1-15 女神と巫女、そして世界

ヤルダバルトの質問に対してウォルターは食事の手を止め、真剣な顔をして話し始めた。


「そうだな……よし、今日の話を進めやすいように断言しておくとするか。元々この世界に暮らす存在、お前らがNPCと呼ぶヤツらの内一部は、お前らがこの別の世界から世界へと遊びに来ているとハナから知っているんだ。例えば『大地の盟約』の主要メンバーとか、な」


「それはつまり、最初の最初からってことか?」


「ああ、その通りだヤルダバルト。お前らにとってわかりやすく言うのなら、サービス開始の時点で俺達は既にその事実を把握していた。『大地の盟約』の仲間じゃないヤツらがいつ知ったのかまではわからないがな」


その言葉を聞いてヤルダバルトはまたピクリと眉を動かす。サービス開始という単語はプレイヤーか運営の視点を持っていなければそもそも出てこない言葉である。そんな言葉をNPCであるウォルターが発したことで彼が持つ知識がそれほどのものかをヤルダバルトは図りかねていた。彼はウォルターのことをもう一度試すことにした。


「実は中の人がいるんじゃねぇのか?」


「いやいないぞ? 俺は正真正銘この世界で生まれて、この世界にしか存在しない人間だ。あー、その、何だ。そうやって特徴的な用語を使って俺がどこまで知ってるのか試したくなる気持ちはよくわかる、ヤルダバルト。よくわかるんだがな、俺も俺でこの感じをどう言えばうまく伝えられるのかあまりよくわからないんだ。だからそうだな、ひとまずお互いが知っていることは全部俺もお前も知ってるつもりで話して、わからないことをそれぞれ聞くほうが話がスムーズに進むだろう」


ヤルダバルトがチラとカルマリオンに目配せをすると、カルマリオンは軽くだが確かに頷いた。それは「大丈夫」だと言う合図であり、それを受けてヤルダバルトも核心に迫る質問を投げかける決心をした。


「じゃあとりあえず聞くんだが、お前らって今のこの状況について、どんな情報を握ってるんだ? 例えば、あの巨人は一体何なのか、とか。」


「ああ、すまない。俺達もその辺りの情報は集めている途中でな、提供できる情報はそう多くもない。だが、その上で……我らが大地の巫女様が、神託を通じて女神マーテラから聞いた話ならお前達に教えられるな」


「おっ、それは確かにちょっと興味深い話だな」


「すまない、待ってくれヤルダバルト。その大地の巫女というのは?」


「大地の巫女っていうのはリーンディアの別名で、彼女は『大地の盟約』のリーダーをしているNPCだ。この惑星マーテラの大地を司る女神の声を聞くことができるから、大地の巫女ってわけだ。思い出したか、アンクルコミー?」


「私の記憶だとマーテラというのはその女神の名前だっただろう」


「あってるぜ。この辺りどうにもややっこしいんだが、一応こうなっている理由はちゃんとあってな。元々先にこの惑星の名前がマーテラで、その後ある女性が星と融合し大地そのものとなったから、惑星の名前を与えられて女神マーテラと呼ばれるようになったってわけだ」


「ああ、そうか。だからストーリーで出会った際、彼女はこの星のことにやけに詳しかったのだな」


「おう、一応女神マーテラもあくまでゲーム『クリファン』のNPCではあるんだが、流石にこの惑星そのものでもある神なだけあって、何かしらこの星で異変が起きているのならそれを把握できるってことなんだろうな。とりあえず、その女神マーテラが話したことってのを教えてくれ、ウォルター」


「わかった。まず一つ重要な話だが、今この世界とプレイヤーであるお前達が元々居たリアルの世界とはつながりが完全に切れているらしい。女神マーテラによると元々連絡が取れていた運営者とは完全に連絡が取れなくなっている」


その言葉を聞いた途端、プレイヤーの三人が一斉に立ち上がった。彼らは互いの顔を見合わせて、それからウォルターへと向き直った。


「待て待て待て待て、ちょっと説明して欲しいことが多すぎる。一つずつ質問していくぞ? まずはこの世界とリアルの世界とつながりが切れてるってどういうことだ!?」


「俺も詳しくはあまりわかっちゃいないし、あくまでリーンディアからの又聞きだからあまりアテにし過ぎないでくれ、ヤルダバルト。いいか、まず根本的な話をすると、この惑星そのものを管理している女神マーテラにも実は更なる上位者が居る。女神マーテラはそいつの事をさっき話した運営と呼んでいた。でだ、元々女神マーテラもこの世界もそして俺達もその運営によって作られて、女神マーテラの方はあくまでこの世界の管理を委託されたって立場だ。お前らプレイヤーがこの世界とお前らのリアルの世界の間を行き来する時の安全保障を担当したり、この世界で新しい何かを始める時に指示を受けてこの星を制御したりと、かなり緊密に連絡を取りあっていた。俺達も何かとイベントだの新しい冒険だのをやるときに、女神マーテラと仲介役としてその運営とやり取りしていた」


ウォルターの話を聞いてカルマリオンは少し考え、その後ヤルダバルトへ問いかけた。


「なあヤルダバルト、これは……」


「ああ。多分、『クリファン』の開発運営がこのゲームの世界を作って、女神マーテラがその管理をするための統括NPCであるってことを話してるんだろう。俺達プレイヤーにとっちゃそれだけのことでしか無いが、ウォルターの立場からすると、星そのものとも言える神に更なる上位者がいたって言うことを表すにはこう言う表現を使わざるをえないんだろうな」


当のウォルターは水を一口飲んで一息ついてから話を続けた。


「で、だ。さっきリーンディアが交信した女神マーテラの話によると、その連絡がいきなりブツンと途切れたらしい。それからはこちらから連絡を取ろうにも繋がらないし、向こうから一切の音沙汰もないそうだ」


「それはいつのことだ、あのハゲのデカブツが出てくる直前とかか?」


「いや、それよりもっと前だなヤルダバルト。時間で逆算すると大体、この世界からお前達プレイヤーが一旦消えてしまった直後くらいだったか」


「え? 俺達が一旦消えた後ってそりゃぁつまり……あの緊急メンテの最中ってことじゃねーか! ってことは俺達が隔離されている間にメンテをしてたはずだけど、実際はそのメンテの最中に運営とこのゲームとの接続が切れて結果ログアウトできなくなった、ってことか。いやどういう理屈でそうなるんだよ。何でメンテの最中に、そのメンテをしているはずの運営と接続が切れるんだ」


ヤルダバルト頭を抱え、机に両肘を付く。そのまましばらくウンウン細い声を上げてうなっているとアンクルコミーが声を掛ける。


「ヤルダバルト、何かわかりそうか?」


「……いやダメだ、現状だとわからないってことしかわからねぇ。こういう時は一旦棚上げしておいて別の情報を集めるに限る。瓢箪から駒ってわけじゃないが、意外な所から足りなかった情報がポロッと出ることは割とある」


そう言ってヤルダバルトは改めてウォルターへと向き直る。


「なあウォルター、さっき女神マーテラと運営との連絡が絶たれたって言ってたけど、さっき出てきたあの神を名乗るデカブツが運営のポジションを乗っ取ったってことじゃ無いのか?」


「ああ、それは違うぞヤルダバルト。俺もそう思ってその話を女神マーテラとするようにリーンディアに頼んだんだが、女神マーテラによれば今の時点で運営の役割をしてるヤツは誰もいないらしい。少なくともあのデカブツは今までの運営とは全くの別物で、アレについて教えられる知識は何もないんだとさ」


「なるほど、そりゃなんだかんだで悪くはないニュースだな。さっきアイツは自分を神と言ってあたかもこの世界の全てを掌握したみたいに話していたが、実際はそんなことはてんでないってことだ」


「そうなのか?」


「まあ推測だがなウォルター。アイツがやったのはあくまでこの世界と俺達が元々暮らしていたリアルの世界との接続を切っただけで、あの大仰な言葉は全部ハッタリか虚勢だったんじゃねーかな。そんなことを言い出す理由は……ああ、俺達プレイヤーを混乱させて、実際にこの世界の掌握を進めるまでの時間稼ぎにするつもりって辺りか」


カルマリオンが納得したように頷く。


「もしそれが事実なら中々に嫌らしい手を打ってきたな、世界の掌握にどれだけ時間がかかるかはわからないが、少なくとも我々プレイヤーの出鼻を一気に挫いたことは間違い無い。そうだ、私から質問させてほしい、ウォルター。あの神を巨人が言っていたリアルの世界に帰るための門というものについて心当たりは無いか? もしくは女神マーテラがそれらしいものに言及していたりとか」


「門か。正直に言えば、俺にも心当たりは無い。リーンディアもそのことについちゃ女神マーテラから何も聞けなかったって言っていたしな。そもそも、お前達プレイヤーがこの世界とお前達のリアルの世界を行き来するためのルートなんて、半自動的だとはいえ女神マーテラが仲介していたルート以外にあるとは思えない。少なくともそんなルートがあるのなら、女神マーテラがリーンディアを通じて俺達に話しているはずだしな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る