第2話

 翌日、私が道の駅へパートの面接から帰ってき後、離れのDIYに夫婦で取り掛かった。床板をバールで壊して剥がしていく作業は爽快感がある。順調に進んでいたのに、ある場所で夫の作業の手が止まった。


「何しているの?」

「なぁ、ここに金属の扉があるんだけど」

「扉?」


 夫の視線を辿って近付くと、剥がした床板の下、砂利が敷き詰められた地面に錆びた金属製の落とし戸が見えた。


「なんだろう。マンホールみたいなものかな。開けてみる?」


 鍵は付いていないようだ。


「そうだな。ちょっとワクワクするんだけど」


 夫は地面に飛び降り、取っ手を引っ張った。


「なんだこれ、固いぞ」


 歯を食いしばる姿に、勢いでひっくり返らないか心配になる。


「そのままにしておいたら? 元からずっと放置されていたものでしょ」

「いや、念のために何か確認しておかないと。一度床板を敷いてしまったら、また開けるのは難しいか──」


 夫が言い終わるか否かというタイミングで開いた。


「やった、開いた! はぁ〜、固かった。って、なんだこの匂い。くっさ。俺の靴下の臭いみたい!」

「ちょっとやめてよ」


 笑ったはいいものの、思わず鼻を押さえる。何かが腐ったような匂いに、獣の匂いが混じる。


「クマとかいないよね?」

「怖い事言うなよ」


 木製の階段が続く先は暗くて見えない。夫はスマホのライトで中を照らして覗き込んだ。


「床が見える。下水とかが流れてそうな感じはしないな」


 床はごく一般的な板張りで、主屋おもやの廊下と同じように見える。


「貯蔵庫かな?」

「降りてみるか!」

「やめなよ、階段の木が腐ってるかもしれないし。また不動産屋に聞けばいいじゃない。ねぇ、そろそろお昼ご飯作りに戻ってもいい?」

「あぁ、後はやっとくよ。よろしく」

「昼ごはんができたら声掛けるよ。今日は唐揚げとオニギリだよ」


 喜ぶ夫を置いてキッチンで昼ごはんの支度を済ませると、渡り廊下を歩いて離れにいる夫を呼びに戻った。


「大輔、ご飯できたよ〜」


 彼の姿が見えない。


「大輔?」


 辺りを見渡すと、先ほど見ていた床下の金属の扉が目に入った。まさか中に入ったのだろうか。扉は閉まっている。あれほど重い扉だ。もし中から出られなくなっていたとしたら……。


 私はスリッパのまま地面に降り立ち、重い扉をどうにか開けた。


「大輔、いるのー?」


 暗闇に向かって問い掛ける。返事はない。


「大輔ー!」


 さらに大きな声を投げ掛けて、耳を澄ませる。階段の下の遠いところから、たわんだ木の上を歩くような軋む音がかすかに耳に届く。


「聞こえてるなら返事してくれなーい?」

麻美あさみ、どうしたんだ?」

「ひっ!」


 私は身を震わせて振り返った。


「そんなにびっくりしなくても!」

「だって、この中にいると思ってたから……。何か音が聞こえたし」

「地下水の湧き出る音だとか、そんなんじゃないの? あ〜、腹減った。早くメシ食いたい」

「うん……」


 納得しきれないものの、少し気味の悪さを感じて扉を元通りに閉じた。


(続く)

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