1-17 誤解

安堵の表情を浮かべるヤルダバルトとは異なり、カルマリオンは厳しい表情を浮かべていた。そしてその表情を変えずに、ウォルターへと質問した。


「ウォルター。君には我々プレイヤー全員の肉体が具体的に何日保つか、わかったりはしないのか?」


「具体的に何日、か。あいにく、そこまで詳しくはわからないな。何より一口にプレイヤーと言っても一人一人の条件があまりにも違う。例えばそうだな……お前ら三人は日本語を話すんだからおそらくは日本人だろう? 俺の記憶が正しければ日本って国は相当社会保障が充実した国だったはずだ。それなら、ある程度は国の政府からの支援も期待できるかもしれない。だが、確かアメリカという国だったか、国からの保証があまり期待できないような場所からこの世界に来ているプレイヤーもいるだろう? そいつらがお前ら日本人と同じ条件で生命維持ができるかどうかっていうと、残念ながらまあ無理だろうな。それに、お前らも日本で身体を保護されたからと言って、その状況をいつまでも続けられるというわけでもないだろう。要は今俺達が居るこのムサマンサと同じようなことだ。ここだって、帝国の侵攻によって焼け出された難民が大量に押し寄せてきている。当然、ムサマンサ政府だって難民対策の政策を打ち出しちゃいるが、いくらここが金融の中心地だからって無尽蔵に予算が湧き出るはずもない。だから現状、何とか難民が暴発しないように騙し騙し都市運営をしてるってことはお前らだって散々見てきただろう? どこも同じことだ、無限の資源や人手なんて望めるわけがない以上、どうやったって結局は無理が出てくる」


ウォルターは苦々しい表情でそう言った後、ため息をついた。ヤルダバルトが椅子にもたれかかり、天を仰ぎながら誰に向けるでもなく呟くように言う。


「そりゃあそうだよな。結局どこの世界に行ったとしても、ついて回る問題はヒト・モノ・カネってか。ゲームの世界でリアルの世界の問題を耳にすると世知辛さが二倍増しに感じるのは何でだろうなぁ」


「だが、先程のウォルターの話だとシステムを開発した本社の方も私達の身体を保護しようとしているのだろう? ならば私達の身体保護にもそれなりの援助が期待できたりはしないのか?」


「ああ、確かにそれはそうかもしれない。だがな、アンクルコミー。それでも所詮は一企業、確か俺達の世界で言うところの商会にすぎないだろう? たかだか一つの商会の資金力で、世界中の人間を一体何日延命できると思う? 確かにさっきはすぐに死ぬようなことは無いとは言ったが、残念ながら楽観視もできない状況だ」


「総合すると少なくともリアルの肉体が餓死したり干からびたりするような心配こそ無いが、その肉体を保護する支援が何日とか何ヶ月保つかまでは保証できないからなるべく急いで攻略を進めなきゃいけないってことか。んー……一応数ヶ月単位で時間があればなんとかエンドコンテンツの攻略自体はイケるかも知れないが、問題は攻略した上でバックドアの捜索もしないといけないし、何なら実際問題として一体どのエンドコンテンツにバックドアが仕込まれているかがわからない以上しらみつぶしに探すしか無い。この状況で支援が打ち切られる前に脱出をする、か。 いやこれ中々厳しいぞ、いくらトップ層のプレイヤーでも少なくとも安全マージンを確保した上でエンドコンテンツの攻略に踏み切るれるところまで育成を進めるのなら最低で一ヶ月以上はかかると見ていいはずだ。そっから更にバックドアを見つけるとなるといつになるかわかったもんじゃない。アンクルコミーから見たらどうだ?」


「私も概ね同意見だ、ヤルダバルト。いくら腕があってもエンドコンテンツ相手にはある程度以上のステータスは確保しないと話にもならんし、ましてやそのためのレベル上げや装備の強化も安全に行わねばならんとなるとな」


「ん? ちょっと待て。安全マージンって、二人共一体何の話をしているんだ?」


ウォルターはまるっきり何もわからない様子であっけにとられていた。


「そうか、この世界にはそもそもデスゲームものなんていう娯楽作品のジャンルなんて存在しないのか。だからウォルターも話の前提が理解できなくて困ってるんだな。 えっとな、今俺達は、普段やってるみたいに気軽には死ねなくなっちまったんだ。一度死ねばそれで終わり、復活もできないし、そのまま俺達の肉体も植物状態になっちまう」


「いや、なんでそうなる。まるでワケがわからないぞヤルダバルト。少なくともお前らが復活する仕組みがあの巨人に掌握されたという話は女神マーテラからは聞いてないし、そもそもお前らプレイヤーが復活するのは元々お前ら全員が持ってる刻騙しの力で復活してるだけで、外部からどうこうできるようなものじゃないんだぞ?」


「え? いやいやいやいや、それってつまり――俺達って、別に今この世界で死んでもリアルの俺達は死なない、ってことか?」


「何当たり前のことを言っているんだヤルダバルト。今までもずっとそうだったじゃないか。むしろなんで復活できなくなるなんて思ったんだ?」


「そりゃあ、アイツがいきなり自分が神だなんて適当なことを言い出して、この世界を掌握したとかいうたわごとを……あれ? 思い返してみると確かに俺達が死んだらどうこうってことは一言も言ってなかったのか……?」


ヤルダバルトが顔を上げてカルマリオンやアンクルコミーの方を見ると、彼らもまた鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。一方でウォルターは未だに何が何だかわからないとでも言いたげな顔をしていた。ヤルダバルトは他二人のプレイヤーに一つ頷いてからウォルターの方へと向き直る。


「あーその何だ、俺達が死んだらいけないって思ったのにもちゃんと理由があってな、ウォルター。アノアレが言っていた言葉の中に俺達の世界での娯楽作品に使われていたセリフやらお決まりの言い回しが入っていてな。その娯楽作品っていうのが、ここみたいなゲームの世界に閉じめられた上でこの世界での死がそのままリアルの世界での死に繋がるって設定の、デスゲーム物って呼ばれるジャンルの作品がいくつもあるんだ。そういう先入観があって俺達は復活できなくなると勘違いしてたわけだ」


「ああ、神を名乗るあの巨人は時折妙な言い回しをすると思っていたが、それでようやく納得がいった。そういうのは大体ヤルダバルトが言ったようなお前らの世界で作られた作品の引用だったりするってことだな。となるとやっぱりあの巨人はお前らの世界出身か、その情報をある程度以上に仕入れることができるヤツってことか」


「そうだろうな、少なくともこの世界出身のヤツが持ってる知識ではなさそうだ。いや、アイツの正体も大事なんだが、それよりも考えなきゃならないことがあるんだウォルター。っていうのも、俺達みたいな勘違いをしているプレイヤーが相当な数居ると思うんだ。あのデスゲーム物って結構な昔から人気のあるジャンルだったからな。だからなんとかして俺達以外のプレイヤーにもこの情報は伝えないと攻略に相当な影響が出るぞ。つまるところ、俺達みたいな勘違いをしていると一度も死なないでゲームの攻略を進める、いわゆるノーデス縛りを必要もないのにやることになっちまう」

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