第2話 プロポーズの日
祝福の儀で魔法のスキルを授かってから六年。スキルを活かすため、冒険者になった私は十八歳になっていた。
「リリア、帰って来たよ!」
「アネッサ、おかえりなさい。今回はどうでしたか?」
冒険者ギルドのカウンターの向こう。天使のような笑顔で迎えてくれるのはリリア。私の幼馴染だ。彼女のスキルは戦闘向きでも、農業や裁縫、鍛冶、錬金術のような生産系のものではなかったらしい。彼女からどんなスキルを授かったのか、聞きだしたわけじゃない。だけど、冒険者ギルドでは聖女なんて呼ばれている。その理由のひとつが、この笑顔だ。
「今日はあまり成果はなかったかな……」
「そんなことはないだろ」
パーティメンバーのカールがワイバーンの爪をゴロリとカウンターの上に転がした。今日の狩りで倒してきた討伐証明部位だ。
「すごいじゃないですか!!」
目を丸くしてリリアが驚いた。カールは口角を上げ、いかにも自分の手柄のように語り出す。
「今日はワイバーンが五匹、十分な成果だろ。な、リリア?」
「これは、とどめは全部カールさんが?」
「もちろんだ」
大斧を振り回す前衛のカールでは、空を飛ぶワイバーンを倒すのは難しい。必ず弓や魔法で翼を撃ち抜き、地上に落としてからでないと得物が届かないからだ。
しかし、リリアはいつもの笑みを浮かべて、「十分です! すごいですね!」と手を叩いて自分のことのように喜んでみせた。
「カール、いい加減にしないか」
真面目なパーティリーダーのマルスが落ちついた声でカールを窘める。
「いいじゃねえか、俺は嘘をついてねえぞ」
確かにカールは嘘をついていない。だから、マルスも彼を強く責めることができない。
「戦神の翼の皆さん、パーティのランクアップまであと少しですよ。頑張ってくださいね」
リリアが拳を握りしめ、応援の言葉をかけてくれた。美しい顔で行う、こういう仕草も、皆から愛される理由の一つだと思う。
「そうか。じゃあ、アネッサ」
マルスに両肩を掴まれ、少し強引に体の向きを変えられた。
「え、なあに?」
「ランクが上がったら俺と結婚してくれないか?」
「は? えっ?」
突然の告白……いや、プロポーズに私は言葉を失った。私はかなり驚いた顔をしているだろう。
マルスが私に向ける真摯な気持ちはこれまでも感じていたし、私もその気持ちに応えてきた。だから、いつかはこういう日が来ると思っていた。けれど、冒険者ギルドの中じゃなくて、もっとロマンチックな場所でプロポーズして欲しかった。
マルスがその碧い目をまっすぐに私に向けて、答えを待っている。
そう、彼はこういう人なんだよね。生真面目で信頼できるけれど、女心というのをわかってくれない。
それがわかっていても、訴えかけるようなマルスの視線に私は勝てなかった。
マルスを本当に私だけのものにしたい。
他の誰とも違う、特別な女としてマルスに扱ってもらいたい。
思い続けてきた願いが、ようやくマルスから告げられた。
心が満たされていく。
――ああ、幸せ
今までに感じたことがない幸福感が溢れ出してくる。
「返事は――」
マルスが何か言いかけたとき、私はマルスに抱き着いた。
「もちろん、『はい』よ」
気がつけば頬を涙が流れていた。
「きゃあ、アネッサ、おめでとう!!」
リリアが一番に悲鳴のような声をあげ、祝ってくれる。
そう、いつもリリアは私のことを祝ってくれる。
魔法のスキルを授かったときも、冒険者登録をしたときも、初めて魔物討伐したときも、ランクアップしたときも……いつも私を祝ってくれる。
「あ、ありがどう」
涙でぐずぐずになった鼻のせいで、ちゃんと言えなかった。
「ほんとうに、おめでとう」
リリアがカウンターから出てきて、手を広げて立っていた。私は、そっとマルスの腕の中から離れると、リリアの懐に飛びついた。
「プロポーズも嬉しいけど、リリアが幼馴染でよかった!」
「私も!」
言ったリリアの目にも、涙があふれていた。
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