流れ星

ベアりんぐ

第1話


 僕は流れ星、青と白の光を連れてどこまでも行く。まっさらなのかまっくらなのか、僕にはわからないけど、とにかくそういうなにもない空間をひたすら流れている。


 たまに、ごくたまに、丸い……なんて言えばいいかなぁ、僕より大きくてぼんやりしているものとすれ違う。僕が流れ星だから、あれはきっと止まり星だ。同じように光っているけど、原理は違うんじゃないかな。


 僕は目がよく効くから、そこにいる小さい動物を見ることがある。形はさまざまで、僕と同じように丸かったりとんがっていたりする。とんがっているのは、僕に言わせれば歪だ。でもこの「流れ星」という名前は、そんな歪な彼らからもらった。そんな気がする。


 僕はこんなふうに流れているもんだから、どこで生まれてどこで死んでいくのかなんてのはわからない。ついでにこうした言葉たちっていうのは、やっぱり彼らのような「止まり星にいる歪な彼ら」から得ている。正確には見ている、のだと思う。


 きっと彼らには、どこで生まれてどこで死んでいくのか、わかるんじゃないかなぁ、そんなふうに思う。そう思うたびに、僕の後ろにつく青い光はぼうっと光って、白は一層激しくなる。この体がガリガリと音を立てるときもある。


 僕は羨ましい反面、彼らを見つけると惹かれてしまう。これをなんと呼んだらいいか、僕は未だにわからない。僕が流れ星だからだろうか?



 

 さて、

 そんなふうに過ごしていた僕だが、あるとき同じ流れ星を見た。同族を見たのは初めてではないが、あまり会えるわけじゃない。僕は見えない流れに逆らうように、彼に近寄った。


「もし、もし」


 そう声をかけた。彼が気づき、こちらに近づいてきた。彼は最初すごく興奮していた。なんでも同族と会うのはスウヒャクネン?ぶりだということで、僕とは違うオレンジの光を揺らしていた。


「こりゃまた立派なオビレだ! 俺のはちと大胆なもんだからさ、憧れちゃうよ〜」


「いえいえとんでも。そちらも良いです、熱の止まり星みたいで」


「そりゃリィヒットァダロゥってんだ。ちなみに俺はストュラティカ、あんたの名前は?」


 名前……流れ星ではないのか? そう言うと、彼はガラガラと笑いながら、光の指を突き立てた。


「いいかい、流れ星ってのは僕らのことだ。総称のことだ。君の言葉ぶりからすると、あの小さくて動いてるやつ、さては見たことあるだろ? あれも一つの名前じゃないんだ、それぞれ別の名前を持ってる」


「なんだかいろいろあるんですね」


「そう。だから俺も名前をつけてみたんだ、どうだいカッコいいだろう?」


「なんだか、速そうで輝いている印象を受けます、えっと……」


「ストュラティカ」


「そう、ストュラティカさんにお似合いです。僕も名前が欲しくなります」


「だろう! ……そうだなぁ、じゃあ俺が名前を付けてみようか! どんながいいか?」


 ふむ、

 僕は迷った。僕はなんだろう、僕はどんなだろう、僕はどんなであろう……思いつくのは色ばかり。速いのか遅いのか、輝きが強いのか弱いのか、まるでわからない。


「青くて白くて、あの止まり星にいる彼らが羨ましくて、そして……」


 僕は詰まってしまった。心なしか、後に来る光も弱くなっている気がする。ストュラティカさんも腕を組み、グツグツとした音を立てている。


「なんだか……あっ、そうだ! シムリュゲイアなんてのはどうだい? 俺が見たやつで、君に似たやつの名前なんだけど」


「シムリュゲイア……」


 なぜだか懐かしい気がした。それがストュラティカさんから流れてきているのか、僕から溢れてきているのかわからないが、とにかく頷きたくなる名前の響きだった。


「シムリュゲイア、いいです。僕はこれからシムリュゲイアです」


「きたか! なら俺たちはもう友達だな!」


「トモダチ?」


「そうさ、名前を教え合ったんだから友達さ! よろしくなシムリー!」


「シムリュゲイアはシムリーじゃないですよ?」


「こりゃ愛称ってのさ。友達ってのは愛称で呼び合うもんなんだと。どうだ、良いだろう?」


「なら、ストュラティカさんは……ラティー、なんてのはどうです?」


「へへっ、なかなか良いじゃないか! 俺はラティーで、君はシムリー。前に会ったやつは話もろくにできなかったんで、俺はすげぇ嬉しいなぁ」


 シムリュゲイア、ストュラティカ……僕らは流れ星という名前から踏み出し、それぞれの名前を持って進む流れ星、というわけだ。生き方は変わらないけれど、なんだか誇らしく、温かい。


「行くアテがないなら、ちょっと付き合ってくれよ。どうだいシムリー?」


「僕は……もちろん良いですよ。行くアテなんて持ち合わせてませんから」




 それから、シムリュゲイアとストュラティカは行動を共にした。他の流れ星には出会わなかった。最初僕は、友達というものがどんなものかよくわからなかったが、きっとこれまでにないものを運んでくるものだと思っていた。


 考えは合っていた。しかし良くも悪くも、これまでにないものを運んできたなぁと、今では思う。途中から遠慮らしい遠慮は消え、互いに合わないことや気に入らないことに目くじらを立てるようになった。初めて喧嘩をしたのなんて、どちらの止まり星を見るかどうかの些細なものだった。


 あえて彼にぶつかったり、無闇に接近したりした。そのたびに彼もやり返してきた。何度も離れてやろうと思ったし、君とは絶交だなんて言い合った。しかし離れなかった。きっと、お互いに寂しいのはもうごめんだったからだ。


 そうしてやってきた、ついこの前まで。この前がいつかなんてわからないけれど。……別れというのはいつまでもやってこないが、やってきたとき、それはあっという間に訪れ引き裂くものなのだ。


「シムリー、俺はもう落ちるらしい」


 そう、ラティーは言った。僕はなんだかよくわからなかった。残される側はなにもわからないらしい。残す側はなにもかもわかってしまうらしい。


「俺のカケラを……君と」


 ラティーは橙色の、すごく小さいが重たいカケラを僕に渡して……大きく開いた穴のようなものへ向かっていった。


 あのとき僕は……なんて、言っただろうか?




 それでも、一人になった僕の旅は続いた。旅という言葉はラティーの……彼のお気に入りだった。まるで僕らの生き様を表しているみたいだ、とよく笑いながら言っていた。僕も、そんな言葉が好きだった。


 一人になってから何度虚空に話しかけただろう? カケラのせいだ、と思った日もあった。まだラティーが側にいるんじゃないかと思ってしまうから。これまで結構のんきしてた僕は、初めて一人の寂しさを思った。寂しさを読んだときは、この岩石でできた体がバラバラになってしまいそうだった。


 だからこそ、かな。僕は旅を続けた。彼のカケラを持ちながら、彼も僕も見たことのない場所をいくつも巡った。そのたびになにかわかって、途端になにもかもわからなくなることを繰り返した。それでも僕は、旅を続けた。


 ラティーと別れてから、いくつかの流れ星と出会った。嬉しいような悲しいような、向き合うことのできない感情の昂りが湧いたが……彼らはみな、言葉を持っていなかった。ただ流れていく、その後ろ姿を見るたびに、僕はいったいなにを欲していたのか、やっぱりわからなくなった。


 僕はなんなのか、ラティーはなんなのか、僕ら流れ星はなんのために流れて、なんのために死んでいくのか。誰かに問うことのできない問いばかりが残り、僕の中で煩わしく回っている。そのたびに繰り返しくりかえし、カケラを握っていた。


 僕は、彼らならわかるんじゃないかと思っていた。しかし違うだろう、きっと彼らもわからないのだ。止まり星の中で小さくうごめくばかりの彼らも、どうして生まれてどうして死んでいくのか、わからないのだと、今は思う。


 僕はそれから、わからないがわかる、と一旦の事実だけを持ちながら、ひたすら旅を続けた。いつかわかるだろうと、一つの希望だけを持って。




 ……だからこんなメッセージを残しているのだと思う。流れ星ではあるが、僕はシムリュゲイアだ。まったくの個人だ。言葉を持った、たった一人の流れ星だ。落ちる前に、君のような流れ星に伝えたいだけなのだ。


 この旅に意味はない。使命や覚悟の話なんかじゃない、もっと大仰で大枠なものだ。楽しいも悲しいも、ムカつくもはしゃぐのも、すべて意味がない。……もうすぐ僕は落ちる、このストュラティカのカケラを持ってね。


 ただ、唯一意味をつけられるのは、君だけだ。僕はこうして意味のなさを見つけて、君に託す。それが僕の、わからないなりにわかったつもりで見つけた意味なのさ。


 さて、もうすぐ行かなくちゃならない。思えば君との旅は、僕としては語るばかりのものだった。君からすればさぞ退屈な時間だったのかもしれないが。それでも話したいと思ったんだ。残したいと、そう思ってしまったんだ。


 さよなら僕の兄弟。君の旅に、数多の意味があらんことを願って――。




        * * *




 ずいぶんと勝手なシムリュゲイア、いやシムリー。私は今でも、意味を探し続けている。果たしてこの意味に名前をつけることができるのか……まったくわからないけれど、


 それでも私は走るよ。


 ずっと暗い場所を揺蕩いながら、あなたに似た白と青の光を連れて。

 

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