1-29 休息
ヤルダバルトが改めて彼らとウォルターが立てた計画をフォルストンに説明すると、なにやら難しい顔をして考え込んだ。
「なるほど、エンドコンテンツなるものの攻略に向けた足がかりとして、皇都を拠点にしたいということか。喜んで協力したいところだが、残念ながら今ここでハイと言えはしないな」
「何だ、何かマズいことでもあるのか、フォルストン卿?」
「ああいや、君達が悪いということではないんだ、ヤルダバルト。強いて言うのなら、時期が悪いと言うべきか。君達も知っているかもしれないが、このハイランドでつい先日、旅人を装った妖魔による襲撃があったばかりだ。当然皇都の方でも警戒は強まっているし、何ならその件をきっかけに、ハイランド全体で排他的な雰囲気が漂っている。この状況で君達を皇都に迎え入れるというのはいささか無理がある。私個人は当然ながら君達が信用も信頼もできる者だとは知っている。だが、それを他者に証明する手段となると話が別になってくる」
「なるほどな。ちなみにだが、前の時に俺達が皇都へ入れたのはどういう理由があったんだ? 少なくともフォルストン卿が相当に骨を折ってくれたってことは知ってるけど、具体的な話に関しちゃかなりざっくりとしか知らないぞ」
「ふむ、あの時は妖魔襲撃による心理的影響が今ほど甚大ではなかったというのもあるし、君達は君達で既に何体もの封神を打ち倒し封印していただろう? その実力が風の噂で皇都の者にまで届いていた上に、我々の方でも妖魔軍が封神を戦力化しようとしていたという情報が届いたばかりでな。つまるところ封神は封神退治の専門家に対処してもらうということを、皇国のメリットとして上層部に提示できたことも大きかったんだ、ヤルダバルト」
「ふむ、おおよそ僕達が聴いている話と変わらないな。結局のところ、今僕達を皇都に入れる理由が皇国に無いから、いくらフォルストン卿の権限で上層部にかけあっても入国は認められないというわけか」
「ああ、カルマリオンの言う通りだ。こればかりは私の力だけではどうにもならない。無論さっきの手紙を読ませてもらったから、今の状況と私達が経験したかつての状況とで大きく変わっていることはわかるがな」
そう言ってからフォルストンは少し考え込む素振りを見せる。
「いや……ひょっとするとあの方を頼れるかもしれない、か?」
「何か策があるのか?」
「いや、策というほどのものじゃないさヤルダバルト。これはむしろ、賭けに近い。うまくいく保証もないから、あまり期待はしないでいてくれたまえ。ともかく、これからも引き続き君達に協力しよう。手始めに、このサイト・ディーモンアイに君達が使える拠点を用意しようじゃないか。ひとまずは強行軍で疲れた心と身体を癒やして、それから打開策を練ると良い」
そう言ってフォルストンはマグカップに残ったホットココアの最後の一口を飲み干し、応接室から出ていった。しばらく経ってから、再び入ってきたフォルストンに案内されてプレイヤー三人が向かったのは来客用の宿舎であった。小さいながらよくまとまった部屋に二段ベッドが二つ、奥の窓からは夜の闇と星空を月明かりが照らしていた。吹雪は既に止んでいる。テーブルや椅子などの家具は部屋の外のロビーにあり、ここはただ眠るためだけの部屋になっている。
「ここは本来お偉方の従者が使うための部屋だ。少しばかり狭苦しいのは申し訳ないが、あいにくとそこそこ長期にわたって確保できそうな部屋となるとこれくらいしか無くてな。いっときの拠点にするもよし、皇都へ向かえるまでここで己を鍛えるもよし、好きに使ってくれてかまわない。ああ、ここを発つときと、また拠点にしたいときは私に一声かけてくれ。一度この部屋を空けたとしても、また君達のために宿を用意しよう」
「わざわざありがとう、フォルストン卿。お前も身体に気をつけて、無理はしないでくれ」
「フフ、そうだなヤルダバルト。では私も今の仕事を片付けたら眠るとしよう。おやすみ、三人共」
「ああ、おやすみ、フォルストン卿」
フォルストンが出て行くと、彼らは各々自分が使うベッドを決め、ひとまず眠ることとした。この時代、VRMMOの中で寝るという習慣はかなり広く普及している。VRシステムを使っている間、肉体も眠っている状態に近いらしく、ログインしたまま寝ると肉体側でも同時に深い眠りに入るという研究結果があった。つまりVRシステムを使用して、その中で更に眠りにつくと、かなり質の良い睡眠がとれるということである。また、相当数のVRMMOには、各プレイヤーが自分の拠点や部屋を保有して好きにカスタマイズするコンテンツが実装されている。この機能で自分の理想の睡眠環境を構築し、毎晩ログインして寝るプレイヤーも少なくなかった。故に彼らもこのログインした世界で一度寝ることを選択したのである。ゲームの中での肉体的な疲労は内に無いに等しいが、一方で精神的な疲労は全滅できない強行軍もあってかなり蓄積していた。その分の休息は当然必要であった。
鳴り響くラッパの音で彼らは目を覚ます。朝である。ヤルダバルトが他のベッドの方へ目を向けると、カルマリオンとアンクルコミーも今鳴ったラッパで起こされたようだ。彼らはひとまずこのサイト・ディーモンアイに詰めている兵員のNPC達に混じって朝の体操をした後、支給されている朝食を貰い、拠点としている宿舎のロビーへと戻る。それぞれがもらった紙袋を開けると、中には肉や野菜がたっぷりと挟まれたサンドイッチが二切れ入っていた。
「おお、これは中々美味そうだ」
「これはいいな。ヤルダバルト、いつものを頼むよ」
「あいよ、カルマリオン。ちょっと待ってな」
ヤルダバルトは一度紙袋をテーブルに置き、ロビーの端にある調理台へと向かった。戸棚の中にコーヒーを淹れるための器具や豆が入っていることは昨日の内に確認済みだった。彼はすぐに湯を沸かし、コーヒーポットに三人分のコーヒーを淹れ、それを金属製のマグカップに移してからテーブルに置く。三人は誰が何かを言うまでもなく、各々がマグカップに手を伸ばし、一口すすってからサンドイッチを食べ進める。
「おお、やっぱり美味いな。塩でパリッと焼いた肉に、シャキシャキした野菜のピクルスを組み合わせたシンプルな味だが、これで肉の味が中々に濃くてピクルスとよく合う。パンも片面だけカリッと焼いたらしく中は柔らかい。毎日これ食ってから仕事に出るっていうんだからここの兵士の士気が高いのも頷ける」
「君のコーヒーもいつもながら美味しい、ヤルダバルト。このサンドイッチともよく合う」
『クリファン』に空腹や喉の乾きの概念は無い。しかしながら、こうして飲食を行うことで一時的なステータスの上昇効果を得られる上に、その味を楽しむということが可能である。VRMMOが広く普及した今、世の中にはこのシステムのおかげでダイエットが成功したという事例も数多く存在しているほどに、このシステムでの食事の再現度は高く作られていた。
ヤルダバルトは十五分もかからずサンドイッチを全て平らげると、マグカップのコーヒーを飲みながら今後のことを考える。皇都に入る方法はフォルストンに丸投げしている状況に近い。かといって、彼やその実家であるハイランド名家の力を借りない方法も、彼には思いつかなかった。
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