1-35 皇都を下へ

 端に雪が寄せられた石造りの階段を登り、坂になっている橋を渡って三人は皇都最上部へとたどり着いた。彼らの目の前には白く荘厳な建物が高くそびえ立っていた。皇都の中心部であり、また象徴とも言える皇王城である。当然ながら門戸は固く閉ざされており、とても彼らのような部外者が入れるような雰囲気ではない。件の遺跡の目的地はこの皇王城の中心からほぼ真下に位置している。ヤルダバルトがマーキングを終えると、城の通用門が開く。その中からトルステンが副官である女騎士を伴って、中に居る門衛の騎士を労いながら出てきた。トルステンは彼らに気が付くと、穏やかな笑みを浮かべて話しかける。


「誰かと思えば君達か。ここに来たということは観光だろうか? まあ無理矢理強制するつもりは無いが、そろそろ仕事の方も始めてもらえると、こちらも助かる」


「あー、観光っていうのもまぁ否定しないんだがな、俺達としちゃここの位置を改めて確認したかったんだ」


ヤルダバルトのその言葉を聞いてトルステンは一瞬ハッとした表情を浮かべ、その後すぐ真剣な表情に変わる。彼は副官に振り向いて先に本部へ戻るように伝え、また三人へと向き直った。副官が下へ降りて辺りに誰もいないことを確認すると、騎士団長は改めて話を切り出した。


「なるほど、君達はこれからこの真下に向かおうというわけか。すまない、早合点してしまった。それで、これから君達は奴を……この皇都に災厄をもたらしたあの封神を倒しに行くつもりなのか?」


「別に謝罪はいいって騎士団長殿。それに、俺達はあくまでヤツの状況を確かめに行くだけで、まだ倒すかどうかに関しちゃ未定なんだ。俺達は地下にいる時のヤツを直接見たわけじゃないしな、今どうなってるかを直接確認する必要がある。仮に接敵できたとしても、今の俺達じゃ倒せねぇから何か手段を考えなきゃならない。何をするにしても、問題は山積みだ」


「だとしても、君達はここに来ていの一番にあの惨劇への対処をすると選択してくれた。それだけでも十分感謝に値する」


「それなんだがな、最悪の場合、俺達がトリガーになってあの惨劇が引き起こされる可能性はあるんだ。そうなった場合、間違いなく今の俺達じゃヤツに太刀打ちできない。……本当に申し訳ないんだが、万一の備えは頼む。それこそ最悪、民をここから脱出させる用意もな。もしそのリスクが飲めないっていうんなら、俺達の地下探索を許可しないでくれ。俺達はどうあったって地下に入るためには防衛騎士団本部から繋がる入口を通る必要があるからな。もし許可が降りなかったら、俺達も大人しく自己強化に務めるとする」


ヤルダバルトの言葉を聞くとトルステンは黙り込み、顎に手を当て考え込む。その表情からは、ヤルダバルトが言ったことを真剣に受けて止め、皇国を守る騎士としてどうするべきかを思案していることがわかる。ヤルダバルトがチラと横へ目を向けてみると、その眼下に皇都の街並みが広がっている。様式の違う建造物が入り混じり、いびつなようでどこか調和した、独特の美しさを持つ街であった。改めてヤルダバルトが騎士団長の方に目を向けると同時に、彼もまた顔を上げてヤルダバルトの両目をまっすぐに見据えて、こう言った。


「やはり、早急に調査を依頼したい、ヤルダバルト。奴がこの下に居ると言うのならば、結局の所あの惨劇が起こるリスク自体は常に付きまとう。ならば可能な限り早く状況を確認してしまう方がい総合的にはリスクが少なく済むはずだ。当然我々の方でも、君達の調査報告を受け取るまでは警戒を厳にするとしよう。少なくとも、今こうしている間に奴がここまで上がってくる可能性だってあるのだからな」


「ああ、感謝するよ騎士団長殿。なるべく早くに報告できるよう、努力する」


自然と二人は固い握手をしていた。トルステンの手に籠もる力は、ヤルダバルト達に対する信頼の証であろう。


 暗闇に包まれた通路の中、プレイヤー達三人は皇都の地下をひたすら下へ、下へと降りてゆく。トルステンの協力により彼らの地下入り自体はあっさりとできた。この遺跡群は破壊と再建造を繰り返していたとはいえ、いまだ形を保っている建造物も少なくない。今彼らが降りている塔はかつて人類が監視のために使っていたものであった。その一番下の出入り口から隣の建物に降りると、出入り口が上下左右前後のいたるところに作られていた。先程のものと異なり、この建物は壁や空を縦横無尽に移動できる妖魔に合わせた作りである。直接真下の出口に飛び降りると落下ダメージによって即死するため、彼らはところどころにせり出している足場へ飛び降りつつ、要所要所でヤルダバルトの回復魔法で回復しながら進んでいく。下にぽっかりと空いた穴のような出入り口から飛び降りると、ヤルダバルト達の目の前に極めて大きな通りが広がっていた。現実世界で言えば車道六車線分ほどの幅がある。天井の高さに至っては十五階建てのビルほどはあった。一見するとかなりシンプルなようで、洗練されたデザインをしており、これまで通過してきた妖魔の建造物ともまた様式が違っている。


「探していたものはこれか、ヤルダバルト?」


「ああ、これだ。これが探していた場所へと続く道だ、アンクルコミー」


三人はマップを起動し、マーカーの位置を確かめながら目的地へとこの広大な道を歩いていく。幸いにも辺りにエネミーが居る気配はない。彼らは前へ前へと、ただひたすらに走った。たどり着いたその先、おそらくかつてはこの街の中でもひときわ大きな建物であっただろう廃墟へと行き着いた。高い建造物が何かの強い衝撃を受けて根本から折れたものが、そのまま残ったような形をしていた。扉はわずかにしか開いていないが、あまりにも大きなそれにはヤルダバルト達が通り抜けるには十分な隙間ができていた。扉を抜けて先に進むと、一つ一つの段が三メートルを優に超える大きさの階段がある。下へ続くそれはこの施設の地下へと繋がっていた。彼らが半ば飛び降りるような形で進んでいくと、奥地に半壊した非常に大きな入口があった。プレイヤーやNPC達の十五倍ほど大きな巨人が使っていただろう大きさの扉の先には、ドーム状に広がっているらしき光が見える。扉の残骸をくぐり抜けるようにして部屋の中に入ると、そこは一見すると資料室のような印象を受ける。だが、辺りに積まれていたり棚にしまわれている本の一冊一冊が、およそヤルダバルトの身長と同等の大きさがあった。

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