その階段を降りてみて
陶子
第1話
人生は一度きり。やりたいように生きたい。夫も私もそう思っている。
私の夢は古民家でのんびりと暮らす事。夫の夢はアートで生計を立てながら自然の中で暮らすこと。
私たちはそれぞれの夢を叶えるために田舎の古い一軒家を格安で購入した。
「イメージ通りになってる。やっぱり建具を外すとかなり広いね」
「二十八畳だからな。畳と迷ってたけど、掃除のしやすさを考えたらフローリングで正解だったと思うよ」
夫が一人で先に移住して大工さんと相談しながらリノベーションしたリビングを見渡す。三人掛けのソファとコタツが設置されている他、囲炉裏は残してある。
「トイレはもう水洗に変わってる?」
「あぁ。
八歳の娘は早速、家の中を駆け回っている。明日から始まる三学期に合わせて私たちは引っ越して来た。
「紬、お父さんと学校の下見に行こうか! ついでに苺狩りにも行くか?」
「うん、苺いっぱい食べたい!」
「私、家にいてもいいかな? 晩御飯の準備しておくよ」
「おう、よろしく〜」
彼らを見送った後、道の駅で購入した野菜と肉を切り分ける。今日は鍋だ。火を使うのは二人が帰って来てからでいい。米を洗って炊飯器のスイッチをセットして、私はコタツに潜り込んだ。
「あったかい。最高だ……来てよかったな」
背伸びして買ったばかりのフカフカのラグに横になる。そのままスマホをいじっていたが、いつの間にか眠ってしまった。
目が醒めると、ひどく喉が渇いて目が腫れぼったくて痛い。
スマホで時間を確認しようとしたが、電気が眩しくて思わず寝返りを打つ。足が何かに当たったので「帰ってたの?」と声を掛けた。返事はない。
凝り固まった首を回しながら起き上がり、机の上に置きっぱなしだった飲みかけの冷えたお茶を飲み干した。
「ほら、あなた達も起きて。こんなところで寝ていたら風邪を引くよ」
億劫だけれどコタツから抜け出し、正面に寝転んでいるであろう夫と娘を起こすために立ち上がる。しかし、そこには誰もいなかった。
何が私の足に当たったのだろう……。
しゃがみ込み、コタツ布団を上げて中を確認しようとしたところ「ただいま〜!」と元気の良い声が玄関から届いた。
「ママー! お土産に苺買ってきたよ〜!」
バタバタと娘がこちらへ走って来る。
「おかえり! いっぱい食べた?」
「うん、千個も食べちゃったよ!」
「そんなに〜?」
差し出された艶のある真っ赤な苺を受け取った後、改めてコタツの中を確認する。何も入っていない。コタツの足に当たったのを寝惚けて勘違いしたのだろうか。人の体のような柔らかさがあったと思ったのだけれど……。
「どうした?
マフラーを脱ぎながら夫が不思議そうに私を見つめてくる。
「ううん、なんでもない」
気にはなりつつも、私達はコタツで団欒して一日を終えて眠りに就いた。
(続く)
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