第13話 王様の資質。

 何度か繰り返していると、いくつかのことに気づいた。セシル様は、相変わらず小さな氷しか作る事ができない。


 だが、発動が速い。

 繰り返しているうちに、一節を呟くだけで氷が出せるようになった。


 そして、正確だ。

 繰り返しているうちに、小指ほどのシャルル像を作れるようになった。なぜか像が下着姿なのが気になるけれど。


 練習しても氷が大きくならないので、少しはショックを受けるかと思ったけれど、セシル様は、そうでもなかった。


 「これで、シャルルの飲み物に氷を沢山入れられるね!」とのことだ。


 この人といると、危機的な状況でも、のんびりした気分になってしまう。



 ♦︎



 先日、アルさんに聞かれた。

 「シャルル様。王に最も必要な資質は何だと思いますか?」


 「それは、民を思いやる優しさ……ですか?」


 アルさんは髭の端を摘んだ。

 「たしかに。でもそれは、2番目か3番目ですな。1番目は、自分なりの正義を信じることができる強さです」


 自分なりの正義?

 正義は唯一無二なのでは。


 「それなら暴君……例えば、魔法王國アリストンを滅ぼしたバルスの皇帝だって、資質があることになってしまうじゃないですか」


 わたしが生まれる前の話だが、20年ほど前、魔法王國アリストンは、軍事帝国バルスに蹂躙され滅ぼされた。そのキッカケは、アリストンの姫がバルス皇帝の求婚を断ったことだったらしい。たったそれだけの理由で激昂し、何万人もの人間を殺した暴君……それがバルス皇帝だ。


 わたしはアルさんが否定すると思ったが、違った。


 「そうです。暴君であっても、己の正義を信じ切れるのなら、王としての資質はあると言えます。逆にいえば、たとえ優しくても、悪意ある家臣の讒言ざんげんに惑わされ傀儡になるようでは、王の器とはいえない」


 「でも、その基準だったら、セシル様みたいに優しい人は、資質がないって結論になりませんか?」


 アルさんは首を横に振った。

 「セシル様には資質があります。シャルル様だってご存知のはずです。セシル様は王位を簒奪するという発言を取り消しましたか?」


 最初は怖くて震えていたような。


 でも、たしかに、前言を撤回するような事は、一度も言っていない。


 アルさんはニカッと笑った、

 「とはいえ、心がない王には、家臣はついてはいきませんがね」



 目の前で氷を作り続けている王子様を眺めながら、わたしは、ふとそんな事を思い出した。


 「セシル様。わたしがどこかの国のお姫様で、セシル様が王様だったとして。わたしが、セシル様の求婚を断ったらどうします?」


 「へんな例え話だね。これを全国民にバラ撒かれたくなかったら妃になれっていうかな」


 「これって?」


 すると、セシル様が手を広げた。


 ポトンと落ちたシャルル像。

 全裸だ。


 「キャアア。こんなの作っちゃダメです。こういうので脅すのは、いけないことなんですよ?」


 わたしが睨むと、セシル様は笑った。


 「冗談だよ。シャルルの裸は誰にも見せたくないし。ほんとはね。これを使う」


 セシル様が手を広げると、精巧な氷の花びらが現れた。そしてそれは、すぐに無数の花びらになり、瞬く間に氷の花束になった。


 セシル様はそれを両手で抱えて、わたしに渡してくれた。


 「この花束を何百回でも君に送るんだ」


 氷の花束。

 透けた花びらの輪郭が何重にも輝いて、磨き上げた鋼のように美しい。


 わたしは幸せな気分が溢れて、セシル様の顔を見れなくなった。


 (そんなの、一度だけで十分すぎます)


 「ごめん、シャルル。冷たかった? 今度は頑張って、お湯も出せるようにするからね」


 セシル様は、窓の外を見た。

 視線の先には、小さくお城が見えている。


 「僕は、この国から奴隷をなくしたいんだ。人が人を物のように扱うことが好きじゃない。ま、こうして君に会ってもらっている僕が言える話じゃないけれど」


 セシル様は笑った。


 「それは違います。わたしは、セシル様に会いたくて来てるんですから」


 (言っちゃった。変に思われるかな?)


 すると、セシル様はニヤニヤした。


 「ふーん。シャルルは僕に夢中と。それは、君がいうところのプロ失格では?」


 わたしの顔は燃えるみたいに熱くなった。


 「セシル様の意地悪っ!」

 文句を言いながらも、わたしは、この時間が大好きだ。



 トントン。

 ドアがノックされた。



 「シャルル様。貴女にお願いがあります。我が国教アストレアの大司教を籠絡していただけませんか?」


 (それって、女を使えってこと?)

 

 わたしが答えるよりも先に、セシル様が反応した。

 「アル。それはどういう意味だ? 事と次第によっては、お前でも許さないぞ」


 その声は低くて、冷たくて。


 怖かった。


 

 

 

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