1-27 再会

 幸いにも衛兵に見咎められることもなく、三人はサイト・ディーモンアイへと到着することができた。ヤルダバルトとアンクルコミーは、カルマリオンと逸る気持ちをなだめすかして何とか抑えながら、目の前にある巨大水晶の下へと向かう。彼らはワープポイントの解放と復活ポイントの更新をして、ようやく人心地つくことができた。ムサマンサからの強行軍、しかも一度全滅したら同じルートを使えず、二度目の挑戦のためにはかなりの時間をかけなければならなくなるプレッシャーから解放されたのだから当然である。


フォルストンは普段このサイト・ディーモンアイでもっとも大きな建物である指揮所の中にいる。ワープポイントの登録が終わった途端にカルマリオンは一直線にそこへ向かって駆け出していた。それはもはや邪魔するものは何だろうとそのまま跳ね飛ばすような勢いであった。やはりと言うべきか、彼はそれほどフォルストンに会いたかったのだろう。いよいよ指揮所の扉の前までたどり着き、カルマリオンは扉の前で深呼吸をしている一通り息を整えた後、カルマリオンは一気に指揮所への扉を押し開けた。


「フォルストン卿はおられるか!」


「何だ貴様!? 新手の妖魔か!」


中に居たハイランド兵達が血相を変えてその武器を三人へ構える。


「ま、待ってくれ! なぜ僕達が妖魔扱いをされなければならない!」


「妖魔って俺達のことを言ってるのか? いや、確かにここの入口を強行突破こそしたものの、俺達が妖魔扱いを受けるような心当たりなんててんでないぞ!」


カルマリオンは完全に予想外の展開になったせいか、普段の様子とは打って変わって言動がしどろもどろになってしまっていた。そうして締まりの無いやりとりを続けていると奥から一人のNPCが歩いて来る。見間違えようがなかった。銀髪で長身のエルフ男性。彼の肌は白く、その柔らかな表情から特有の穏やかさを感じられる。彼こそが、フォルストン・オルファントその人であった。


「ああ、済まない。彼らはきっと、私の客人だ」


「こ、こんな雪だるまがですか、フォルストン卿」


「ゆきだるま。俺達のことを指して雪だるまと言ったか」


「三人共、きっと遠くから私を訪ねてきたのだろう。だが話をする前に、まずは外でその雪を払ってきてくれないか。そのままでは、誰が誰何だか全くわからないからな」


三人は改めて暖炉の光とクリスタルの照明で照らされたクリアな視界で互いの姿を確認した。そこには雪にまみれた不格好なイエティもどきのようなものが三体居た。彼らはフォルストンの言う通り、一旦表に出て雪を払ってからまた部屋の中に戻る。今度は三人が人間だとハイランド兵も信じたらしく、特段止められることもなく部屋の中へ通された。そして部屋の中央に鎮座する、部隊配置などを記した周辺の地図が置かれた大きなテーブルの手前に彼は立っていた。


「カルマリオン、ヤルダバルト、アンクルコミー。ひと目見たときからなんとなく、君たちなんじゃないかと思っていた」


「ああ……本当に、本当に生きているんだな、フォルストン卿……」


「私も、またこうして生きて君たちと出会えるだなんて夢にも思わなかった。見ての通りだ、カルマリオン。今、私はこの両の脚で、こうしてこの場に立っている」


「良かった……本当に良かった……ずっと、ずっと会いたかったんだ。何もかもがデタラメになってしまったがこうしてまた君に会えたことは、本当に幸運としか思えない」


カルマリオンはフォルストンに抱きついて泣きじゃくっている。ヤルダバルトとアンクルコミーはそれを少し後ろから感慨深げに眺めていた。生きているフォルストンと再び出会えたことで、ヤルダバルトもまたその目に涙を浮かべていた。改めて彼と対面し、その声を聞いてヤルダバルトは思い出した。皇都防衛戦線の記憶を――


 周囲を深い谷に囲まれてそびえ立つ皇都と山道のある陸地とを結ぶ巨大な橋の上、妖魔の大軍が橋を埋め尽くさんばかりに迫ってきていた。積年の恨みを晴らさんとする妖魔軍を押されては押し返し、ついに決戦兵器として投入された封神をなんとか押し留めている時のことだ。マナリンケージから響いた長距離通信のコール、それが災厄の始まりの知らせだった。


皇都の地下から次々と妖魔が現れ、街や民を襲っているという連絡が入り、迅速に目の前の封神を仕留めなければならなくなった。激闘の末やっとの思いで目の前の封神を倒したはいいものの、その時点で既に戦闘に参加していたNPCは疲弊しきっていた。刻騙しの力で味方を集められることを期待して皇都へ一足先にプレイヤーが向かおうとした矢先、倒した封神がその身を起こし、最期に道連れにせんと残った力全てを使いプレイヤーを狙撃する。皇都に向かおうとして背を向けたプレイヤーはそれに気がつけず、反応し対処できたのは、偶然すぐ側に居たフォルストンだけだった。彼は片手に持った盾を背負ってからプレイヤーを地面に引き倒し、その背で狙撃からプレイヤーをかばった。


片手に剣を持ち仁王立ちするフォルストンはしかし、深々と背負った盾ごと背中から胸を貫かれていた。明らかな致命傷、もはや立っているだけでも辛いものとしか思えない傷であった。だが、それでも彼はいつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべてプレイヤーに語りかける。


「大丈夫、私は大丈夫だ。だから頼む、皇都へ向かってくれ。あそこには、まだ君の助けを待つ民が大勢居るんだ。私のことは、気にするな」


その言葉を受けて再び立ち上がったプレイヤーの姿を見て、フォルストンは満足げにゆっくりと頷く。彼は手にしていた片手剣を両手で掲げてから地に突き立てて杖の代わりにした。その穏やかな笑みは絶やさず、じっとプレイヤーを見つめる。意を決して皇都へ向かうプレイヤーの背に、彼は変わらず穏やかな声で語りかける。


「ああ、それでいい。それでいいんだ。民を、みなを、私の代わりに……頼んだぞ。さらばだ、我が恩人にして、親愛なる友よ。君の未来に、冒険に、幸あれ」


その言葉を最期に、フォルストン卿の声は聞こえなくなる。だが、目の前の皇都では今まさに戦いが続いている。その皇都をフォルストン卿からも託された。多くのプレイヤーは涙を流しながら、フォルストン卿への未練を振り切るように、前へ前へと駆け抜けていく。


ヤルダバルトもこのイベントを突破した時は顔中涙でボロボロになっていた。ほか二人ほど『クリファン』に熱中していなかったアンクルコミーもまた、この時ばかりは精神的にかなりのダメージを受けていた。

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