1-18 策謀 その1

顎に手を当てて何やら考えていたアンクルコミーがふとヤルダバルトへ問いかける。


「ヤルダバルト、確かこのゲームはHPが0になっただけでは死亡したという扱いにはならないタイプのゲームだったか?」


「おう、HPが0になると行動不能になって、仲間から蘇生魔法かアイテムを使ってもらえれば死亡判定を受けずに戦闘へ復帰できるタイプだな。一応幽体離脱しているような感じで周りの状況を確認したり、メニュー画面などのシステムを動かすことは可能だが、戦闘行動からは完全に離脱することになる。んで、戦闘中にパーティが全滅して初めて死亡判定が確定する」


「となると敵の動きやギミックは死んで覚える、ということだな?」


「まあそりゃな。特に高難易度コンテンツなんかは何度も死にながらギミックの対処法を覚えてクリアするのが当たり前になってる。大抵のアクション系高難易度ならそういうもんだろ」


「ああそうだ。そういうものだな、ヤルダバルト。死んでも復活できると知らなければ、そんなゲームでノーデス縛りをしながら超高難易度であるエンドコンテンツの攻略を進めようということになる。しかも一回全滅したら全員の死が待ち受けている、というプレッシャーの中でだ。間違いなく難行、いやむしろ苦行と呼んでもいいレベルの話になっていると言っていいだろう。なまじっか全滅さえしなければ復活が効く分、進もうと思えば進めるのだから余計にタチが悪い。復活が切れないよう慎重に慎重に進めるだろうから、当然攻略速度の低下に繋がる」


「なるべく早くリアルの世界の肉体に戻りたい俺達としては、とても歓迎できるような事態じゃないな。つっても、所詮はいちプレイヤーである俺達が他のプレイヤー達全員にこの情報を伝えたとしても、その説得力なんて当然たかが知れている」


「ならば『大地の盟約』側から公式に発表してもらう方がいいんじゃないか? ストーリーに深く関わる組織であり、運営ともつながりが深い。多少の欺瞞は含むだろうが、運営からの公式発表扱いとして君たちからプレイヤー達に知らせてやれば信憑性も十分事足りるだろう」


カルマリオンの提案に対し、意外にもウォルターはそれを否定する。


「いや、別にその情報は広める必要は無いんじゃないか、カルマリオン?」


「ちょっと待て、今度は一体何を言い出すんだウォルター。さっさと攻略を進めないと俺達の肉体がダメになるってついさっき話したばっかりだろ!」


「だが、いくら腕に自信のあるヤツらだって戦闘中の事故はあるはずだ、ヤルダバルト。そしたら、当然いつものように復活して、死んでも復活できないなんていう勘違いも解消されるからわざわざその情報を伝える必要が無くなる。それに、あの巨人の目的も攻略を進めるプレイヤーの中に紛れ込んでバックドアとやらの権限をかすめ取ることだろう? なら攻略がいっとき滞ることにもメリットはあるはずだろう。要はあの巨人が紛れ込んだ集団が死なないようにゆっくりと準備を進めている間に、お前らでさっさとバックドアとやらを開放しちまえばいいんだ」


「なるほど、それなら確かにアイツがバックドアの権限を握ることなく俺達でプレイヤーがリアルの世界へと帰還させることができるだろうな。状況と目標を考えればこれ以上ないくらいに理想的な作戦だ。だがな、ウォルター……お前それ俺達三人でアイツ含めて攻略を進めようとするプレイヤー全員を出し抜けって言ってるのと同じだとわかってるのか?」


「別にお前ら三人だけで全部を片付けろって話じゃない。誰か信用できるやつを見つけて、仲間に加えるってのも十分に考えられるからな。だが、この戦略の肝は誰かが秘密裏にバックドアとやらにたどり着くことを目標としている、ってところにある。つまりだ、俺達『大地の盟約』が公式にポートエスケンでプレイヤーを募って組織化する一方で、お前ら三人を軸とした少数精鋭でさっさとお前らが言うところのエンドコンテンツにまで行ってしまえばいいんだ。そしたら俺達『大地の盟約』が集めた集団にあの巨人を押し込めておくことで、集団行動によってある程度だがヤツの行動を制御しながら、俺は俺個人でお前らの支援をすることができる。それならお前らが少人数で行動するとしてもなんとかできるんじゃないか?」


「そいつは確かに悪くない案かもしれないな。ストーリー上重要な役割を担っていた『大地の盟約』が音頭を取るのなら、それはきっと他の誰が言うよりも発信力と求心力を持つことだろうよ。それこそ、プレイヤーの誰かが言い出すよりもな。そこが攻略の最前線として機能しているように見せかけて、その実本命は俺達が担うってわけだろう?だがなウォルター、俺達プレイヤーは恐らくは全員が初期状態にリセットされてる。つまりはそう、能力や装備がお前ら『大地の盟約』のメンバーと初めて接触した頃に巻き戻ってるんだ。それに戦いの腕の方も、そこのアンクルコミーはともかく、俺とカルマリオンは中の上かかなり盛って上の下がいいところだぞ。『大地の盟約』の方で組織立って戦いを進めるのなら、当然リソースも腕の立つプレイヤーの数もそっちの方が上に決まってるだろう。いくらお前の支援があるからって、それでそいつらを出し抜けって流石に無理があるぞ」


「俺だってプレイヤーの能力や装備が巻き戻ってることはポートエスケンに来ていたプレイヤーから把握している。それを踏まえても、俺は別に無策でこんなことを言い出してるわけじゃないさ。いいか、こいつは未発表の大事な情報なんだが、お前らの能力や装備が巻き戻っているのと同じように、実はこの世界そのものも巻き戻っているんだ。今のこの世界じゃ、封神がまだ一柱も復活してなくて、それに付随してくる帝国の再侵攻も始まってないって言えばわかるか?」


「は? なんだよそりゃ、随分な大事件じゃないか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る