1-16 違和感
「うん? 女神マーテラが仲介する以外にこっちとリアルとを行き来する手段が無い……本当にそうか? 何か違和感があるな。何だ、この違和感は一体どこから来た。何か重要なことを見落としているような気がするぞ」
「どうした、ヤルダバルト? 何か気づいたのか?」
「いや、そういうわけじゃねーんだがな、カルマリオン。何か俺のカンに引っかかってるんだ」
「ふむ、ならば少し整理してみるとしよう。こういう時の君のカンは頼りになる。まずは何に違和感を覚えたんだ?」
「えーっとだな……女神マーテラの仲介を経ることなく世界を行き来できる手段があるとは思えない、さっきウォルターはそう言ったな。多分そこだ」
「まあそういう表現になるのも当然だろう。この世界で生まれ育ったウォルターにとって、今我々が立っている惑星そのものとも言える女神マーテラは文字通りの創造主だ。ならば先程のウォルターの言葉を噛み砕いて言えば、女神マーテラほどの力を持つ存在以外に二つの世界を橋渡しできる者など居るとは思えない、となるだろうか。」
「ああそりゃ確かにそうだ。俺もこのクリファンの世界で最も強大な力を持つ者が誰かと聞かれたら間違いなく女神マーテラと答えるだろうな。一応、その女神マーテラが己の存在を賭けて必死に封印を施している『クリファン』のラスボスが力量だけで言えば最強だろうが……」
その言葉を聞いたウォルターがすぐさま呆れたような声を上げた。
「馬鹿なことを言わないでくれ、アレは所詮この星に巣食う寄生虫だ。あんなものが俺達のためにこの世界とリアルの世界との橋渡しをするなんてことは考えられるわけがない」
「なるほど、じゃあこの世界に女神マーテラ以外で誰か橋渡しが可能な存在が居るか、ということに違和感を覚えたって訳じゃ無さそうだな。世界の行き来を司ることができるのはクリファン世界だと女神マーテラだけってことになる。改めて考えると危なっかしいというか、不用心な話だよな。今回みたいに運営と女神マーテラとの繋がりを絶たれるってのは流石にレアケースとしても、女神マーテラが何かしら不調になったりするのを運営は想定して――」
ふとヤルダバルトが口元を抑えて黙り込む。他の三人も突然言葉を止めたヤルダバルトが気になるのか、彼の方を覗き込むように見つめている。
「もしも、女神マーテラも知らないようなルートが本当にあったとしたら?」
「何か心当たりがあるのか、ヤルダバルト?」
「いや、残念ながらただの推測だカルマリオン。三人共、今から話すことは何の根拠もない話だということを前提に聞いてくれ。仮にだ、仮に女神マーテラも知らない方法でこの世界の運営権を握ることができるとしたら、あの巨人が俺達にエンドコンテンツを攻略しろって言ってたことに説明がつくんだ。そもそも運営があの巨人が言ってたような門を設置するとしたらきっと、女神マーテラが制御不能に陥った時に彼女を介さず運営特権を使えるようになるバックドアとかだろ。なら当然運営もそう簡単に見つかるような場所に隠しはしない。例えばそう、超高難易度のエンドコンテンツの中とか、な」
「なるほど、それがあの神を名乗る巨人が言っていたことに繋がるということか」
「ああそうだ、アンクルコミー。アイツはきっと、エンドコンテンツを自力で攻略することが出来るような実力がないんだ。ハッキングだか買収だかで運営と女神マーテラとの繋がりを切って、今俺達をこのゲームに閉じ込めるっていう状況に持ち込むこと自体はできたんだろうが、だからといってゲームの腕が上手いっていうことにはならない。だが、目的のバックドアは自力で攻略出来るような場所にはない。ならヤツがどうするかを考えると、おそらくアノアレは俺達プレイヤーに脱出という餌をぶら下げて高難易度コンテンツを攻略させようとしてるんだ。そして、その攻略をする集団に紛れ込んで、バックドアを見つけたらそれを自分がかすめ取る。こう考えると全ての話の辻褄が合う」
「しかしだな、高難易度コンテンツとはいえクリアされることが前提のものではあるだろう? そんなところにバックドアなど仕込むものなのか?」
「そりゃ俺も疑問に思うさカルマリオン。だから何かしらの運営特権が絡むのかもしれないし、運営側にしか知らされていない暗号や操作を加えないとそのバックドアにたどり着けないかもしれない。だからこれはあの巨人が言ってたことが全部本当だと仮定した上で、状況証拠に基づいた推測でしかないんだ」
「ただ、もしヤルダバルトの推測が本当なら、あの巨人は想像以上に小賢しいヤツだな。運営と女神マーテラとの接続を断つことはできても、おそらくは女神マーテラを乗っ取ることができなかった。だからわざわざ我々の前に姿を表してあんな馬鹿げた真似をしてみせた、ということか」
しばらく沈黙が続く。そして今度はアンクルコミーが口を開いた。
「では、攻略は進めないのが正解なのか、ヤルダバルト?」
「……いや、そもそもそれは無理だろ。アイツが俺達プレイヤーに、脱出するにはゲームを攻略しろって言った時点で、エンドコンテンツ攻略に向けて動くプレイヤーが出てくることは避けられない。少なくともそれを止める手段も権利も俺達にあるわけじゃない。リアルの世界に帰りたいと思うことも、アイツの言葉を信じることも個人の自由でしか無いからな。となると実質上アイツが潜伏して攻略を進めることを止めることは不可能だ。それに、俺達の身体も……」
ヤルダバルトはそこまで言って、言葉に詰まった。目に見えて青ざめながら、明らかに慌てた様子でうろたえる。
「そうだ、身体だ……俺の身体だ! 俺は今一人暮らしだから誰も俺があそこで寝てるってことに気が付かないんじゃないのか……? 俺がログインしてから何時間経った、このまま俺の身体は干からびちまうのか!? まずいぞ、思っていた以上にタイムリミットは短いのかもしれない! 同じ状況になっている人間はきっと俺以外にもかなりいるはずだ! ウォルター、女神マーテラが俺達の世界とこっちの世界との行き来を管理してたっていうのなら、俺達のリアルの身体について何か言ってたりしなかったか!?」
「まあ待て、それに関しては安心していい。そこまで慌てることはない。俺達はそのあたり、運営側の話をサービス開始時から聞かされてる。お前達がこっちの世界に来るための機械があるだろう。あれの仕組みの関係で仮に世界同士の接続が切られたとして、少なくともお前らプレイヤーが今すぐに死ぬようなことはないはずだ」
「だとしても、俺は一人暮らしだぞ。今俺の身体が寝っ転がってるってことがわかるヤツなんて誰も居ないんだから、急がなきゃ俺の身体は干からびちまう!」
「いや、そうはならないから安心していいんだ、ヤルダバルト。お前達がこの世界に来るため使用している機械が何か異常を検知すると、そいつがアラートを発してその機械を作ってる所の本部や医療機関へと異常を知らせる仕組みになっているらしい。今頃アラートを受け取った医療機関やら本部の人間が、お前たち全員の肉体を保護しに向かっている真っ最中だろう。だから一週間や二週間で身体が干からびて死ぬ、なんて心配はしなくていいはずだ。まあ何だ、元々お前らに何かしらのトラブルが起きることも向こうは想定していて、俺達もそれを見越してお前らプレイヤーへ説明ができたりある程度のフォローをするようになってるってことだ。流石にここまでの大事が起こるとは俺も思っちゃいなかったがな」
それを聞いてヤルダバルトはようやく一つ大きな息を吐き出す。軽くかぶりを振った後少し落ち着いた様子でウォルターへと向き直る。
「なるほど、そりゃ安心……ってほどではないが少なくともタイムリミットまではある程度の余裕があるということがわかったのは一つ大きな情報だな。とりあえずこの情報を広げられれば、無理に攻略を進めることもなしに、ある程度じっくり時間をかけて安全にレベル上げや装備の強化もできるはずだ」
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