1-43 結末、そして
結論から言えば、ヤルダバルト達は準備を整えすぎたのである。封神アラクネーは二種類目の薬を撃ち込んだ時点でほぼ無力化できていた。彼らは念には念を入れて毒針に仕込んだ分の薬と酒を全て撃ち込み、途中からアラクネーは何も言葉を発することも無く、ただ薬が効いた瞬間や効果時間が切れたらしい瞬間にビクンと大きく揺れるだけの肉塊と化していた。ヤルダバルトが腰に手を当て体をそらして伸びをしながら他の二人へ話しかける。
「後はアラクネーの体力が尽きるまで物言わぬカカシを全力で殴りつけるだけだ。流石にアンクルコミーがさっき言ってたような一日半かかるような仕事にはならないだろ。一応、薬のオーバードーズでスリップダメージも入ってるはずだしな」
「しかし、思いの外うまく行ったな。まさか一発で成功するとは思いもしなかった」
「いや待てよアンクルコミー、考えてみればさっきの糸を使った全体攻撃があるから結局時間かけてお前が戦っても勝てなかったじゃねーか。アレを連発されてたらどうしようもなかったから、今回の勝ちはほぼほぼ運が良かったから勝てただけってことだろ」
「まあいいではないか、運で勝とうが勝ちは勝ちだ」
「そりゃそうか、カルマリオン。これを足がかりにすりゃ、この後はもっともっと楽に進めるはずだ。さーて、楽しい楽しい作業の始まりだな。気分は炭鉱夫だぁ……」
結局戦いという名の不毛な作業が終わったのはおよそ半日後であった。最後の一撃をアンクルコミーが加えた途端、三人の身体が十数秒間まばゆく光り始める。レベルアップの演出である。彼らはダランこそほとんど手に入れられなかったが、その代わりに経験値を大量に獲得することができた。今やヤルダバルトのレベルは五十二、カルマリオンは五十五、アンクルコミーに至ってはレベル五十七にまで上がっていた。ヤルダバルトはステータスを確認していたコンソールを閉じて、他の二人に向き直る。
「さて、そろそろこのエリアから皇都へと戻る頃かな。よしじゃあ、最後に封神アラクネーの遺骸と三人並んでスクショ撮ろうぜ。急ぐ攻略とは言え、こんだけ苦労したんだ。これくらいは許されるだろ」
三人はアラクネーの顔のそばで横並びになり、スクリーンショットのカメラに向けてピースサインをする。
「遺影になる写真でイェーイ! くだらないこと言ってねぇでさっさと帰るか」
「ここまで本当にくだらないことを言うヤツがいるか」
「うっせぇなカルマリオン」
三人が皇都へ帰ると既に夜も更けていた。彼らはまずは拠点で一晩過ごし、今は皇国防衛騎士団本部の会議室に居る。その目の前にはトルステンが神妙な面持ちで座っていた。彼はヤルダバルトから大事な話があるとしか伝えられていなかったため、また同時にフォルストンもサイト・ディーモンアイから呼び寄せるようヤルダバルトが頼んでいたため、そのような反応を見せることも無理からぬことである。確かに無用の心配をかけてこそいるものの、皇都地下に封神が封印されているなどということはなるべく他のNPCに発覚しないよう話をするべきだという思惑もあり、ヤルダバルトはこれから話す内容を意図的に伏せていた。
ガチャリと扉が開き、相当急いで皇都へ来たのだろう、フォルストンが少し額に汗を光らせて入る。ひとまずヤルダバルトは立ち上がって深刻な顔をしている二人に話しかける。
「いやー、わざわざ急いで来てもらって悪いなフォルストン卿。騎士団長殿にもこうして会談の場を用意してくれたこと感謝する。まあ、二人共、何も言わずにコイツを見てくれ」
ヤルダバルトはメニューコンソールを操作して、封神討滅を果たした後に撮ったスクリーンショットを表示し、二人に見えるようにテーブルの上へ広げた。息を呑む声が聞こえ、二人は食いつくようにそのスクショを見つめている。ふと、我に返ったようにフォルストンが三人へ話しかける。
「君達は、本当にやったんだな……? しかも、この短期間でやり遂げてみせたのか……! ありがとう、それしか言葉が見つからない」
「そのような顔をしないでくれ、フォルストン卿……あの惨劇が回避された、それは間違いなく喜ばしいことではないか」
「そういう君こそ、涙で目が真っ赤になっているじゃないかカルマリオン……」
「しょうがないじゃありませんか、トルステン卿……お二人がこうして共に喜びを分かち合いながら生きているのです、僕はそんな光景が見られるなんて思いもしなかったのですから」
涙を流して喜ぶ三人を眺めながら、ヤルダバルトはアンクルコミーに話しかける。彼の目尻にも涙が浮かんでいた。
「死の間際ですら笑顔を絶やさなかったあのフォルストン卿が男泣きするところを見られるとはな。ハハッ、これぞ役得ってやつだ。いやぁ、この光景を見られただけでも頑張ったかいがあったってモンだ」
「カルマリオンの願いを叶えられてよかったな、全く」
「ああ、本当によかった。まだ一歩目かもしれないけど、これでクリファンのストーリーは改変された。この先フォルストン卿が死なずに済むかどうかは流石に未確定だが、少なくとも皇都防衛戦線で起こるはずだった惨劇は回避された」
「これで一安心、というわけでもないのだろう」
「ああ、まだ油断はできねぇ。『クリファン』のストーリーにはこの後にだってワンサカ山場が残ってるし、防ぎたいキャラの死や惨劇だっていくらでもある。それに、リアルの……俺達の肉体が横たわったままの現実世界に帰るために、俺達でエンドコンテンツを攻略しなきゃならないっていう大きな問題もある。全く、やることが山積みだ」
「とはいえ、大きな山場は越えたのだ。少しくらいは休息を取ってもバチはあたるまい」
「まあな。今くらいは少しゆっくりして、勝利の余韻と達成感に浸るのも悪くない」
その後騒ぎを聞きつけたトルステンの副官が会議室へ乱入し、事情を知らぬがゆえにちょっとした騒動になりかけたが、幸い副官にもプレイヤー達の記憶が戻っていたため事情を説明することで事なきを得た。
一方その頃、ポートエスケンではウォルターをはじめとする『大地の盟約』メンバー達が、攻略を進めるため集まったプレイヤーへの対応を進めていた。各プレイヤーの能力や経験、適性を鑑みてどの封神の攻略に向けて準備を進めるか、どういう役割分担をするかなどを振り分けていた。さながら大きな役所で手続きをする群衆のようで、NPC達はプレイヤー一人一人もしくはパーティ単位で面接し、振り分けを進めていく。今、ウォルターが一人のプレイヤーとの応対を終え、待機場所へと向かわせた。
「ああ、次はこっちに来てくれ!」
高らかに響いた声に向かって歩くプレイヤーは三人。いずれのアバターも女性である。
「やあ、三人一緒ということはパーティでの登録ってことでいいんだな?」
「ああ。ただ、他の奴らには申し訳ねぇんだけどなぁ、アタシらはあくまでレベル上げと『大地の盟約』とのつながりが目的なんだ。それでも構わねぇか?」
「あいにくと無条件ってわけにはいかないな。せめて理由くらいは教えてもらえないか?」
ウォルターがそう言うと、前に立っていたプレイヤー二人は後ろに隠れていた一人に話しかける。
「ほら、自分で言えって。アタシから言っても納得してもらえないだろうから、な?」
「ああ、こういうことは他ならない自分自身の言葉で伝えるべきだ」
そうして小さくうめき声を出しながらもおずおずと前に出てきた女性、彼女をひと目見てウォルターの脳裏にそれまで存在しなかった記憶が蘇る。彼女はNPC達の熱烈なファンであった。
「ウォルターさまぁ……ボ、ボク……フォルストンさまに会いに行きたいんです! だから強くなって、それと『大地の盟約』からの推薦状が欲しいんです! それがないとサイト・ディーモンアイに行っても信用されないから……」
その言葉を聞いてウォルターの口角が上がる。そのままニヤリと笑って、彼は目の前のプレイヤーに向かって、一つ提案をした。
「なるほど、あいにくと紹介状までは確約できないが、一ついい方法がある。残念ながら攻略を進めるチームとは分かれることになるが、こっちのルートなら確実にサイト・ディーモンアイへの道を拓くことができるだろう」
「ほ、本当に!? し、信じます、ウォルターさまが言うことですから!」
大喜びではしゃぐプレイヤーを眺めながら、ウォルターは一人、誰に聞かせるでもなくひとりごちる。
「思ったよりも早く増援を遅れそうだな」
つづく
三バカどもはカオスなVRゲームから脱出したいようです。 御陳珍ランド園長 @Deapchu
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