1-28 未練
――未だにフォルストンに抱きついたまま泣いているカルマリオンの頭をなでながら、フォルストンはそばに居た兵士に声をかけた。
「君、すまないが応接室を開けてくれないか? それと、温かい飲み物を四人分。せっかく遠方から友人が訪ねて来てくれたんだ。ここで立ち話というのも、味気ない」
「は、はあ、わかりましたが……その、一体どのようなご関係でいらっしゃるのですか?」
「互いに、死に別れて二度と再会できないとばかり思っていた、戦友さ」
応接室が使えるようになる頃にはカルマリオンも落ち着いて、プレイヤー三人は先にそちらへ移動した。彼らは応接室にある広いテーブルに添えてある椅子をその角に四つ集めて全員が近くで座れるようにする。フォルストンが金属製のマグカップ四つを手に持って入り、それをテーブルへと置いた。ホカホカと湯気を上げ甘い匂いを漂わせる茶色い液体、ホットココアであった。誰が言い出したわけでもなく、四人はそれぞれマグカップに手を伸ばす。そして、フォルストン卿が軽くマグカップを上げて言った。
「奇跡のような再会を祝して」
応接室に、コッ……という少し低めの軽い金属音が響く。各々が無言で一口、また一口とホットココアを啜る音だけが響いた。その温かさが、寒い吹雪の中を強行軍で突破した三人の身体に染み渡る。フォルストンと何を、どの話から話すべきか、ヤルダバルトが迷っている内にマグカップは空になってしまった。彼が顔を上げて見てみると、他の三人も全員いつの間にかホットココアを飲みきっていた。全員が思わず顔を見合わせ、誰からともなく四人皆が笑いだした。ひとしきり笑った後フォルストンが立ち上がって全員のマグカップを集める。
「私はおかわりを取ってこよう。その間に、三人でこの後何について話すか考えておいてくれないか? 今のような時間の過ごし方は私も好きだが、いかんせん現状はそうゆっくりできるような状況でもなくてね。こうして時間が流れることを楽しむのはまた次の機会にするとしよう。じゃあ、少し待っていてくれ」
そう言ってフォルストン卿は応接室を出ていった。パタンと閉まった扉から目を離し、ヤルダバルトはアンクルコミーとカルマリオンの二人に向き直る。
「ああ、フォルストン卿はやっぱあったけぇなぁ……」
「そうだなヤルダバルト私もこうしてまた彼とこういう時間を共有できることは嬉しい。しかし、このココアは彼にとってもそれほどの価値があったのか?」
「これは未練だよ、アンクルコミー。フォルストン卿とはあの決戦の前に、また共にココアを飲もうなんてことを約束したこともあった。無論、かつてのメインストーリーの中で何度も同じようにホットココアを飲んでいたさ。だから最後にした約束も死亡フラグにもならないような他愛のない日常の話でしか無かった。その失われたはずの日常をもう一度味わえるということが、今この時は何よりも嬉しい」
一息ついて改めてヤルダバルトが仕切り直す。
「さて、それじゃあどうしようか。話すことつっても話したいことも聞きたいことも山ほどあるぞ」
「そうだな、ヤルダバルト。さっきはつい、フォルストン卿とまた共にこうしていられる喜びを噛み締めてしまったが、流石に話を進めないと彼にまた迷惑がかかってしまう。だが、本当に何から話したものか……」
「ハハハ、らしくないなカルマリオン。いつものお前なら、少なくとも聞きたい話と、聞く必要がある話を切り分けていたじゃないか。まあ、もう二度と会えないと私も思っていた、あのフォルストンと再会できたのだから無理もない」
「返す言葉もない、アンクルコミー。だが、確かにそうだな。ひとまずはフォルストン卿から聞く必要のある内容に絞って話を進めるとしよう」
「フォルストン卿から聞かなきゃならない話か。となるとまずは大前提として俺達のことをどれだけ覚えているかだけど…… あの様子だとフォルストン卿って下手すると俺達をかばったことまで覚えてねーか?」
「言われてみれば確かにそうだな、ヤルダバルト。思い返せば、死に別れたとばかり思った、なんてセリフはあの戦いを経験していないと出てこないようにも思える」
「なら、その話をしてみることから始めるといいだろう、カルマリオン。結局のところ、何から説明しなきゃならないかがわからないことには、私達の計画の共有すらできないのだから」
「そりゃそうだ、アンクルコミーの言う通りだな。それに加えて、ウォルターの計画を説明するには、そもそもこの世界の仕組みや俺達プレイヤーがどんな存在なのかも知っていてもらうことが大前提だ。確かにフォルストン卿も重要なNPC一人ではあっても、だからといってウォルターのように色々知ってるって確証が持てるわけでもないしな」
扉が開く音がして、そっちの方へ振り向くと、ついさっきと同じようにフォルストンがマグカップ四つを手に持って入ってくる。再びテーブルに置かれたマグカップに手を伸ばし、ホットココアを一口すする。フォルストン卿もまた一口飲んでから、俺達の方に向き直った。
「それで、話したい内容は決まったのかな?」
「まあな。ひとまず前提の話をするぞ、フォルストン卿。お前が俺達のことを覚えているってことは前提として、最後に俺達が分かれたときってどんな状況だったか覚えているか?」
「皇都と山道とをつなぐ大橋の上、私の願いに応えて皇都へと向かう背中を見送って、それきりだった。ああ、そうだ。あの時確かに私は死んだんだ。私はそのことを、ちゃんと覚えている、ヤルダバルト。だから今こうして世界が巻き戻った結果、君たちに再び会えたことは、私にとっても奇跡でしか無い。だが、もしまた同じことをする必要がある状況になったのなら。私は何度でも君達を守ってみせよう。何度も私達のことを助けてくれた君達なら、きっと私の期待にも何度だって応えてくれるだろう? 例え、この世界に遊びに来ているんだとしてもな」
ヤルダバルトはその言葉でフォルストンが死んだ戦いを思い出し、泣きそうになり軽く目頭を押さえた後、気を取り直して話を続ける。
「それじゃあ、これを読んでくれないか。『大地の盟約』のメンバーから、信頼できるヤツがいたら読んでもらうために預かっているんだ」
ヤルダバルトは懐から、この世界や俺達をとりまく状況についての解説が書かれた手紙取り出してフォルストン卿に渡したの。これはあらかじめヤルダバルトがウォルターに頼んで書いてもらったもので、同じ内容についてプレイヤーの三人が説明するより、『クリファン』世界の住人であるウォルターが選ぶ言葉で説明したほうがより理解してもらえると、ヤルダバルトが判断したゆえのことであった。フォルストンは最後まで読み終えたのか、手紙を元のようにしまってからヤルダバルトへと差し出した。彼が手紙を受け取ってインベントリへしまうのを見ながら、フォルストンは言葉を続ける。
「そうか、ずいぶんと大事になってしまっているようだな。まさか君達が元の世界に帰れなくなっているとは……この苦境の中で私に会いに来たことが嬉しいが、君達の肉体のことを考えると、こんなところにまで寄り道をしている暇があるのなら早く無事に帰還する方法を探すべきじゃないか?」
「そのことなんだが、俺達はむしろお前を頼りに来たんだ、フォルストン卿」
「私を? なるほど、力になれることなら、何でもしよう」
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