1-10 出撃準備

 ヤルダバルトが都市内ワープを使って待ち合わせ場所に向かうと、アンクルコミーがそこで先に待っていた。ヤルダバルトが右手を挙げて軽く振ると、アンクルコミーも同じように応える。一般にゲームの肉体を動かすことの疲労はないが、それでも立ち仕事を長時間続けることで、ヤルダバルトはかなり気疲れしているようだ。 彼はアンクルコミーの隣に腰を下ろし、地面にあぐらをかいて背中を壁に預ける。ヤルダバルトがうなだれていると、通りの向こうからカルマリオンが都市内ワープも使わずにこちらへと駆け寄って来た。 ヤルダバルトが立ち上がって伸びをすると、ほぼ同時にカルマリオンが二人の前まで到着した。どこか安っぽいが真新しい鎧をカチャカチャと鳴らしながらカルマリオンは少しバツが悪そうに口を開く。


「ああ、すまない二人共。どうやら待たせてしまったらしいな」


「いんや? ちょうど時間通りだぜカルマリオン。俺の方は最高品質の回復ポーション四十個と金を少し確保した。そっちはどうだ?」


「まあ、見ての通りさ」


そう言ってカルマリオンは軽く胸を叩く。籠手と鎧がぶつかって軽い金属音が鳴った。見た目に違わず、一般的な鎧よりも作りが安いようだ。カルマリオンはアンクルコミーの方を向き直る。


「君の方はどうだったんだ?」


「私はまあ軽くやれることをやってきただけだ。二人と比べたら成果は少ないかもしれんな」


そう言いつつ、カルマリオンとアンクルコミーはコンソールウィンドウを操作する。ヤルダバルトの眼の前にアイテムトレードを行う確認の通知が表示され、彼がトレード画面に入るといくつかのアイテムと『クリファン』のゲーム内通貨であるダランを二人から渡された。アイテムを整理し、所持金を先ほど錬金術師ギルドで稼いだ分と統合すると、ヤルダバルトその画面を他の二人にも見せながら話を続ける。


「じゃあとりあえず結果を確かめてみるとするか。まず手に入った資金に関しては俺がポーション納品、アンクルコミーの方が依頼の報酬、んでカルマリオンも依頼報酬で稼いで三人合計三千四百三十ダラン、時間の割に稼げた方だな。レベルの方は俺が錬金術師レベル十六、カルマリオンが騎士レベル十四、アンクルコミーが猟師レベル二十……うん? ちょっとおかしくねぇか? アンクルコミーはなんでそんなにレベル高いんだ」


「カルマリオンはNPCとの交渉をしていて、ヤルダバルトはアイテム制作の時間があったのだろう? 私はその分を依頼達成に費やしたのだからそうおかしくもないだろう」


「んー、なんか変な気もするけど……まあいいや、入手アイテムを確認しよう。まず俺が確保最高品質の回復ポーション四十個だ。ポートエスケンへの道中に使う三人分の回復アイテムとしては十分な数だろうな。カルマリオンはその鎧か?」


「ああ、NPCと交渉して新商品になる鎧を試供品として受け取った。作りが安っぽいが、まあこれは実際そういうものだ。可能な限りのコストカットをすることで必要最低限の性能を保ちつつ量産性を高めた鎧、といったところか。新商品として売り出すために、フルプレートアーマーに手が届かない層をターゲットにしたという設定らしい」


「一体どこからその鎧の情報を仕入れたんだよ……騎士のレベルを上げつつ無料で鎧を用意するあたり、やっぱお前の交渉術すげぇわ。んでアンクルコミーはほぼゴミみたいな巨大アリの大アゴが四つか……いや、ちょっと待て! この素材を落とす人間大のアリってレベル十六のエネミーじゃねーか!  おいアンクルコミーお前この野郎馬鹿野郎! 街から出ないで稼ぐっつったろーが! なんで普通にちょっと遠出してエネミー狩りに行ってるんだ! 今俺達はデスゲームをやってるんだから死んだらそこでもう終わりなんだぞ!」


「はっはっは、この程度リスクにすらならんよ。それにお前もカルマリオンもそれぞれの領分で、できる限りを尽くしていたのだろう? ならば私も私の領分を活かしてできることをやらなければ示しがつかん。それは二人とて同じことだと思うがね?」


「まあまあ、その話は置いておいて今は具体的にこの物資をどうするか考えるとしようじゃないか。とりあえずヤルダバルト、君の案を聞きたい」


「いや案つったってこの程度の量じゃなぁ……とりあえずダランはカルマリオンの剣と盾を買ったら無くなるだろうし、そしたらもうポーションの分配くらいだろ? ならタンクをやるカルマリオンに念の為八個くらい持たせておいて、後は俺とアンクルコミーが十六個ずつ確保してカルマリオンに投げつける感じでいいんじゃねーの?」


「私に異論はない。カルマリオンはどうだ?」


「僕もそれでいい。さ、パーティを組んで出発するとしよう。」


カルマリオンがメニューコンソールを操作すると、通知音と共に俺とアンクルコミーの目の前にダイアログウィンドウが表示された。


『カルマリオン からパーティに勧誘されました。』


ヤルダバルトとアンクルコミーは迷いなく『はい』の項目を選択する。ダイアログウィンドウが消え、カルマリオンとアンクルコミーの頭上にパーティメンバーであることを表すアイコンが表示された。


三人は市場に向かい、不要なアイテムを売却しつつカルマリオンが使用する為の剣と盾の装備を買った後、ヤルダバルトのインベントリからカルマリオンとアンクルコミーに回復ポーションを分配する。ポーションを受け取ったカルマリオンが軽く剣や盾の具合を確かめると、他の二人へ振り返った。


「うむ、これならおおよそ問題はないだろう。だが念のため動きを確認しておきたい。貴重なポーションを消費することになるが、このムサマンサ近辺の敵と一度戦いたいのだが、かまわないか?」


「ちょうど私も同じことを提案しようと思っていた。ヤルダバルトもそれでいいな?」


「良いも悪いも何も、それは必要なことだろ? さっさとやっちまおうぜ」

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