第7話 シャルルのお願い事。
「王位継承争いに勝つには、どうしたらいいんですか?」
わたしが質問すると、セシル様が答えてくれた。
「分かりやすく武勲をあげること。戦争で活躍できれば手っ取り早いんだけど、そうあることじゃないからね」
「他には、どんなことがあるんですか?」
「そうだね。狩猟や剣の試合、あとは会議とかかな。たまに父上に国政について質問されることもあるし」
相当に広い範囲での対策が必要そうだ。
すると、控えていたメイドがセシル様の前で膝をついた。スカートを持ち上げた拍子にチラッと短剣が見える。
「当面の問題は、セシル様の軽率な挑発で、激しく命を狙われていることです」
鋭利な刃物のような眼光。
「命……剣の先生をつけるんですか?」
わたしの質問にアルさんが答えてくれた。
「ふぉほほ。剣はわたくしめがお教えします。このポンコツ王子の根性を叩き直してさしあげましょう」
「えっ、アル様は剣はできないのでは?」
すると、セシル様が耳打ちしてきた。
「ジイは、元近衛騎士団長だよ。できないどころか、この国でこの人より強い人は数えるしかいないんだ」
「ええーっ。わたし、さっきのお話信じちゃいました」
のせられて、ハッタリでいけるような気がしたけれど、アルさんは普通に剣がとても強いらしい。
「ほほほ。それこそがまさにハッタリ。要は、わたしが剣ができてもできなくても、やり方次第ってことです」
アルさんは、剣を鞘に収めるとニヤリとした。
「また刺客がきても、アルさんみたいに強い人がそばにいるなら、とりあえずは安心ですね」
アルさんは首を傾げた。
「わたしは暗くなる前には帰りますよ? ジジイなので疲れやすいですし。セシル様が強くならないと、なにも大丈夫じゃないですね」
やっぱりセシル様に強くなってもらわないと。
これは前途多難だ。
アルさんは言葉を続けた。
「それと魔法は、シャルルさん。貴女に先生をお願いできませんか?」
わたしは母に、魔法のことは秘密にするように言われた。引き受けても良いのかな。
「わたしは人に教えたことないですし、知ってる魔法の数も少ないです。ハッタリで切り抜けるなら、魔法の練習はいらないのではないですか?」
「1を10に見せることはできても、0を10にするのは難しいのです。セシル様ご自身にも最低限はこなしていただかないと作戦の幅がひろがりません。それにこの国には、魔法が使える人が殆どいません。貴女以外に頼める人がいないのです」
魔法は血で受け継がれる。
だから、この国には使える人がほとんどいない。
わたしがやるしかない。
「分かりました。お引き受けします。でも、お願いがあります」
「何かご心配でも?」
「少し事情がありまして。わたしが魔法を使えることは内密にして欲しいのです」
母に何度も念を押されたことだ。
せめて大っぴらにはしたくない。
「分かりました。では、魔法の授業はお二人の逢引きの時にしていただきましょう」
「えっ、それじゃあ、シャルルと仲良くする時間が減っちゃうんだけれど」
セシル様は不満そうだ。
(それにしても2人の会話、なんだか親子みたい)
アルさんが眉間に手を当てた。
「セシル様。あなたのことなんですから、もっと真剣になってください」
「分かってるよ。シャルルのためにもなることだし。ただ……」
セシル様は視線を落として目を細めた。
瞳が灯りで揺れる。
悲しそうな笑顔で顔を上げると、言葉を続けた。
「僕が王になることが、この国のためになるのかなって、まだ迷いがあるんだ」
アルさんがパンと手を叩いた。
「シャルル様。今回のことは貴女への依頼です。大変なお願い事ですし、ことが無事に解決できたらお礼をさせていただきたいのですが、何か欲しいものはありますか?」
断ろうとしたが、アルさんは引き下がってくれなかった。それに、何も言わなかったら、逆に気を遣わせてしまう。
わたしはセシル様と会えるだけで幸せなのだけれど。少し考えて、あることを思いついた。
「あの。もし無理だったらいいのですけれど、他の人とお仕事しなくていいようにして欲しいです。あの、結婚したいとかじゃなくて」
アルさんは顎に指を添えた。
沈黙が訪れた。
ランプの灯りが壁に影を落とす。
アルさんはセシル様と視線を交わすと頷いた。
「分かりました。では、依頼達成のあかつきには、貴女を年単位で買いとらせていただきましょう。もちろん、セシル様の専属です」
夢のような話だ。でも……。
「あの。自分でいうのも変ですけど、わたしは安くないと思います。きっと、365日だと莫大な費用になっちゃいます」
自分で言ったのに、無理なお願いということに気づいてしまった。
アルさんは苦笑した。
「心配ご無用です。宝物庫から国宝をいくつか拝借してくれば、余裕ですので」
アルさんはピースサインをしている。
拝借って、盗むってことだよね?
「いや、ダメです。そういうの良くないし。やっぱり、さっきのお願いはなしで」
すると、アルさんがセシル様の前で跪いた。
さっきのメイドさんも続く。
「アズベルト王子よりも、わたしたちは圧倒的に不利な状況です。『お綺麗な方法』では勝てない。セシル様はそれ以上の価値のある方。だから我々は全員、他の誰でもないセシル様に忠誠を誓っているのです」
アルさんはニカッと笑った。
いまの言い方。セシル様個人に忠誠を誓っているというように聞こえる。ただの放蕩王子に、元近衛騎士団長が?
すると、セシル様がわたしの指先を握った。
「僕は君に他の人として欲しくないのだけれど。シャルルの本当の気持ちを聞かせて」
わたしだってイヤだよ。
でも、そんなこと、お義母様が許してくれない。
わたしは口を尖らせた。
胸の中が震えて、うまく息ができない。
何でだろう。涙が出てきた。
目尻がヒリヒリするのに、止まってくれない。
勝手に口が動く。
まるで自分の唇じゃないみたいだ。
「わたしも、セシル様だけが良い」
参ったな。
わたし、前はこんなじゃなかったのに。
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