1-19 策謀 その2
「あー、すまないヤルダバルト。色々と解説してくれると助かる」
「アンクルコミーはこっち来るのすら相当久しぶりだもんな。とりあえず基礎設定から説明して、そっから今の言葉の意味を解説する方がいいだろ。まず封神ってのはつまるところクリファンのコンテンツとして用意されてる大型ボスのことだ。ボス討伐型コンテンツの全部が全部封神討滅戦ってわけじゃないが、それでもほとんどのコンテンツで封神と戦うことにはなる。この封神ってヤツらは『クリファン』のストーリーにおいても極めて重要な存在で、要は生きてる核弾頭みたいなもんだ。でだ、封神の厄介な点として、封印されずその場に突っ立っているだけで周囲の環境を埋め込まれたクリスタルの性質に変質させるって所にある。つまり、炎の力を使う封神の周囲はどんどん気温が上がるし、そのすぐそばに水の力を使う封神の領域あったらそこは幾度となく津波が押し寄せるようになってしまう。封神は存在するだけで周囲の環境が改変されて、星そのものが人間が暮らしていけなくなるレベルに過酷な環境へ変化していくわけだな」
「そういえば暴風域の中で巨大な怪鳥を討伐したり、海上で頭が二つある水龍と戦った覚えがあるな」
「そうそうそれそれ、そいつらが封神だ。その封神をはるかな昔大地に封印したのが女神マーテラ、んでその女神マーテラの信託を受けて大地の巫女として活動を始めたのがリーンディアで、リーンディアが封神対策のために立ち上げた組織が『大地の盟約』ってわけだ。そんな経緯があるから、『大地の盟約』は各地で封印から解き放たれた封神を再封印して回ることで、人類の生存圏を維持することを目的としてる」
「思い出した、確か国家から独立した組織だから、七面倒な外交関係で四苦八苦していた。では帝国の方はどういう連中だ?」
「帝国って言うのは北東の方から勢力を伸ばしてきてるヤツらで、一応目的としては封神討滅を掲げてはいる。だが、そのために思いっきり軍事侵攻はしてくるし、封神討滅にしても周囲の被害は一切考慮せずに好き勝手やるものだからそりゃあもう評判が悪い。名前はミルヴラダル帝国、『クリファン』で単に帝国って言った時にはコイツらのことを指している」
「ああ! あの騎龍とかいう気色の悪いナマモノを戦力にしていた連中か!」
「あってるぜアンクルコミー。んで、『クリファン』のストーリーの序盤も序盤にな、封神が続けて三柱も復活するんだ。俺達プレイヤーと『大地の盟約』とが必死こいて封神を再封印しようとしている時に、それを察知した帝国が横から不意打ちで再侵攻して、前線基地に封神を丸ごと持ち帰られちまった。その帝国という共通の敵相手にこの辺りの勢力が『大地の盟約』を中心に協力して、帝国を押し返すってのが『クリファン』序盤のあらすじだ」
「つまりさっきのウォルターの話は……そういうことか、ヤルダバルト?」
「そうだ、ウォルターの言うことが事実なら、物語自体が始まってないっていうことになる。同時にストーリー進行に付随して解放されるボスやダンジョンにも挑めないってことだ。当然エンドコンテンツに挑むのなんてもってのほか、急がなきゃならないのに長丁場を強制されてるじゃねーか、どうすんだこれ」
「む? そういえばヤルダバルト、世界そのものがストーリー開始時点まで巻き戻るとはどういう意味だ? そもそもストーリーの進行は各プレイヤーデータに紐づいているんじゃなかったか?」
「あーいや、それがわからないのは仕方ないアンクルコミー。物語の中でもあまり詳しく説明はされてないからな。こいつはファンブックとかに出てくる裏設定なんだが、実際のところ正確には俺達が『クリファン』のストーリーで体験している内容はあくまで先にその攻略を進めているプレイヤーの物語を追体験している、って話なんだ。さっきウォルターの話に出てきた刻騙しの力ってあるだろ? この『クリファン』世界の住民には皆その力の種が身体に眠ってて、それが強く芽生えたのがプレイヤーって設定なんだ。この刻騙しの力があると限定的な時間遡行が可能で、例えばプレイヤーを主とした同じ力を持つヤツらを基点として過去に飛べたりするって訳だ。プレイヤーは過去に飛ぶことで、既に攻略したダンジョンやボスに再び挑める……ま、要は同じボスやダンジョンに何度も何度も挑むことができることの辻褄合わせだな。で、こっからがキモなんだが、そもそもこのクリファンがサービス開始した時点で既にストーリーは定まっていただろ? 運営の誰かがストーリーに沿った行動をして、最初から俺達プレイヤーはその物語を追体験している、って公式の生放送で明かされたことがあるんだ。それが、今はそのストーリーが定まる前にまでこの世界が巻き戻ったってウォルターは言ってるのさ」
「あーつまり、今なら私達の行動次第でクリファンの物語を改変することができる、ということか、ヤルダバルト?」
アンクルコミーの質問にヤルダバルトはあっけに取られた様子で目を見開く。
「……おっと? その方向は一切考えてなかったぞ。確かに現状運営によってストーリーの道筋が整備されていないのなら、俺達がその道筋を作ってしまってストーリーそのものを改変することだってできる……のか? いや、それ意味あるのか? そりゃあ確かに例の門が設置されてる候補のエンドコンテンツ自体はメインストーリーを攻略していることを前提にしているものがほとんどだけど、逆に言やぁストーリー改変したら最後、エンドコンテンツに挑めなくなる可能性もある。まあ俺だって死ぬ運命にある好きなキャラを救いたいって思うこともあるけれど、だからといってエンドコンテンツに挑めなくなった結果プレイヤー全員が脱出できなくなるリスクを負うのは流石に釣り合いが取れてないだろ」
ヤルダバルトがアンクルコミーの提案に疑問を抱く一方で、その言葉を聞いたウォルターはどこか納得したように頷いた。
「そうだ、それが今回俺が立てた作戦の肝になる。いいことを言ったなアンクルコミー。俺達『大地の盟約』が今立てている攻略計画は、元々のストーリーに沿って片っ端から封神を封じて回るというものだ。それも今ポートエスケンへ集まってる数多くのプレイヤーの協力者を連れてな。だが、前のときは協力者であるプレイヤーは一人だということが前提だった。だからはっきり言ってしまうが、こうなってしまった以上、この戦いは以前俺達が辿った道筋をなぞることはできない。だからこそ、お前達が付け入る隙ができるのさ。俺達が正攻法で封神討滅を進めている間に、なんとかしてバックドアとやらを見つけてきてくれ。もちろん俺も協力するし、お前らのチームに加えられそうなヤツを見つけたら紹介しよう」
「なるほどな、そこまで聞くとそれなりには成立しそうな作戦だ。攻略を進めようとするヤツらはほぼ『大地の盟約』御一行様惑星マーテラ封神討滅ツアーに参加するだろうな。正攻法なだけあって堅実にレベルを上げたりはできるだろうが、そっちに参加したプレイヤーが本腰を入れてエンドコンテンツ攻略を進められるようになるまでには、流石にかなりの時間がかかると見ていい。つか、ウォルターの口ぶりからすると『大地の盟約』が主導することを悪用してメインストーリーに関わりのないところで遭遇した封神達も討滅しに向かうんじゃないか?」
「まあな。封神という時点でそもそも生存環境に悪影響が出るから積極的に解決はしたいし、同時にお前らプレイヤーの強化も兼ねているという形の名目は立つ。」
「そうしたらあの巨人を含めたプレイヤー達をかなり長期に渡って拘束することができる。アイツが痺れを切らしてその集団を飛び出そうにも、俺の推測が当たっているのならヤツにソロクリアを可能とするほどの腕はない。なら不満を抱えつつも『大地の盟約』を主導とする集団にいる他ないってことになる。これだけお膳立てされたのなら、『大地の盟約』主導の集団が停滞している間に、少人数でエンドコンテンツの攻略を進めるのも不可能では無いかもしれねぇな。……アンクルコミー、カルマリオン。二人は、どう思う?」
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