第5話 執事アル。
セブンスフォール。
この国の王家のファミリーネームだ。
わたしはアルさんの後をついて行くことにした。路地を何度か曲がると、暗がりの行き止まりだった。
「さて……」
アルさんは振り向いた。
微かに差し込む月の明かりが、白髪混じりの口髭を照らしている。
さっき、最後の角を曲がったところで、物陰から人が出てきたのが分かった。
金属の擦れる音。
きっと鎧と剣の鞘が擦れる音だ。
辺りには他に人はいない。
そうか。
わたしは、切り捨てられたのだ。
なんで気づかなかったのだろう。
王族がわたしのような女と関係を持っているのだ。彼にはデメリットしかない。
余計な手間をかけてしまった。
わたしは首を横に振った。
ここで処分されるのかな。
痛いのは嫌だな。
せめて、セシル様にもう一度会いたいよ。
アルさんは、わたしをジッと見ている。
「シャルル様。誠に申し訳ないことなのですが……」
呼吸が止まる。
心臓が握りつぶされそう。
「あの、分かってます。きっと、あの後、わたしのことでセシル様の立場が悪くなってしまったのですよね?」
あんな怪我を負わされる程の敵意。セシル様とご兄弟の関係は想像がつく。城に戻って『はい、元通り』とはいかないだろう。
「あっ、いや……」
アルさんは執事かな? 優しい人だ。
こんな場でも、わたしを傷つけまいと気を遣ってくれている。
「覚悟はできてます。せめて、痛くないようにお願いします」
わたしはギュッと手を握り合わせて、頭を下げた。
「頭をもっと下げて」
「はい……」
そっか。娼婦のわたしは、地面に頭を擦り付けろということなのかな。
キンッ。
鋭い金属音がして、沢山の足音が響いた。
剣と剣がぶつかる音。
男の呻き声。
何が起きているの?
わたしは頭を上げようとした。
「頭を上げるな!」
アルさんの怒鳴り声。
怖くて肩がすくむ。
すると、音が止まった。
「チッ。やはりだ。……顔をあげてください」
アルさんの声にさっきまでの穏やかさはなかった。
「いえ、斬るならこのままで。痛いのはイヤです」
「いや、違うんです! 私がセシル様に怒られてしまいます」
アルさんの声から緊張感が消えた。
……?
「違うって何がですか? だって、剣の音がして、頭を上げるなって」
「想像力が豊かな方ですね。……失礼。周りを見てください。この者は護衛です」
顔をあげると、黒装束の男が倒れていた。その後ろには剣を差したスーツ姿の男性。
「え? どういうことですか?」
「今朝、王城で不審なことがありまして。セシル様の周りが少々物騒になっているのです」
わたしのせいだ。
「セシル様は無事なのですか!?」
わたしは自分の声の大きさに驚いた。
アルさんは微笑んだ。
「無論です。先日のことがありますので、セシル様の指示で、あなた様を迎えに来たのです。敵方に貴女の顔を見られるのは好ましくない。さっきは声を荒げてしまって、申し訳ありませんでした」
アルさんは頭を下げた。
膝から力が抜ける。
すると、アルさんがわたしの肩を掴んだ。
「おっと。手をお貸ししますね。セシル様には、そのまま馬車までご案内するよう仰せつかっていたのですが、つい、興がのってしまいました。お詫び申し上げます。でも、シャルル様」
「なんですか?」
「最後までセシル様の名前を出しませんでしたし、命乞いもしませんでしたね。ジイ的に合格です!」
アルさんは人差し指と中指を開いてVの形にした。
「はぁ。それは?」
「これはピースサインと言います。信頼の証です」
「そうですか」
まだ指先が震えている。
わたしも頑張って同じようにピースサインをした。
「ふふっ。詳しい事情はセシル様からご説明があります。では、こちらに」
わたしは馬車に乗せられた。
月明かりの中、馬車が走る。
のっぽの木が何重にも流れて行く。
もう街から随分と離れている。
どこまで行くのだろう。
すると、馬のいななきが聞こえて、馬車が止まった。客車から降りると、針葉樹に囲まれたお屋敷だった。
緑の匂いがして、街の風よりも冷たい。
アルさんが手を差し伸べてくれる。
「お待たせしました。レディ•シャルル。中でセシル様がお待ちです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます