第2話 再会と探求の旅路へ

 ユーリルがリクニア国王後継者として、命を助けてもらった三人を囲み、自分の計画を話しはじめた。

「僕自身は、後継者としての器はなさ過ぎる。そして、数ある暗殺者は僕を放って置くことはないだろう。しかし、僕は最善を尽くしたい。たとえ更なる混乱が訪れようとも、僕は行動を起こす。まず手始めにだ、別れていた僕の姉、アリス姉さんを探し出して助力してもらう事にある。其れを、僕とティクス、そして君達と共に行いたい」

「そういえば、王国の子息は三人ね。第一皇子ラーズ、第一王女アリス、そして君、ユーリル」

「そうさ」

 ユーリルは、レオノアの言ったことに答えた。

「どちらかというと、印象、指導力共に姉さんが優れているんだ。それに、姉さんがこの状況を見逃すはずが無い。しかし、この数ヶ月間彼女は何も起こしてはいない。義勇軍や首都リクニアにも戻ってはいない」

「なるほど!彼女も御主と同じく今の現状を知らずにおいでなのだな!」

「そうかもしれない。ドルマ。姉さんと離れたのは東のライフキーパーの森。エルフの神ローレンティールの信者達で守られているエルフの森さ。多分、其の森の中に匿われているに違いない」

「でも、一度其の森で、闇エルフとの争いが有ったそうです。でも先日の闇エルフと違い、同じ神を信じていて、和解したみたいで…。別の氏族の仕業だったらしいです」

 フィロッグが言った。

「なんてことだ!」

 愕然とするユーリル。ティクスは心配そうに彼の肩を触る。彼もまた、彼女の手に自分の手を置いた。

「大丈夫だ。姉さんは生きている。上手いこと逃げているに違いない。まずは森林に行こう」



 クローズから北へ2日かかる森に囲まれた都市カダール。珍しく此所の統治者はハーフエルフ、フェイマス・マーチン・カダールであった。そして、裏の顔は、リクニア北部における全ての情報を知ることが出来る盗賊ギルドの頭首でもある。ここのギルドは悪どいことは殆どしない王国情報部と言えるのだ。当然、殆どの人は彼の裏の顔を知ることが無い…。

 朝の職務を終え、一時の休憩をエルフの妻と楽しんでいる時に、伝令兵が走りながら彼の所に知らせを届けに来た。

「何事だ。休憩の邪魔をするな」

「城門でエルフが一人重傷で倒れ込んできました!」

「直にその者の治癒をせよ!彼の容体がある程度回復してから事情を聞きだせ!」

「了解」

「おかしいな?普通ならこの町にあるローレンティール教会に行くはずなのだが?」

 フェイマスは考えてみた。答えは、それを真剣ながらも微笑んで此方を眺めている妻ティティスの顔を見て答えを出した。

「どこかの吟遊詩人の詩のような展開だな。すまないが、昼の職務はお前に頼む。私はやるべきことをしなければならなくなった」

 フェイマスは彼女の額にキスをしてその場を風のように立ち去った。

「わかったわ。あなた」

 妻は彼の後ろ姿を見ながら、残っている紅茶を飲み続けた。

 カダール城の地下、何人足りとも入ることの出来ない所に情報部がある。

「クローズのヨハナからの、先刻の事件の状況書類を見せてもらおう」

 部下が、羊皮紙の束を恭しく差し出した。フェイマスは其れを読む。

「王子がいるのか…。後は恋人と、能力者……。闇エルフと戦い救出成功……。」

「あの倒れたエルフ、ライフキーパーからの者です。此所から半日先に戦闘の跡を発見しました。追跡したところ、クローズ近くに伸びているようですが、完全な確認は取れておりません」

「……ヨハナに伝えよ、クローズ内に怪しい組織が居ると。其れの目的を知り、解決せよと」

「はっ」


 クローズにて、ユーリル一行は、食事をしていた。これからの大事のことをも忘れ皆は、はしゃいでいた、ドルマはまたひ弱な魔技にドワーフの酒を無理矢理飲ませようとしている。レオノアは其れを制止する。ユーリルはこの三人組みの仲の良さに安らぎを感じた。

 突然、エールが5人分テーブルに置かれた。

 頼んでないわよ」

 レオノアが言う。

 ウェイトレスは、

「先ほど帰られた方が、おごりといいまして」

 と答えた。

「ワシの知り合いじゃろうて」

 ドルマは一気にエールを飲み干す。そのあとに皆が飲み続けようとする。

「っ!! 待て! 毒が入っておる! 吐き出せ!」

 ドワーフは叫んだ。皆は不意を食らったように飲むのを止めた。零れたエールが床に落ちる。ちょうどその時、通りすがったねずみが其れをなめると痙攣をして動かなくなった。ティクスは急ぎ、解毒剤を用意し全員に飲ませようとする。ドワーフは、

「ワシはいい、此れぐらいもう体で解毒してるから」

「ウェイトレスは?」

 レオノアは振り返った!

 いない……。嘘だったな。

「嗅ぎ付けられた………。油断していたな僕達は」

 ユーリルは顔が曇った。

「多少のことで臆するなよ」

 ドワーフは彼の背中を強く叩いた。むせるユーリル。

「危険があって当たり前。無い方がおかしすぎるわ」

 女剣士は解毒剤の苦みをこらえ言った。

 ユーリルは“なんて強い人たちだ”と思った。

 只、魔技のフィロッグは解毒に時間がかかりそうである。まだ痙攣している。

「しばらく、足止めを食らうことになるわね」レオノアが嘆いた。


 ハーフエルフのJ・Jはクローズの情報部員である。彼はある任に就くことになった。生存している、王家を守護する事だ。聞いたところ、酒場で暗殺者の静かな襲撃に遭ったらしい。急がなければならない。そして、クローズ近郊の元暗殺者達のアジトにあった羊皮紙の書き置き「お前達の『希望』を預かった。いずれ殺す、そうなれば、お前達の世界は破壊、絶望、欲望に支配されるだろう。身代金は金貨5000枚以上」速やかに彼らに報告せねばならない。

 酒場についた。男が一人治療を受けているのが見える。もう一人男とドワーフと女二人、一人は同じ半エルフ。他は…、店員以外いない。

「なにかあったのか?」

 彼は、心配そうにカウンターにいる酒場の親父に聞く。

「毒入り酒飲まされたんだってよ。こちとら信用無くしちまってこの先どうなることやら…」

 親父はため息を吐いた。情報部員は、カウンターから離れ、五人のテーブルに向かった。

「おいおい、とばっちりをくうぞ!」

 親父は止めようとする。J・Jは無視して向かった。

「酷くやられたようだね」

「誰?新手の刺客か!」女剣士が剣を構えようとする。

「ちょっと待ってくれ、俺は只の警備員だよ。事件を聞いて来たんだ。ほれ、証明印」

「……遅いわね。くるのにしては」

「すまない。まぁ、形式だが、状況を詳しく聞かせてくれないか?状況によったら助力するし」

「……あやしい」レオノアは彼を睨んだ。

「信用してくれよ」

 J・Jは困った顔をしてため息を吐く。

「ここで事情を聞きたいところだが、場所をかえよう。…そうだな、宿屋の部屋とか」

 押し問答をするとややこしくなると思ったので、それに従うしかなかった。事情を話すと。J・Jは、「なるほど」と言った。

「なにがなるほどよ!」

 レオノアは怒鳴った。

「もう、大体の状況をつかんで納得しただけ。そして、そこの身なりの良い若い男の正体も」

 5人は身構えた。

「警備員はうそね!」

「それは本当さ。…でも裏がある」

「情報部」

 ユーリルが言った。

「はい、王子」

 にこりと笑った。

「何故、直に行動を起こさなかった!、姉さんの行方は?今の状況はどうなっている?」

 ユーリルは、半エルフの胸倉をつかみ叫んだ。

「幾等、我々の仕事がそうであっても、情報不足であった場合は、こちらも動くことが出来ません。私の任務は、殿下とアリス王女を守る事にあります。そして、今殿下の姉上が危機に瀕しております」

 其の言葉に、全員が凍り付いた。

「急ごう。姉さんを救いに!」

 ユーリルは呟いた。

「場所を確定するには、御主を狙った暗殺者のアジトを捜すべきじゃ」

 ドルマが提案した。

「どちらにせよ、アリス王女の危機は変わらないが、この町に危機があるなら同じ事。もしかすると、王女の居場所が解るかもしれんしな」

「ドワーフにしては賢いな」

 J・Jが驚く。

「じゃかあしぃ! 多分この一件、闇エルフもからんどる。そう睨んだだけじゃい!」

「感服した」

 情報部員はそう言って謝った。



 闇の中、一人の縛られた女性が倒れている。彼女が気がつくと、周りに気配がする。5人?

「気がついたかい?王女様?」妙に甲高い男の声がした。

 あ、そうか。私は友のエルフたちと森を出て来た直後に、闇討ちされて…この女性、アリスは思った。

「…一体、私に何が目的なの?…もっとも『蜘蛛の女王』の闇エルフが混ざっている以上目的は見えたも同然だけどね。『破壊神ヴェルヴァーザ』より先に地上制覇する気なの?」

 アリスは、闇エルフに尋ねた。

「さすが頭のいい人間だ。大方当たりだよ。貴様等賎種に我が姉と弟を殺られてしまった。其の復讐だ。結果また、戦乱が起こるのだからな」

「さうはさせない!まだ、ラーズ兄様が復興してくれるわ!」アリスは叫ぶ。

「君は何も知らないのか?うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「!?」

「くくく、まぁ彼岸とやらにいけば事実を知るだろう。しばらく生きて貰うがね。でもまた倒れてもらおう」闇エルフはその場から霧のように消え去った

「どういうことなの?教えなさい!…あぁ!」

 彼女は他の存在に水を無理矢理飲まされた。意識が遠のく。「兄さん…ユーリ…」彼女は倒れた。

「我の復讐の機は熟せり!」



「身代金要求の場所とは、ここか?」

 ドルマが言った。

「そうだな」

 J・Jはすんなり答えた。目の前には、うち棄てられた、古代の大きな祠があり、周りの岩やがけに埋もれている形となって、洞窟のイメージを感じさせる。

「でも、町の中にあったアジトが娼館だなんて、嫌だったわ」レオノアは嫌悪の念を抱いていた。

「全くそうです!」

 珍しくティクスが喋る。女性から見ればとんでもない所だからだ。男性陣はそれに反論はしない。

 彼らは、クローズ内で違法の娼館を取り押さえるという名目で、アジトを突き止めたのであった。ついで、領主から礼金を受け取るというおいしい結果となる。でもそんなことなどどうでもいい。目の前の大事があるのだ。

「今回も闇エルフが絡んでいる以上、気を引き締めていかないと大変な事とになります」

 魔技フィロッグは言った。皆はうなずく。

 全員は闇に紛れることが出来ないため、ドルマとユーリル、レオノアが礼金を入れた大袋を担いで、中に入っていった。その外の物は、身を隠したり、姿を消す呪文「透明」で潜入する。

「お前達の要求通り、身代金を持ってきた!『希望』を返してもらおうか!」

 ドルマが叫ぶ。しかし、沈黙が返ってきただけだった。

「殺気は感じるというのに、黙っているとは。僕達を亡き者にするつもりなんですね」

 三人は袋を落とし、身構えた。そして警戒する。他の物も周りを調べる。

 不意打ち!闇がユーリルを襲う!何とか躱した。三人いる。いや4人か?

「暗殺者め!」ユーリルが叫ぶ!

「全ての闇を取り払わん永遠の光を放て!」

 身を潜めていたティクスが呪文を詠唱した。

「第二位呪文永久光!」

 光は周りを真昼と同じような明るさをだした。そこには4人の黒装束の男達がいる。暗殺者だ。姿を見せれば、こっちの敵ではない。所詮は不意をついて殺しを生業にしている輩。幾等魔法の技術を持っていても、戦いなれしている三人にはかなわない。戦いは勝利した。

「あとは…王女を捜し出すことだね」レオノアは言った。

「闇エルフが居ないですよ?」フィロッグが言った。

「奴等は日光が嫌いでしょ?わざわざ苦しみに来る分けないわよ」

「もし、日光を克服していたら……」

「まさか! 10年以上の修行を絶えるのよ。そう教えてくれたのは貴方じゃない!」

 レオノアは怒鳴った。

「分りません。其の可能性を言ったまで、気を付けるべきです」

 祠は、何かの迷宮と化していた。巨大蟻か、巨大紫芋虫が穴を掘ったようにも見える。

 ドワーフやオークのような優秀な坑夫が掘った感じがしない。彼らは進んだ。すると、かつての礼拝堂らしい大きな広間を見つけた。光苔があたりを照らしている。広さは70フィート×50フィート(10フィート≒3メートル)昔の神を祭った壁画がかすかに残っている。其の中央には、ユーリルとティクスには見覚えのある人物が倒れているのが見えた。

「姉さん!」

 ユーリルは駆け寄る。しかし、あと一歩で何かの壁に当たりそこから先に進めない。それは半球状になっている。

「第五位呪文障壁。さすがに解呪は不可能です」

 魔技が言った。

 解呪するには大抵5割5分成功するが、少しでも術者との力量の差があると難しくなる。しかし、障壁呪文は、解呪呪文が効かないのだ。第六位呪文分解が必要だが、フィロッグは、第四位が限度である。この障壁呪文を唱えることが出来るとなると、相当の魔技がいる。恐らく闇エルフ。

「じゃあどうするのよ?」

「時間が立てば、障壁は消えますが…」

「じゃぁ、穴掘りでもするかな」

 ドワーフは、いつ持って来たのか、折り畳みシャベルを背負い袋から取り出した。其れも三本。「肉体労働できるなら、ユーリル、レオ手伝え」

「しかたないわねぇ」

 レオノアはため息を吐き手伝うことにした。

 前方、後方に別れ掘る。敵の攻撃の被害を軽減するためである。他の物も、警戒しながら見守る。

「あれ?」ティクスが言った。

「どうした?」土まみれの恋人が聞いた。

「先ほど影が揺らめいていたの。気のせいかしら…?もしや!」

「皆伏せろ!」ユーリルは叫んだ!

 同時に広間は一瞬にして爆発音と共に熱風が広がる。

「熱い!」

 体が炭になるほどの熱さを耐えた。しかし、幾人かは耐え切れず、服などを完全に燃え尽きてしまった者もいる。障壁内の女性は無事のようだ。

「滑稽な穴掘りを見物する気はないのでね。賎種供め」

「闇エルフ」火傷を押さえつつ姿をあらわした敵を見た。

「上級透明化術を使っていましたね」

 フィロッグは呟く。

「今こそ、我が復讐を果たさん!覚悟!」

「私は戦えないわ!だって、鎧や剣が溶けてる!」

 レオノアが叫んだ。

「フィロッグ、ユーリル!戦える者だけで奴を仕留める!後は逃げろ!」

「くくく、そうはさせるか!」闇エルフ は入り口を塞ぐ。

「一撃覚悟で突っ走ってやるわ!」女戦士が走った。

「愚か者め!」

 闇エルフが剣を振り下ろす。しかし、重たい物を持って無い彼女は幸いかわしてそのまま走って行った。

「くそっ!」

「隙ありじゃぁ!」ドワーフは戦鎚を振り下ろした。当たったにもかかわらず効かない。

「だから、魔法は嫌いなんじゃぁ!」

 このドワーフは敵の防御呪文を知っていた。

「僕がカバーする、君達呪文術者は、こいつを怪我せず押さえる呪文でなんとかしてほしい!」

「分った!」

 ユーリルの提案にドルマは賛同した。後退する。

「王子直々のお出ましか。笑えるな!」悪しき者は邪悪な笑みをもたらした。

「あまくみるなぁ!」

 闇エルフの剣を巧みに躱すユーリル。元々騎士の剣術を学んでいるゆえ出来る芸当。かつスカウト(自然地域の案内者。盗賊に近い能力を持っている)の防御能力を使って不意打ちをも躱した。

「小賢しい!!」

 闇エルフは剣を棄て、両手を前に押し出すようにして

「紅蓮の炎よ敵を焼き尽くせ!」

 両手から扇状に炎が燃え盛る。ユーリルは熱さに苦しんだ。

「耐えて見せる! 姉さんを救うのは僕しか居ないんだ!」

 一方、ドワーフと魔技は呪文を掛け続けていた。しかし、敵の魔法抵抗力を凌ぐ事が出来ないでいる。この闇エルフは強さから、地上の言語の流暢な事から日光を克服している事が分った。解呪して、肉弾戦に持ち込めそうにも無い。魔技は呪文が尽きた。

「いちかばちか、最後の呪文じゃ。人物拘束を使う」

 ドワーフが友に言った。

「お願いします。そうでないと私たちに未来はありません」

「うむ……。多いなる神、ゴールデンアックスよ、我に力を!我が敵を汝の手によりつかみ給え。人物拘束!!」

 “頼む!効いてくれ!!”ドワーフは神に願いながら奇跡を信じた。

 奇跡は届いた。闇エルフは何かしら別の神の力場を感じた。しかし、此方には無効化できる力がある。おかしい? すり抜けてゆく! 絶えなければ! 嘘だ!なんてことだ! 我が女神よ私を見捨てるのか!?

“種馬の役しかできん男なぞに貸す力なし”頭に女の声が聞こえる。「蜘蛛の女王」よ!助けてくれ……。

 闇エルフは、拘束の呪文にかかり、その場で硬直した。


 逃げ延びた数名の者は心配でたまらなかった。剣戟などが止んでから、恐る恐ると戻ってくる。すると、ユーリルが闇エルフに木魚を叩くかのように剣で叩いている。皮膚石化呪文を解いているようだ。其の間に、ロープで縛り付けるドワーフがいて、疲れ果てた魔技が障壁呪文にもたれかかっている。

「勝てたの?」

 レオノアが聞いた。

「見ての通り。ほれ小さいが此れでも羽織っておけ、男には目の保養じゃ」

 ドワーフが少し焼けたマントを渡した。レオノアは自分が裸の状態だと気がつき真赤になった。

「いやぁ!」

 マントを奪い取るようにして広間の隅に走って行った。其の後、ティクスがまともな着替えの服を貸してくれた。

「実践慣れの賜物か?」

 J・Jは聞いてみた。

「神の御力のおかげじゃよ。最もワシが鍛練を怠ってないからな」

「ふうん」

「ワシの信奉する神は鍛練を司る。努力をすればいつか成功する物じゃ」

 自慢気にドルマは言った。

「いて!」

 フィロッグは障壁にもたれかかっていたため唐突に障壁が消えて頭を打ったて地面に倒れた。障壁呪文の効果時間が切れたようだ。

「任務成功!ってとこですか?」

 魔技は頭を押さえながら笑った。

「姉さんが心配だよ」

 ユーリルは姉に駆け寄る。大丈夫、息がある。只、麻痺毒で動けないみたいだ。ティクスはその解毒剤は無いと首を振る。

「担いで帰りましょう王子」

「そうするしかないね」


「意外に簡単に片付くとは」

 フェイマスは驚いていた。

 書類を見る限り、情報が早く届いたのである。息子に感服するしかない。領主にして情報部支部長ヨハナを。闇エルフの計画と、そして王女救出成功。この情報が事件の一日後に届いている。嬉しいのは、姉弟そろって健在ときた。安堵する。

「さて、私は政事に戻るとするかな。ご苦労だった。バリアンとムールワンにこの事を告げなければな」

 フェイマスはまた風のように立ち去った。

「私は、骨折り損したのかなぁ」

 彼は活躍できないような気になり、自分にちょっと悔しがっていた。


 クローズに戻った一行は、アリスを看病し回復するのを待った。其の数日後、彼女に今の現状を説明する。アリスは愕然とし、号泣した。無理も無い、戦乱で父、母、兄が逝ってしまった事実を聞かされたのでは、これ以上話を続けるのは無理だと弟と其の恋人は言い、宿屋の部屋にアリスを連れて行く。

 レオノアは、泣いた。彼女もまた戦乱で大切な人を無くしてしまった犠牲者でもあるからだ。彼女の気持ちは良く分る。人探しの依頼をよく受けるのもそのためだった。

 J・Jは淡々としていた。所詮命ある者はいずれ死を迎える。そんな感じだ。

 ドルマと魔技は黙したままだ。この先の敵が強大になる気がして仕方ないのだ。ドルマは神の啓示を受けていた“この騒動、より危険なり。王道目指す者に王の証を捜させよ。そして、最も邪なる者と戦うこととなろう”最も邪なる者…。何者だろうか?

 宿屋の部屋で一先ず落ち着いたアリスは、愛する弟とハーフエルフを抱きしめていた。安堵感が心地よかった。

「無事で良かった」

 三人は同時に言った。

「此れからどうするの?姉さん」

「決まってるわ。正当後継者としての勤めを果たすわ。ユーリル手伝って。貴方の気持ちは分っているけど、このままじゃいけないというのは知っているはずよ。そして、ティクス。貴女は残りなさい。

 これ以上、危険に身を置く必要はないわ。ユーリルの帰りを待っているのよ」

「アリス!」

「いい?ティクス。ユーリが帰って来るところは、貴女しかいないの。それに、体を大切にしなきゃ…」

「分ってたの?」半エルフは驚いた。

「うん。新しい命がお腹の中にね」

「本当かい!?」ユーリルは驚いた。

「しょうがない弟ね」姉は笑った。

「さて、皆が待ってるわ。降りましょう」


 アリスは二人と共に戻ってきた。顔には悲しみはない。これからなすべきことを見つけたかのように凛々しい。

「救出してくれたあなたたちには感謝の言葉もありません。これから起こる動乱を阻止せんが為、私は、王位継承者として務めを果たすつもりです。しかし、現状を知るのみで、まだ道を見出してはいません。そのためにも、あなたたちの命、私に預けてください」

「分りましたアリス王女」レオノアが言う。

「アリスでいいわ。一応私は隠密に事を進めたいの。堂々としたいけれども、動乱を早めるだけだわ。まず、レイガースが言ったように王の証を探しに行きます」

「『大剣』?」

 ドルマが訊いた。

「そう、其れも本物を。其れを捜します。手伝ってください」

「分りました、アリス」

 フィロッグは笑った。

「神よ、我らの探求に力を与えたまえ」

 ドワーフは神に祈り、案じた。

 J・Jは黙したままである。言うまでもないと言った態度だ。

 そして、皆が一同に握手した。

 其の先の邪なる者を敵に……。


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