-4- 通行日誌

「この頃、データ化することで色々わかるというし、うちも日誌をデータ化?だっけ、まぁそれにしたいから、そういうのは若い子の方がパソコンとか知ってるから、よろしく頼むよ。給料はプラス200円にしよう。とりあえず70年分やっておいておくれ」


老婆はそう言って、古い帳面を机の上に置いた。70年分と言っても量が多いいわけじゃない。3冊ぐらいだ。表紙は擦り切れていて、角が丸くなっている。中を開いてみると、文字がびっしり。頭が痛くなるほどびっしりと書いてあった。これを、データ化するとは打ち込む量が半端ない。志麻さんは若い子のほうがパソコンを知っていると言っていたが、俺は別に得意なわけじゃない。ましてや、十本指で打てるほど器用でもなかった。パソコンは普通両手指の十本で操作するというが、十本指なんて、夢のまた夢だ。なので、いつも2本指しか使わない。使わないは、胸を張りすぎた。正確には二本指しか使えない。これは、えげつない仕事を受けたと後悔したと同時に使命感に駆られた。



予約帳と呼ばれていたそれは、

ここでは通行日誌という名前がついている。


「この仕事に、休みはないからね」


それだけ言って、老婆は帰っていった。

いつものことだ。説明はしない。


俺はこの詰め所で生活している。

トイレはあるが、風呂はない。


だから二日に一度、銭湯に行く。

行く前には必ず、通行日誌の時間を確認する。


予約がなければ、橋と詰め所に鍵をかけて外へ出る。

それも、決まりの一つだった。


湯船に浸かりながら、ぼんやり考える。

今日、入力した名前のこと。


観光で橋を渡る人からは、金は取らない。

むしろ無料だ。

名前を書いてもらうだけでいい。


それなのに、

朝と夜に来る予約者からは、きっちり二万円を受け取る。

先着だからか...?

でも、同じ橋で先着だからと言っても2万は高い。

渡っているのも、同じはずだ。


なのに、扱いがまるで違う。


なぜだろう.....?


と初めて思った。


湯気の向こうで、天井が揺れて見える。

俺は目を閉じる。


理由を知る必要はない。

そう思って、この仕事を続けてきた。


今日も、蝋燭とマッチを渡すだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る