リリアは今日も誰かを祝ってる

FUKUSUKE

第1話 祝福のはじまり

 朝から私の手は震えていた。目を閉じてギュッと両手を組んで握っていても、止まる様子もない。


 礼拝堂の中には私以外、誰もいない。


「魔法のスキルを授ける」


 その言葉がはっきりと聞こえると、私は大きく溜息をついた。


 ――よかった。


 どんなスキルを授かるか。それで、その後の人生が決まると言ってもいい。


 裁縫、調理といった生活に密着したスキルもあれば、盗む、逃げるといった泥棒やスリのような職業に向いたスキルもある。


 魔法のスキルなら、魔法学校に通ったり、冒険者として活動したりことでスキルを磨くことができる。冒険者として成功すれば、かなりのお金持ちになれるはずだ。


 礼拝堂の扉を開くと、順番待ちをしていた男の子が立っていて、その後ろには幼馴染のリリアが心配そうに立っていた。


「どうだった?」


 入れ替わるように礼拝堂へと入っていく男の子を避け、リリアのもとへ駆け寄った。


「ま、魔法のスキルだった」


 私はリリアの問いに小声で答えた。リリアの顔が花咲くように笑顔になった。


「すごいじゃない! おめでとう!!」


 祝いの言葉をリリアが投げかけてくれる。


 リリアが私の右手をとり、両手でギュッと握ると僅かに光ったような気がした。

 リリアの手は少し冷たくて、それが現実のものだと教えてくれる。その冷たささえ、今は心地よかった。


「あ、ありがとう」


 授かったスキルが魔法だったこともあるけど、こうして祝ってくれる人がいるだけで、私も思わず笑顔がこぼれてしまう。


 祝ってもらえるだけで、幸せな気持ちになる。


「でも、ちょっと不安なの」


 でも、その幸せな時間もすぐに冷めてしまう。


 父さんが栽培、母さんが収獲というスキルを授かり、それを生かした職業として実家は農家をしている。スキルを活かしているからなのか、私の家は同じ農家の中では裕福な方だと思う。でも、ちょっと裕福というくらいだと、魔法学校に通うことはできない。そうなると、選択肢としては冒険者になるしか道はない。


「私なんかに獣や魔物を倒せるかな?」


 剣を振るう自分も、血の匂いも、どうしても想像できなかった。

 将来のことを考えると、やっぱり不安になってしまう。


「大丈夫だよ。冒険者はパーティを組んで活動するのが一般的なんだから。アネッサもパーティを組んで活動すればいいじゃない」

「でも、魔法スキルを授かったばかりの子どもをパーティに入れてくれる人がいるかなあ?」


 スキルを授かったばかりだけど、本当に私にできるか――不安でしかたがない。もし、パーティに入れてくれるひとがいなければどうしよう。


 ネガティヴな考えばかりが頭のなかに浮かんでくる。


「子どもばかりのパーティもあるはずよ。それに、アネッサと同じように素敵なスキルをもらったばかりの子もいるわ」

「うん。そうだよね」

「大丈夫よ。素敵な仲間を見つければ必ずアネッサは成功するわ」


 そういえば、リリアは私よりも先にスキルを授与されている。でも、私は自分が授かるスキルのことで頭がいっぱいで、彼女のスキルのことを聞いていない。


「ねえ、リリアはどんなスキルを授かったの?」

「え、私?」


 沈黙が訪れた。


 リリアは一瞬だけ視線を逸らし、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 もしかすると、リリアは望んでいたスキルが得られなかったのかも知れない。


 礼拝堂の扉が開いてさっき入っていった男の子が出てきた。私は自分のことで精一杯だったからか、後ろに並んでいるのが同じ村に住むマークだとは知らなかった。


 望んでいたスキルを授かった、と言わんばかりに頬が緩んでいる。


 リリアは私の質問を聞いていたと思うんだけど、先にマークに授かったスキルのことをたずねる。


「あ、マークはどうだった?」

「リリアか。スキルは他人に話すもんじゃないって聞いてないか?」

「いいじゃない、ケチ!」

「ふっ……」


 鼻で笑うような音に、どこか人を見下すような表情でマークはリリアを見つめた。


「まあ、俺は当たりだったってことだな」


 そう言って、わざとらしく肩をすくめると、マークは去っていった。


「嫌な奴……」


 せっかくいいスキルを貰い、幸せな気分になっていた。でも、マークの態度をみてなんだか私は一気に冷めてしまった。




*⑅୨୧┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈୨୧⑅*


第一話をお読みくださり、ありがとうございます。


※叙述ミステリーの要素があるため、できれば最終章まで一気にお読みいただくことをお勧めします。

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