路上占い、あれこれ164その2対決【占い師はつきまとわれる】
崔 梨遙(再)
朝の掌編 2744文字 です。
夜のミナミで路上占いをしていたら、梨花という29歳のヤンキーというかギャルと知り合った。路頭に迷っていた梨花に、独身寮のある仕事を紹介した。秋の終わり、冬の始まりだった。すると、大晦日に梨花は僕の住むマンションにやってきた。梨花は1週間僕の部屋で過ごしたが、僕は梨花に手を出さなかった。行き場の無い梨花の弱みにつけこむみたいで手を出さなかった。だが、大晦日の夜は除夜の鐘を聞きながら初めて梨花と結ばれた。元日は梨花が作った雑煮を食べながらのんびり過ごした。梨花の方から積極的に求めてくるので、僕は梨花の気持ちに応えた。梨花が『合い鍵がほしい』というので、僕は梨花に合い鍵を渡した。
それからの梨花は、通い妻だった。寮で着替えて僕の部屋に来る。
『また来たで』
『梨花、また料理作ってから仕事に行ったやろ?』
『うん、美味しかった?』
『美味しかったけど、遅番の度に飯作ってから仕事に行かなくてもええんやで、しんどいやろ? 遅番の日はゆっくり寝てから仕事に行ったらええよ』
『全然しんどくないで、外食やと栄養が偏るで』
『あと、早番の時も、しんどい日は外食に行ってもええんやで』
『全然しんどくないもん』
『ごめんな、また土日に休めなくて』
『ええよ、土日に休みの時はどこか行こう、デートや、デート』
『遅番やから、崔さん、一発抜いてあげる』
『え!? ええよ、無理しなくて』
『崔さんが他の女を抱かないように』
梨花はなかなか土日は仕事を休めなかったが、梨花が遅番の土日は1回結ばれてから梨花は仕事に行った。僕達はめちゃくちゃ仲が良かった。
しかし、これは梨花の元彼が酷すぎたからだ。そりゃあ、DVの元彼と比べたら僕の方が優しいから気に入られるだろう。比較される相手のレベルが低すぎて良かっただけだ。
『崔さんは殴らないから好き!』
などと言われる。いやいや、普通は殴らないから。梨花の元彼と比較されるなら、ほとんどの男が合格点をもらえるのではないだろうか? 僕はちょっとモヤモヤしていた。当たり前のことをしているだけなのに過大評価されるのが嫌だった。だから、何度も話し合った。
『あのさぁ』
『ん? 何?』
『梨花は僕のこと好きって言ってくれるけど、僕のどこが好きなん?』
『優しいところ』
『そりゃあ、DVの元彼と比べたら、世の中の多数派が優しいと思うで』
『そんなことないで、あんたの優しさは普通の人の優しさとは違うから』
『え? どういうこと?』
『あんたも私も幼い頃から苦労してるやろ? あんたには、そういう普通と違う優しさがあるねん』
『でも、僕は今までに、梨花みたいにきずついた女性と付き合ってきたけど、みんな傷が癒えたら僕の元から離れていったで』
『ほな、私は離れへん』
『あと、梨花は僕の身長は気にならへんの? 僕は169やけど梨花は173やろ? ええの?』
『あんたはそんなことを気にしてんの?』
『僕は気にならへん。前にも173センチの女性と付き合ったことがあるから。でも、梨花は嫌かなぁ? と思って』
『私も気にしてへんよ、私はあんたが好きやねん』
しばらく経った土曜日、早番の梨花から電話があった。
『どないしたん?』
『店の前に元彼がおるねん』
『え? なんで?』
『私の友達が私の居場所を喋ったらしい。脅されたから喋った、ごめん、って連絡があった』
『ほな、店を出られへんな。ほな、迎えに行くわ』
タクシーで最短時間で店の前に着いた。店の前にス⭕ジャンを着たサングラス、男が立っている。多分、こいつだろう。僕より背は高い。でもヒョロッとしている。思ったよりも怖くない。まあ、怖くても怖くなくても同じ展開になるのだが。
『もしもし、今、店の前やから出ておいで』
『大丈夫?』
『大丈夫や、出ておいで』
梨花が店から出て来た。梨花に迫るサングラス、僕は梨花とサングラスの間に割り込んだ。
『お前か? 梨花の新しい男は?』
『そうや、店の前やと迷惑がかかる。梨花、近くに公園は無いか?』
『あっちにある』
『ほな、移動しようや』
『今日は梨花を取り戻しに来たんや、邪魔すんなよ、おっさん!』
『梨花を渡すわけにはいかんなぁ、おい、渡さんって言うたらどないすんねん?』
僕も昔は不良だったと思う。偏差値の高い不良を目指していた。毎晩、夜遊びもした。毎晩、飲めないのに無理して飲み歩いた。かといって、僕等の頃の不良はあまり喧嘩をしない。僕も喧嘩慣れしているわけではない。それでも、女性のために戦わなければいけないときがあることは知っている。緊張はしていた。ここは絶対に負けられない。
『うるさいねん、おっさん!』
サングラスが一歩踏み出したところを、柔道の出足払いのタイミングで空手のローキック、相手の姿勢が崩れたところを、腕と胸ぐらを掴んで背負い落とし。投げられて仰向けきなったサングラス野郎の脇腹や腹に蹴り、蹴り、蹴り! サングラスが立ち上がり懐から新聞紙で包んだ嫌な物、包丁を取り出した。しまった。怪我をさせまいと腹を蹴ったが、顔面を蹴っておけばよかった。僕は上着を脱いで左腕に巻き付けた。
『殺してやるよ!』
向かってくる包丁だけを見つめる。包丁の動きだけ見て、上着を巻き付けた左腕で包丁を跳ね上げた。もう遠慮はいらないだろう。僕はサングラスの頬を殴った。顔を押さえてサングラスの顔が下がる。その顔にひざ蹴り。手加減してしまった。サイトが倒れたので、首から下をしばらく蹴り続けた。
『もう、やめてくれ』
『お前は梨花のお腹の中の赤ちゃんの命を奪ったんやぞ!』
とりあえず蹴る。
『もう、やめてくれ』
『やめたら、また梨花を狙って来るやろ?』
とりあえず蹴る、主に腹を。
『もう梨花は諦める』
『嘘つけ』
とりあえず蹴る。
『ほんまや、梨花は諦める』
『ほんまやな? もう、梨花の前には現れへんのやな? 約束出来るか?』
『約束する、だから、もうやめてくれ』
『わかった。この包丁は没収や。お前の指紋がべったりついてるからな、次、また来たら事件として警察に裁いてもらうで、わかったな?』
『わかった、わかった』
『ほな、はよどっか行けや!』
サングラスは、顔と腹を押さえながら退場した。
『梨花、これでええか?』
梨花がしがみついてきた。
『危なかったやんか、心配したんやで』
『でも、大丈夫やったやろ?』
『うん、私のせいで危険なめにあわせてごめん』
『ええよ、これくらい』
そういえば、喧嘩になると思って、威嚇するために僕は黒のスーツにサングラスだった。僕もサングラス野郎だった。そのことに気付いた。
梨花はしばらく、僕の肩で泣いていた。胸で泣かせてあげたかった。もう少し身長がほしいと、その時に初めて思った。
女性と真剣に付き合うと、たまにはこんな修羅場もあるのだろう。負けなくて良かった。負けたらどうなっていたのだろう? 僕は天に感謝した。
路上占い、あれこれ164その2対決【占い師はつきまとわれる】 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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