第3話 祝福を奪うひと

 今日は俺の所属するパーティ――戦神の翼のリーダーをしているマルスと、魔法使いのアネッサの結婚式だ。


 同じパーティで神官をしているアリスに向かい、檀上の二人が永遠の愛を誓う。


 その証拠として二人は皆の前でキスをした。


 ――チッ


 俺は心の中で舌打ちをする。


 他人の不幸は蜜の味――仲間とはいえ、マルスやアネッサはあくまでも他人。そんな他人が幸せになるところを見て、自分も幸せになれるなんて俺には考えられない。


 皆が拍手するのにあわせ、俺もまばらに手を叩く。


「おめでとう!」


 ギルドの受付嬢をしているリリアが、壇上の二人に向けて祝福の声を掛けた。


 よくもまあ、自分のことでもないのにあそこまで嬉しそうな顔ができるものだ。


 リリアはいつも誰かを祝っている。

 討伐依頼を無事完遂して帰ってきた冒険者たち。

 冒険者ギルドの登録が終ったばかりのガキども。

 ランクが上がった冒険者。


 リリアはいつも誰かを褒めている。

 そのたびに花の咲くような笑顔をみせ、皆を魅了する。

 大した魔物でもないのに、倒してきた冒険者を褒める。


 俺は実際にすごいことをしているから褒められて当然だが、他の冒険者がくだらない自慢話をしても、リリアは「すごいね!」と褒める。


 敬意のこもった視線と、「すごいね」と言う言葉が、認められたいと思う気持ちを、満たしてくれる。


 そしてリリアは誰よりも美しい。


 リリアは花嫁であるアネッサよりも地味な服を着ている。しかし、祭壇に集まる女たちのなかで、リリアは誰よりも輝いて見える。


 誓いのキスが終わり、皆が通路に並んで教会の出口へと道をつくる。


 新郎新婦が幸せそうな笑顔を浮かべ、花びらと拍手、祝福する皆の声が舞う道を抜けて教会の外へと歩いていった。


 教会の外には、未婚の女性たちが並んでいた。


 ブーケトスだ。


 花嫁が後ろを向いて投げたブーケを受け取った女性が次に結婚できる――などという、演技担ぎのイベント。


「みんな、準備はいい?」


 女性陣の目は真剣だ。集中しているのか、誰も返事をしない。ただ、皆が頷くだけだった。


「いいかな? いくよ!!」

「いいよ!」


 リリアが笑顔で返事をする。


 いつもその笑顔で他人を祝い、いつもその笑顔で他人を幸せにする。


 今度は俺がリリアを幸せにしたい。


 その笑顔を、祝福を俺だけのものにしたい。

 他人なんてどうでもいい。

 俺だけを幸せにして欲しい。


「それっ!」


 アネッサの掛け声とともに、ブーケが天高く舞う。


 女たちは両手を広げ、視線をブーケに集中させている。


 ただ、リリアだけは違った。


 両手を合わせたまま、ただブーケの行く先を視線で追っていた。


 ――俺がリリアを幸せにする


 その思いが再び湧きだすと、俺の体は勝手に動いていた。


 高く舞ったブーケを、冒険者の身体能力をつかって捕まえる。


 そして、体を回転させると、片膝立ちで着地した。


「なんであんたが取るのよ!」

「邪魔しないでよ!」

「ふざけないで!」

「やり直しよ、やり直し!!」


 ブーケを取ろうとしていた女性陣から怒りの声が聞こえる。


 でも、知ったことではない。


 いつも俺を褒めてくれる。祝ってくれるリリアのためなら、何でもする。


 俺は立ち上がり、ブーケを手に静かに歩きだす。


 リリアの表情は固まっていた。


 あまりに想定外だったのだろう。


 投げられたブーケを男が奪い、自分のところに持ってきたのだから。


「リリア、そんなに驚いた顔をしないでほしい」


 俺はできる限り優しい声音で彼女に語り掛ける。


「いつも皆を幸せな気分にさせてくれてありがとう」


 リリアは一度俯き、そして俺を見上げる。もう、手を伸ばせば彼女にブーケを手渡せるところまで来ていた。


 俺は右膝を地面について、捧げるようにブーケを差し出す。


「リリア、好きだ。次は君が幸せになる番だ」


 周囲から口笛やら、冷やかしの声が上がる。でも、そんなのは気にならない。


「結婚を前提に付き合ってほしい」

「ごめんなさい」


 リリアは深く頭を下げた。


「気持ちは嬉しいわ。でもね……」


 リリアは深い悲しみをこらえるかのような、悲痛な笑みを浮かべて言った。


「でも、今じゃないの」

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