消えた街の光
@kiba2025
消えた街の光
子供のころ、僕は毎晩、窓から遠くの街の光を眺めていた。
小さな町の明かりは遠くて淡く、手を伸ばしても届かない存在だった。それでも、向こう側には何か特別な世界があると信じていた。
町外れの坂道に立つと、空気はいつもより澄み、僕の心は遠くの光を追いかけて夢想する時間で満たされた。
ある厳しい冬の夜、町は静寂と雪に閉ざされ、街灯の光はぼんやりとした金色の霧の中に沈んでいた。家族は暖かい居間に集まり、暖炉の炎だけが揺れていたが、僕はひとり、外が気になって仕方なかった。
その瞬間、光が一つ、また一つと消えていくのに気づいた。最初は街灯が壊れただけだと思った。しかしよく見ると、家々の窓すら光を失い、暗闇が静かに世界を包み込んでいた。
驚きと恐怖が同時に僕を襲い、体が硬直した。
声を出そうとしても、雪の音にかき消され、誰も気づいてくれない。僕は窓をそっと開け、外へ足を踏み出した。冷たい雪が足首まで沈み、その底知れぬ冷たさが体中を貫いた。
通りを歩くと、消えた街は別の空間のようだった。空は白く、音は消え、ただ静寂だけが確かにあった。
歩みを進めるたびに、不思議な感覚が胸に広がった。
まるで世界が一度リセットされ、忘れられた記憶だけを残して消えていったような気がした。やがて遠くの暗闇の中に、かすかな光の点を見つけた。
それは僕がいつも追いかけた町の光ではなかった。柔らかく、温かく、まるで誘われるようにそこへ足を向けた。
近づくと、そこには古い公園があった。雪に覆われたブランコが揺れていた。誰もいないはずの場所から、微かな声が聞こえた。
「やっと来たね。」
振り返ると、町は完全に消えていた。僕の家、店、友達の笑い声さえ、すべてが雪に包まれ、記憶としてだけ残っている。
しかし、光は消えずにその場所に灯り続けていた。僕は恐怖と安心が混じった気持ちでブランコに腰掛け、静かにその光を見つめた。
夜が深まるにつれて、僕の胸の中にも小さな光がともった気がした。
あの日遠くで見ていた街の光は、決して届かないと思っていた。しかし僕の内側には、確かに光が息づいていた。
それは消えた世界の記憶でも、過去への未練でもなく、これから僕が歩む物語そのものだった。
僕はそっと目を閉じた。
光の残響が、静かな冬の空気の中で、やさしく脈を打っていた。
消えた街の光 @kiba2025
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