第2話 ほくろと手相

天界は今日も慌ただしい。


「神様、次の確認です!」

息を切らしながら1人の天使が資料を持って駆け寄る。



神様は額に手を当て、ため息をついた。

「……またか。天界管理番号A-29のほくろと手相の最終確認か。」


天使たちの視線が一斉に神様に注がれる。


「本当に大丈夫ですか……?」

緊張で小さく肩をすくめる天使たち。



「うむ、仕方あるまい……」

神様は分厚いファイルを開き、手相の図面とほくろの位置一覧を確認する。

その指先はわずかに震えていた。


その時、天界管理番号A-29が現れた。

「神様、こことこっちにひとつずつ増やしてください!

そしてこっちのほくろの位置はこっちに寄せてほしいんです。

位置がこっちだと意味が変わってきます……。」

前のめりになりながら目を輝かせる。



神様は思わず後ずさる。

「ちょっ……!!量が多すぎるっ!

それになぁ、天界管理番号A-29。

こっちにある方が可愛いぞ?」

額の汗を拭いながら必死に笑顔を作る。



「神様……、今まで可愛さだけで付けていたんですか?」

天界管理番号A-29は鋭く、でも少し楽しそうな目で見た。



「ちっ、違う!安心しなさい。

でもな、ここまで完璧にやらなくてもいいんじゃないか?

花占い、数字占い、オーラカラーまで決めておるじゃろ?

普通こういうものは、人間界に降り立った後に自然に決まるものなんじゃよ?

それなのに全部何一つ残さず自分の性格に合わせて今決めなくても………。」

神様の声が少し震え、心臓もドキドキしている。



「あっ!神様大変!!

私まだ手相やってないじゃない!」

目を輝かせ、胸を抑えながら叫ぶ。



「手相?あぁ、手相は細かくて1番大変な作業だからあらかじめたくさん細かくやっておいたから安心してくれ。」

神様はそう微笑んだが、内心胃がキリキリしていた。



「あの………。全然足りないですけど。」

この一言でその場の空気が凍りついた。


このやり取りを見ていた天使たちは息を飲む。

「ほ、本当に……これ、仕様書の補足資料よりも大変そう……」



神様はそっと目を閉じた。

「……なんという子だ。

こんなにも完璧を求めるとは……」

肩の力が抜けないまま、額の皺は消えない。



天使がそっと言った。

「でも、なんだかんだで楽しそうですよね……」


小さく微笑む声に、神様は目を細める。

「楽しそう……かもしれんな。

だが量が多すぎてワシは胃が痛いぞ……」



丁寧に時間をかけ手相を完成させた神様は深く息を吐いた。

「……よし。手相もほくろも、これで準備完了だな。」


天使たちもほっと胸を撫で下ろす。



「さあ……次はいよいよ、人間界へ――」



天界管理番号A-29は小さく握った拳を見つめ、心の中でつぶやいた。

「よしっ……!いっぱい冒険するんだ!

これからどんな困難が立ち向かってきても意地でも乗り越えてみせるっ!!」

瞳には決意の光が宿る。



「これで全て準備は揃った。

…………と、言うことは

もうそろそろ人間界へ降り立つ時間じゃな……。」

心なしか少し寂しそうな顔で神様が言った。



その時、管理番号A-29がぴょんと神様の前に出て言った。

「いや、まだです!

今降り立つタイミングじゃないです。

あと3ヶ月待ってもらっていいですか?

そうじゃないと干支と星座がズレるんで。」



神様は一瞬目を見開き、苦笑いをしながら言った。

「……素直に降りてくれるとは思わなかったけどやっぱりなぁ。」



「え?3ヶ月待つって……。

魂って待てるんですか?」

1人の天使が小さい声でたずねた。



「……いや。

そこまで指定する子は初めてでなぁ。

普通はこちらが決めた日に毎回送り出していたんじゃが……。

……もう分かるじゃろ?

この子は何を言っても無駄なんじゃ……。」


そう言って遠い目をした神様を見た天使たちはクスッと笑った。



そして3ヶ月後 ――



天界の空に光が強く差し込む。

神様と天使たちは慌ただしく飛び回り、最後の確認をしている。


「……準備は完璧だな。」

神様は深呼吸をひとつして、目の前の小さな存在を見つめる。


天界管理番号A-29は胸を張り、両手をしっかり握りしめた。


「よし……いよいよだ。」

神様の声に、天使たちも背筋を伸ばす。


天界管理番号A-29は小さく深呼吸をして、心の中でつぶやいた。

「怖くても、泣きたくなっても、絶対に前に進む。

私の物語は、ここから始まるんだ!」



神様は微笑み、そっと手を差し出した。

「さあ……行くのじゃ、A-29よ。」


光が天界管理番号A-29を包み、体がふわりと宙に浮く。

天使たちは小さく手を振りそっと涙を拭った。

神様は微かに息を詰め、目の奥が潤むのを感じながらも笑顔で手を振った。


その瞬間、天界の慌ただしい音は一瞬止まり、新しい物語の幕が人間界でそっと開かれたのだった。

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