第2話 協力者
ヤクザなお人と向き合い、店が警察を呼ぶ一歩手前まで空気が張りつめた末――そこで一つ、はっきりしたことがある。
この人、めちゃくちゃ良い人だ。
「ほんますまんな、嬢ちゃん。えらい怖い思いさせてもうたなぁ……。いや、詫びいうほどやないんやけど、ここは奢るし、遠慮せんと食べてってな」
そう言いながら、彼は落ち着きなく視線を泳がせる。
本気で、私に申し訳ないと思っているのが伝わっていた。
私の知っている『みやちゃん』とは違っていたが、それでもこの人は良い人だ。
見た目は怖いが、無闇に人を傷つける人間には思えなかった。
「ごめんなさい……泣いてしまって」
「ええよええよ、謝らんで。俺みたいなんが怖いのは、当たり前や」
「それでも……いきなり反社会勢力扱いは、さすがに失礼でした。ごめんなさい」
「いや。間違ってへんで?」
「――ふぇ?」
彼は私の正面に腰を下ろし、笑みを崩さないまま、こちらを見据える。
「改めまして、総北組の頭――いわゆる組長をやらせてもろてます高遠雅言います。以後、よろしゅう」
その笑顔は柔らかい。
けれど同時に、自分が恐れられる存在だと理解し、それを制御して使う人間のそれだった。
「来世は……すべすべまんじゅうがにでお願いします……」
ほとほと、ほとほと。
私は泣いた。
それを見て、雅さんは完全にうろたえ始める。
店員が彼を見る猜疑の目は、もう完全にゴ〇ゴ十三のそれだった。
雅さんは、一般人に手出しする気はないと説明した。
とは言え、今回は例外だけど極道なんてものとは関わるべきじゃない。
だから――深入りはしない。そういう話になった。
「せやから、うちは
「でも、その……ヤの……いえ、にんきょうだん……」
「ヤクザでええよ。呼び方なんてどうでもええ。ワルモンはワルモンや」
そう言ってから、彼は軽く肩をすくめた。
「それより、本題入ろか。それとも、口滑らすのに何か要るか?」
「い、いえ! 自白剤なんてなくても、何でも吐きます!」
「ちゃうわ。デザートでも頼むか、っちゅー意味や」
「あ……じゃあ、お願いしても……」
「おう。何がええ?」
「この……ジャンボトリプルストロベリーマッハパフェを……」
私の言葉に一瞬だけ驚いた顔をしてから、雅さんは微笑んだ。
「いちご、好きなんか」
欲張ってしまった私は、恥ずかしくなって、こくりと頷く。
「あいよ。店員さん、すんません。ホット一つと……この、ジャンボトリプル? ストロベリーパフェとやらを一つ」
そう言ってから、彼は私に向き直り、ただ黙って話の続きを待った。
「えと、まず、私の名前は……」
「ちょい待ち」
「はい?」
「俺らみたいなのはな、名前一つで幾らでも悪さが出来る。せやから、ここでは聞かんとこう思とるんや。一期一会の縁なら、それで十分やろ」
「じゃあ、私も……みやちゃんって呼ぶんです?」
雅さんは、わずかに顔をしかめた。
「……まあ、別にええけど」
そう言いながらも、どこか不本意そうだった。
「では……私は『雅さん』と呼びますので、『さき』と呼んでください」
「了解。ほな、さきちゃん。何があったんや?」
「はい……始まりは……いつだったか……たぶん、一か月くらい前のことです……」
そう言って、私は己の身に起きた悍ましい体験を、ゆっくりと語りだした。
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