「第三階位呪文・蛇印章」を仕掛けているだろう。

 返答はなかった。

「居留守は、命を縮めるだけだぞ!」

 彼はいらいらしていた。1分もせず、彼はドアを開ける。彼は闇エルフの血を受け継いでいる。そして、あの日光の地獄を耐え抜いた猛者だ。そして、バルトルーの試練を受け見事闇エルフの特有の力を身につけた。単なる吟遊詩人ではないのだ。魔力と彼の魔力と魔法抵抗力が拮抗し、彼の力が勝った。ドアは開かれ、ズカズカと入っていく。大体部屋の広さは15フィート四方、その先にドアが見える。しかし、その前には、綺麗な黒髪のエルフが鮮やかな装飾をしたためた長剣を構え彼に挑もうとしている。

「恩を仇で返すとは。地上エルフは地に墜ちたか? アルティーナ」

「貴方の母上には感謝はしてる! しかし、貴方自身は許しはしない! 愛する人を侮辱する事は!」

 アルティーナと呼ばれたエルフは憤然と剣を構えたままだ。

「いい加減にしろ!」

 後ろで、エルフの男の声がする。

「アイン」

「お前を見殺しにしたのは私なのだ。こいつを責めることはできないのだ」

「やっと出てきたか。意気地なしのアイン」

「うるさい」

 アインはうざったい返答をした。

「お前達の考え方は、ひ弱すぎる、復讐は復讐しかうみださん? 訊いて呆れる。人間的に言えば、復讐するのではない。怒りに身を任せた『復讐』ではないのだ。全体より利己を選んだんだぞ。無力感を感じたお前は意気地なしだ」

「勝手に言ってろ! それは結果論だ」

 この二人は仲がそんなに良いわけではない。長きにわたる地上エルフと闇エルフの争いはまだ続いているのだ。例外として彼ら二人のおかげで、ライフキーパー森林の事件は解決したのだ。

 その後に起きた、ゼルスとの戦いにおいて、アインはアルティーナを見殺し状態にしてしまったのだ。その責任感と自分の無力さに絶望したのだ。そしてリッチと戦わずして戦場を去ってしまう。ダーク・グラスにとって腹が立つのだ。自分は、全てを不幸にした父親をも殺しているのに。

「アイン、例の物は大事にしているよな?」

 ダークエルフは勝手に茶を作って飲み始める。

「当たり前だ。何故訊く?」

 アインはさりげなく自分のコップを出してくる。

「お前は魔技としては名高い。〈見定める者〉としてな。その力眼を有る人物に向けて見ろ。それが、ファザムの伝言だ」

 アインのコップに茶をぎりぎりまで入れる。表面張力限界まで。

「ツールの父親が何故、私に?」

 その行為に嫌な顔をしながら尋ねる。

「あれを持ってるからだ。命令とのことだ」 

「分かった。お前は忙しいな」

「隠居したくてもね。これが、対象だ」

 自嘲した笑いで吟遊詩人は答えた。用件の書かれた羊皮紙のメモを渡す。

「交換条件って奴だ。御馳走さん」

 彼は、そのまま呪文を唱えて消え去った。

「この人物か。納得した」

 エルフは、大きな責任を感じた。〈見定める者〉の責務をもう一度果たすときが。


 3日後の事である。例の客人が尋ねてきたという。しかも、ロックの領主ファザム伯爵ではないか!アリス共々驚いている。J・Jは、そのそばにいるフードの男が妙に気になっていた。

 応接室には7人入り込んでいた。

「貴女の生存には驚きを隠せません。しかし、本気で【大剣】をお探しになるのですか?」

 ファザムは問うてみた。

「そうです、君主たる私がその証を見せるには、民の目の前にてその姿を示すこと。それが私のかせられた試練なのです。お解りですねファザム卿」

「クリス卿も申されたとおりだし、この男の言ったとおりだ。信用しましょう。そして期待しましょう」ファザムは恭しく答えた。

「ありがとう」

「これからの旅路、危険との判断により、助力します。此を受け取って下さい」

 ファザムはフードの男に指図すると、彼は大袋からなにやら数多い箱を出していった。その中には、魔力の帯びた武具、魔法の薬、便利な魔法物品、そして旅路用の宝石の箱である。

「卿!」

「今の私には此ぐらいのことしかできませぬ。このリクニアを救って下さい」

 アリスは、感激のあまり黙した。それをユーリルが後ろで支えるようにして肩を置く。

 しかし、例の男の悪い癖が始まった。

「しっかりしてもらうよ。これだけの品を出すんだから」

「こら! また喋る!」

 ファザムがフードの男に怒鳴りつける。アリスにはその声に聞き覚えがあった。

「対談するときにフードを被ったままなのはいかがと思うが?何者だね?」

 J・Jが男に言った。

「同類は隠したくなるんだよ」男はフードを取った。端正な顔つきの半エルフだった。

「しかし、失礼じゃないのか?」

「事情があるのだよ。事情が」彼は顎から顔の皮を剥がすかのようにし、素顔を見せた。

「!!」

 アリスを除く仲間はダークエルフを見て身構えた。

「ファザム卿!此はいったい!?」

「落ち着きなさい!!」

 制したのはアリスだった。

「久しぶりね? ダーク・グラス」

「おおっ、良き友人!会えてうれしいよ。アリス」

 ダーク・グラスは大げさに答えた。

「ふざけるな!」

 怒鳴るファザム。

「はい、はい。頑固な方だ」

「この危険地域で一番頼りになる護衛ですわね」

 アリスは笑いながら言った。

「全く。この悪い癖さえなければ更に良いのだが」

 ファザムは溜息を吐く。

「そんな言い方は、ないじゃなのか? 友達だろ」

「馬鹿者!」

「あの、どういった関係なの?アリス」

 レオノアが、おそるおそる尋ねる。この雰囲気に入るには勇気が必要だったようだ。

「あっ、ごめんなさい。今紹介するのは、英雄ツールの親友ダーク・グラスよ、過去私が動乱時に生き残ったのをそれとなく助けてくれた人でも有るの」

 アリスは、にこやかに彼を紹介した。そして、今までの彼の出来事を話してくれた。皆は納得した。J・Jを残して。

「では、ファザム卿。結果を卿の城にて報告することにいたします。それでよろしいですか?」

「御意。では、試練を全うして下さい。英雄神カインの加護があらん事を」

 2人は一礼して去っていった。

「さて、用意を調えてまいりましょう!」


 彼女らは、まず登山ルートをどうするか計画を立てる。伝説を紐解けば、この島に英雄神カインの城が有ったとされいる。当然、城の拡張で臨時の居住地を設けていたかもしれないが、ここが正当な城だと推測される。ガイドの作った地図を頼ると、道は渦巻き状になっており、いくつかの分かれ道が出来ているとのことだ。当然、カルデラ湖なので、地盤は石灰や溶岩で出来ており、山の内部には至る所に鍾乳洞が出来ている。そうした地形を好んで住み着くのは、オークをはじめ、ドラゴン、地下を好む得体の知れない異形達だ。洞窟を通るのは危険すぎる。しかし、正直に道を通っていると、ドラゴンとの遭遇が予測される。さて、どうしたものか?

「もう少し、情報がほしいわ」

 レオノアが言った。

「じゃあ、私が探してこよう」

 J・Jがやおらと立ち上がり、静かに部屋を出た。

「情報部の役目だね。僕はスカウトでも、この地域は専門外だし、彼に頼るしかない。いや、彼の情報力を頼るしかないね」

「しっかりしなさいよ、ユーリ」

 姉が諭すとシュンとする弟。しかし、彼の仕事はこの地図からもう一つの道を見いだす役目があるのだ。情報屋より重要で難儀な仕事である。なにせ、自分一人で、山の情報を元に気候の変化と危険地帯、抜け道を見つけだし、一行を安全かつ迅速に目的地に送るのだからだ。彼の得意地域はクローズからロドス火山を囲む山脈なのだ。J・Jの情報を待っている間に自分での検討を付けて修正しなければならない。

 その作業は徹夜であった。危険地域が多くなっており、本来の道がなくなっていたり、竜の縄張り争いの激しい地域が拡大していることが要因である。今の地図は殆ど修正だらけになっていった。

「きついね」

 ユーリルは呟く。アリスは、彼に眠気覚ましの茶と夜食を持ってきた。

「調子は?」

「大体、検討は付けたよ。あとは、魔物と遭遇しないことを祈るだけだ」

 彼は、夜食を食べながら説明し始めた。

「まず、この北のルートを通り、鍾乳洞をくぐる。その先には、大きな茂みがあるから獣道ぐらいは有るので、そこを行く。崖に行き着く前にまた穴があるから、そこで休憩を取って行けばいいと思う。でも、崖は慎重かつ迅速に渡ろう。その時には、フィロッグの魔法が頼りだ。あと、姉さん、皆にファザム卿からの品の確認を頼むよ。それを使えば、うまくいくと思う。その先から新しくできた鍾乳洞が有るんだって、其処には何か住んでいるみたいだけど恐ろしくて探検家が逃げ帰ったんだ。姿形は覚えてないんだって。只」

「只、何?」アリスは訊く。

「その洞窟の作りからして、自然の洞窟に人工的な手が加わっている事なんだ。ひょっとすると、城の抜け道跡じゃないかな?」

「すごい! ユーリ! すごいわ!」アリスは弟を抱きしめた。

「止めてよ、姉さん」

 真っ赤になるユーリル。

「あくまで予測なんだから。あと其処の生き物何か分からないし」

 不安は隠せないでいる。

「大丈夫!皆で頑張りましょう!」

「そしてもう一つ有力な話を聞いたよ、情報部に」

「何?」

「聖騎士の巡礼者が4年に一度は此処を訪れるそうだよ。日時からすると運良く合流できるかも」

「それはいい情報ね! でも、会えることは神に祈るしかないわね」

「そうなるね」

「ユーリは疲れてるから、次の日に出発する事にするわ。貴方も休みなさい」

「分かった姉さん」

 アリスは、ユーリルの頬にキスをして、

「お休み」と言った。

 そして、夜食の跡を持って部屋から出た。

 弟はそれからもルートを模索していたが、朝の日差しを感じ、カーテンを閉め直して床についた。


 2日後、全ての準備がそろい、一行は出発した。ユーリルの提案したルートは正解であった。殆どの、凶悪な魔物を回避できたのである。茂みは、人間を覆い隠せるほど高くなっており、獣道も、安全な道を教えてくれる。予定外なのは、崖の近くに有るはずだった穴が崩れて無くなっていたので、休むときは、第三階位呪文半径十尺透明結界を張り、休憩する。崖を渡るのは、J・Jとユーリルが先に命綱とくさびを打ち、安全な帰りの道を確保する。鎧を着ている者は、ファザムからもらった薬を使って飛行して進んだ。残念ながら、ドルマは、薬の効果が効かなかったようである。元々ドワーフは魔法を嫌うたちなので、そのためか魔法物品の一部は故障してしまうのだ。仕方なく、レオノアとアリスが彼をつかんで移動することになった。「面目ない」

 フィロッグの呪文は、温存する形となる。幸い、此処でも魔物の遭遇は無かった。

「おかしいな?」

 登山がより得意なの2人は崖の上を見た。地図上、この崖を上れば簡単に頂上まで登ることは可能だ。しかし、人数が多すぎると危険である。鎧を装着している者ならなおさら。しかし、崖には、誰かが登坂をした跡がある。先客がいるのだろうか?

「例の聖騎士かな?」

 ユーリルはJ・Jに訊いてみた。

「まさか! 重い鎧着ている! 例の騎士もそんな格好をしているのだ。どこかの探検家だろう」

 J・Jは否定した。(注:執筆時代では技術・旧歴史研究から出来たゲームルール上、身動きが難しいプレートメール類としてなっている。なお、機動性がよいと研究ができたのは21世紀以降に研究で証明されたとのこと)

 そして、問題の洞窟にたどり着く。情報通り、入り口には人工的に作られた跡が各所に見られた。先は真っ暗である。此処は、J・Jの出番である。半分位のエルフの血を引くハーフエルフは、エルフ同様、温度による赤外線感知視力(インフラヴィジョン)を有している。ドワーフもそうだ。しかし、偵察役は、この情報部員に任せるべきである。慎重に影に潜み、音を消して中に入るJ・J。

 どれぐらい歩いたのだろうか?確かに上り階段が続いている。勘ではあるが、このまま行けば頂上まで行けそうだ。しかし、其処に住んでいる生き物がどんなのか見当がつかない。広場に着いたようだ。今まで、冷え冷えとした青い色しか認識しなかったが、部屋中央に、生物らしき体温の赤い色を認識した。しかもそれは丸い!

(何だ、あれは?)J・Jは首を傾げた。丸くてしかも、数フィート浮かんでいる。ちょう6フィートほどの高さは有るのでは?訳が分からないから、そそくさとその場から立ち去った。

 彼が帰ってきた頃に、皆が根ほり葉ほり聞き始める。いい加減に順番に話すとJ・Jは怒った。この穴は情報とユーリルの勘通り、抜け道の可能性はある事だけは伝えた。そして、

「フィロッグ、宙に浮かぶ丸い物体について知っているか?」

 と半エルフは言った。

「まさか……」魔技は青ざめた。ホントにいるなんて!

「いつか話したでしょう?それは、邪悪な『目の暴君』です。奴は、はぼ全ての魔法を消し去る能力があります。そして、私たちを瞬殺出来る目の付いた触手を持っています。命がけで戦わないといけません。奴の前では魔法は無力です」

「勝てる見込みは?」

 レオノアが訊いた。

「タイミングと自分の全ての実力を発揮して下さい。私も隙あれば魔法は打てるやもしれません」

「わかったわ」

 レオノアは、一本の短剣を引き抜き、

「これからは本気で戦っていくよ」

 彼女は長剣と短剣を扱う二刀流の剣士なのだ。

「魔法が効かないなら、普通のモノでいいでしょう?」

「儂も奥義を出すかの」

 ドワーフも愛用の戦鎚を握りしめた。

「明かりを! 行きましょう!」

 アリスが叫んだ。

 皆は明かりを頼りに強敵に向かっていった。そして現場にたどり着いた。目の暴君は、珍しい客をみて、感心しているようだ。彼は直径5フィートほどの堅い殻で覆われた球体で、中央に人の頭ほどある大きな目を持っている。頭上には、10本の目の付いた触手が意志が有るかのようにうごめいている。見るからにおぞましく邪悪な存在だ。そいつが人の言葉を喋りだした。

「まさか、暇つぶしの餌と宝がくるとは、ここに住み着いて良かったよ」

 声は、口の大きさによって、洞窟内の反響もあって不気味に聞こえる。

「邪悪な異形! 覚悟!」

 レオノアが駆け出した。

「話も聞かずに儂を殺すのか? 気の早いばかどもだな!」

「お前などこの世にいる資格はない! ここは、我らの崇める聖地! 仕留めてみせる!」

 アリスは長剣を握りしめ立ち向かう。

「たわけたことを! その聖地とやらをほったらかしにした愚かなバカは誰だ?お前達だろう! 儂はとうの昔から住んでいる! 居住権は持っているんだよ! それを侵害するなら塵となるか石になるがよいわ!!」

 怪物は、魔技らしいと判断したやせた男に向けて大きな目から光線を放つ。彼はそのとき呪文の詠唱を終えたところだったが、その光のせいで魔法が発動しなかった。

「絶対魔法防御光線」

 フィロッグは其処から離れようとするが、範囲が広い。逃げることは無理なのか?

 一方、圏外にいる戦士達は、10本の目に苦戦を強いられていた。念動力により剣を奪われたり、奇妙な光線によって、苦痛を感じていた。そして、とんでもない危険が迫った。

 必死に戦っているレオノアは堅い殻を斬ろうとしていた。手応えはあった。そして短剣を突き刺そうとしたとき、急所に熱いモノが突き刺さる。

 「何故?」

 彼女が後ろを振り返ると、J・Jがうつろな目をして彼女に短剣を突き刺していたのである。

「どうしたの?裏切ったの?」

 意識が遠のくレオノア。そのまま倒れる。

「支配術です! ドルマ、ユーリル! 治癒と解呪を頼みます!」

 何もできないフィロッグは助言しかできなかった。しかし、追い打ちが来た。球体が、彼に襲いかかって来たのだ。

(ここまでか!)彼は思った。暴君の口が襲いかかる。しかし、アリスが短刀でそれを防ぎ、剣の柄で大きな目を殴りつけたのであった。苦しみもがく怪物。今は絶対魔法防御が解けている!

「今だ! 知力のエナジーよ矢となり、我が敵を葬りさらん!」

 彼の手に4本の白く輝く矢の形をしたエネルギーが浮かびだし、全てが暴君に飛び交った。苦痛にあえぐ怪物は、それを受けながら、魔技に一つの触手を向け

「石になれ!!」

 と光線を発した!フィロッグははそのまま動かぬ石像と化した。

「貴様ぁ!!」

 アリスは力を込めて一本の触手を切り落とした。

 魅了にかかったJ・Jは今度はユーリルに近づく、ユーリルは念動によって剣を落としたままだ。何とかして彼を正気にしなければならない。ドルマは、レオノアの治癒に専念している。J・Jの一撃がユーリル襲う! しかし、彼はひらりと交わし、転がってから剣を取った。尽かさず2撃目がくるが、ユーリルはそれを受け流してJ・Jの剣を跳ね飛ばした! 尽かさず剣の平で彼の首筋を強打させる。元々戦士である彼は、ハーフエルフを気絶させるぐらいの力は何とかあった。J・Jを気絶させる事に成功した。しかし一息つくわけには行かない。開いた片手から、短刀を取り出し、狙いを定めて、暴君の大きな目に投げた。

 それがそいつの目の中央に突き刺さる。絶叫する怪物。短刀は深々と突き刺さったままだ。

 アリスは追い打ちに、他の触手を2本切り落とす。

「強い! 認めよう! 強者こそこお厳しい世界での法則!」

 目の暴君はもう周りは見えないが、協力して戦う自分からすれば下等生物の存在を褒め称えた。かれの精神は悪ではあるが高貴であったのだ。

「異形に褒められても……ね……でも……感謝するわ」

 意識がもうろうとするレオノアが言う。

「早くわしを仕留めるがいい、ワシは長年住んでいたのは、偶然ではないようだな野望のためにいたつもりだが、どうやら、地上神どもに言いようにされたようだ。そこが悔しいが、こうもやられるのは清々しい」

「わかったわ。この戦いは忘れない」

 アリスとレオノアは剣をもち、キチン質の彼の皮膚を深々と突き刺した

 目の暴君はしずかに全ての目を閉じ、絶命した。


 気絶したJ・Jを起こし後片付けをするが、どうしても石化した魔技を助ける見込みはなかった。それでも、進み続けるしかない。念のため、暴君の貯めていたと思われる財宝を見つけ、其処から幾つかの魔法の巻物や薬を手に入れることが出来たが。

「先を急ぐしかないです」

 アリスは無念が残った。仲間や友をそのまま放置することなど、したくないからだ。皆も同じ気持ちだった。J・Jは、レオノアに顔を背けたままだ。無理もない、魅了に抵抗力を持つエルフの血を持つ者が、それにかかってしまい、裏切ったのだから。顔を背けても罪に償いはできんとドワーフに諭され、彼は彼女に謝った。

「過ぎたことはいいわ」

 彼女は別に恨む気はなかった。

「J・J、背負ってくれる?」

「わかった」

 彼はレオノアを背負って進んだ。念のため彼女の鎧ははずす。彼女の体の温かさが彼の罪を重く感じるのを増す(次は、彼女を守るべき。それが責任)。

 ユーリルは、暴君の目の触手を集めていた。

「フィロッグから聞いたけど、こいつの体は魔法の物品の材料になるんだって。お金になるからもって帰るつもりなんだ。待ってよ、欲深にそんなことはしていないことぐらいは分かってほしいよ。彼を救うためにもお金は重要だろ?」

 ユーリは石化した魔技の方を見た。

 当然だな、とドワーフが思った。

 アリス達は、傷の手当をしてその先にある登り坂を歩いていった。


 その先は、古井戸で止まっていた。しかし、よく見ると、そんなに深くなく、ちょっとロープとやピッケル、くさびなどの登山道具を使えば、誰でも登れる。まず、身軽なユーリが準備をし周りの危険を確認し、ロープを垂らす。あとは、アリス、J・Jとレオノア、ドルマと続く。

 周りは、広大な台地である。そこかしこに城の名残が残っている。

「伝説は本当だったんだ」

 北の方に進み続けると、何か祭壇と一人の白い鎧を着た男が見える。その男は一心不乱に祈りを捧げているようだ。邪魔は出来ない。しばし待つことにする。

 祈りはおわり、その男はこちらの存在に気づいた。

「私は、ロベルト。貴方方は巡礼に?」

「私はアリス。はい、そして試練の道しるべを神に教えてもらうつもりで参りました」

「うむ。では、その先が英雄神カインの玉座です、その前で祈りを捧げなさい」

 皆は同じようにした。数分後、天から光が照らされ、ゲートが開いた。そして、ゆっくりと月桂樹の冠を被りトーガを着た大男が玉座と言われた祭壇に座った。

「巡礼者よ歓迎する。そして、此までの旅路苦難を越えたこと真に感服する。英雄にふさわしいものだ」と男はいった。

「ありがたきお言葉でございます。英雄神様」

 アリスは恭しく答えた。

「その働きにより、傷つき倒れし者を癒そう」

 男……カインは手を広げ何かを呟いた。

 奇跡が起こった。他の者の傷も癒され、瀕死のレオノアが元気を取り戻す。そして井戸の方から魔技が生身の体で登ってきた。皆は戸惑うばかり。

「さあ、今から一人ずつ願いを聞き入れよう。ゆっくり考えるが良い。まず誰からだ?」

 各々が様々な願いを神に言った。それは力であったり、過去に失った物を取り戻す事。それは、利己的ではなくその先の試練に立ち向かうために必要な物ばかりであった。神も満足していた。最後に王女が残った。

「さぁ、王家の娘よ。汝の願いは?」

「己の願いは、全てを平和にする為に力を、それ以外有りません。それ以外は欲しません!今は私はリクニアを平和にすることに身を捧げていきたいのです!」

「汝の願い聞き届けたり!」

 神は感動した様に言った。

 すると一つの白く光り輝く長剣が神の手に現れそれを、アリスに突きつけた。其処から光がアリスに向けて放たれた。


「汝の願い、望み、そして試練は私は知っている。汝に神の奇跡を与えた。王女アリス、我が光の祝福を受けた者よ。この剣を持ってロドスへ赴くのだ。望みの物が手に入る」

「はい」

「しかし、悲しみと絶望に屈してはいけない。皆、王女を頼むぞ」

 神はそのまま立ち去った。その前にドルマが叫ぶ

「最も邪なる者とは、いったい何なのですか!?」

「ロドスに全てが明らかになる」

 カインはそう言い残し消えていった。

「ロドス。あのロドス火山」

 残ったのは、白銀に光る長剣だけである。其処の鍔には美しく輝く青い宝石が埋め込まれていた。

「貴方方は、王家のご一行で有られるか?」

 聖騎士は尋ねた。それにそうだと皆は答える。

「では、微力ながら助力させていただきます。安全な道を知っております故。ご案内しましょう」


 彼女達は、聖騎士と共に聖地を去った。次の目的地に向かって。

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