1-30 混沌
ヤルダバルトはなんとはなしに、メニューコンソールを開き各種項目を眺めてみる。各種項目をさらってはみるものの、打開策を見つけられずにいた。彼は頬杖をついて、またコーヒーを一口飲み、今度はゲームのシステム設定の項目を開いてみた。そこには当然、以前と同様にユーザーインターフェースの設定などが並んでいる。これらの設定はゲームが巻き戻った状態であってもリセットされておらず、ヤルダバルト達には今までこの項目を開く必要自体が一切なかった。ヤルダバルトは今彼が使っている設定を確認するように、ポチポチとコンソールを押して項目を送ってゆく。
ふと、彼は『システムチェンジ設定』という見覚えが無い項目を発見した。彼がその項目を開くと、四角いアイコンの横に文字が書かれた一覧が表示された。そこには『フォトニックスターズオンライン』『Atomic Fall・OSAKA』『Fatality/Apocalypse now』『ビルプラバトラーズオンライン』など、数多くのVRMMOのタイトルが並んでいた。
彼は試しに『フォトニックスターズオンライン』の項目を選択する。淡い光が放たれたが、その他に何か起きる様子もない。どうにも拍子抜けだとヤルダバルトが考えていると、不意にカァンという軽い金属音が聞こえた。彼が顔を上げると、カルマリオンが持っていた空のマグカップを落としてしまっていた。アンクルコミーとカルマリオンの二人共鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてヤルダバルトを見ている。
「ヤルダバルト、君は今、何をしたんだ」
「何って、ちょっとコンソールをいじってたら見慣れない項目があったから選んでみただけだぞカルマリオン」
「とりあえず、君は一度鏡を見てきたほうが良い。それで状況がわかるはずだ」
「なんだよ、どうしたんだ急に」
鏡の中にはまごうことなきヤルダバルトのアバターが、初期装備を装備して佇んでいた。どこか東洋的な印象を受けるゆったりとした衣服に、それとは不釣り合いな腰に下げた光線銃。まごうことなき、『フォトニックスターズオンライン』の初期装備である。
「……え? なんじゃこりゃぁぁぁあああああ!!!」
サイト・ディーモンアイの穏やかな朝に、ヤルダバルトの声はとても良く響いた。
ヤルダバルトが思わず叫んでからしばらく経って、フォルストンが宿舎のロビーへとやってきた。
「どうした、何か問題でもあったのか? ヤルダバルトの姿が見えないようだが……」
「ああ、大したことではないんだ、フォルストン卿。ここへ来る前にヤルダバルトが買った武器がさっき見たらほぼ全損していてな。思わぬ粗悪品を掴まされたことについ叫んでしまったといということらしい。今は寝室でさめざめと泣きながら修理作業をしている」
「なるほど、そういうことだったかカルマリオン。粗悪品を掴まされたことは不幸だったが、ひとまず君達には何も無くて何よりだ。私は職務に戻るとしよう」
「ああ、騒がせてしまって申し訳ない。また何かあったらこちらから知らせるとしよう」
カルマの話を聴いて安心したらしいフォルストン卿がロビーから外へ出ていった。その音を聴いてかゆっくりと寝室の扉が開かれ、わずかに空いた隙間から声がする。
「もう行ったのか、カルマリオン?」
「ああ、もう出てきても大丈夫だヤルダバルト」
それを聴いてようやく寝室の中からヤルダバルトロビーへと出た。今の彼は先程と変わらず『フォトニックスターズオンライン』の初期装備を装備している。彼が出て来る所を眺めていたアンクルコミーが顎に手を当てて問いかける。
「なあヤルダバルト、あの私達の味方であるフォルストン相手に、なんで隠れる必要があったんだ?」
「……そういえばそうだな。なんとなくマズいと思ったのはそうなんだが、具体的な理由ってなるとちょっと言葉に困るな。多分アレだ、別のゲーム由来であろうものをこのゲームのNPCに見せたらどうなるかわかったものじゃない、ってことだろう、きっと」
「もし君がそう言うのなら、早くクリファンの装備に戻さないと困るだろう。今後そのままでNPCから隠れながら過ごすつもりか?」
「ちょっとまってくれ、カルマリオン。俺だっていきなりこんなことになって頭の中がゴチャゴチャになっちまってるんだ。流石に多少テンパっておかしくなるくらいは見逃してくれ」
ヤルダバルトはひとまずメニューコンソールを呼び出す。ユーザーインターフェースは完全に『フォトニックスターズオンライン』のものになっていた。彼は迷い無くシステム設定の項目を選択し、その中の項目を確認する。先程同様にシステムチェンジ設定を開くと、『クリファン』で開いた時と同様、『フォトニックスターズオンライン』とは別のVRMMOのタイトルがズラリと並んでいた。ヤルダバルトは手早く『クリスタルファンタジア20』の項目を選択すると、先程と同じような軽い光が放たれる。彼が自分の身につけている装備を確認すると、今度は白いコートを着て、魔術師の杖を背負っていた。間違いなく、彼がこのサイト・ディーモンアイに到着した時に装備していたものだ。彼が軽くカルマリオンとアンクルコミーに回復魔法を試し打ちする。杖の先端から光が放たれ二人に命中すると、淡い緑色の光がそれぞれを包み込んだ。回復魔法のエフェクトである。
「よし、ちゃんと戻せたな。とりあえずはこれで一安心、ってとこか」
「ああ、ひとまずこのクリファンで活動する分には問題なさそうだな、ヤルダバルト。しかし、君はさっき、一体何をしたんだ? あの装備はまるきり『フォトオン』の装備だろう。アレは確か『クリファン』とコラボしたこともなかったはずだ」
「とりあえずお前らもやり方を知っとく方が早いだろ。さっき俺がなんともなかったから、特に危険は今のところ無いはずだ」
ヤルダバルトは先程の手順を二人に伝える。彼の指示通りにシステムチェンジ設定の項目を選んだ二人は、興味深げにその画面をスクロールさせていた。そうしてしばらく経った後、二人はほぼ同時に意を決したかのようにどれかの項目を選ぶ。ヤルダバルトが発したものと同じ淡い光と同時に、二人の装備が一瞬で切り替わる。二人共先程のヤルダバルトが装備していたものと全く同じ装備、つまりフォトオンの初期装備を身に着けていた。それぞれ自分が装備しているものを確認してから、二人はメニューコンソールを呼び出し、そしてまたヤルダバルトと同じように操作して元のクリファンの装備を呼び出した。
「よし、二人共今の感じで問題なさそうか? 大丈夫なら、早速検証を始めようぜ」
「私達なら特段問題は無いそうだが、検証とは具体的に何をするつもりだ、ヤルダバルト」
「何って、決まってるだろアンクルコミー。こいつで何ができるかだよ。へへっ、こりゃずいぶん楽しくなってきたな」
そうして彼らは宿舎を後にする。
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