1-6 輝くは偉大なる水晶
クリスタルファンタジア20、ヤルダバルト達が『クリファン』と呼んでいるこのゲームは、その名が示す通り外伝含め既に20作以上が発売されているシリーズの一つ。それまでのシリーズは全て通常のモニターを使用して遊ぶゲームであったが、その中でも今作は初めVRMMOオンラインRPGとして製作された。MMORPGとしては珍しくそのストーリーが世界中で高く評価されており、VRMMOオンラインゲームとしては異例にも、通常のコンシューマーRPGの感覚で遊ぶプレイヤーも多く存在しているゲームである。
その『クリファン』にログインしたヤルダバルトは待っていた。約束していた時間に比べて早くにログインしたことは確かだが、一方でカルマリオンやクリムゾンメテオが早く合流する可能性を考えると、待ち合わせ場所から移動するという気にもならずに暇を持て余していた。ヤルダバルトが背中を預けている頭上には巨大な水晶がゆっくりと回りながら浮かんでいる。『クリファン』におけるワープポイントの機能も持つこの水晶の周辺を、プレイヤー達は集会場の一つとして活用していた。
ここは『クリファン』の舞台である惑星マーテラにある大都市の一つ、かつてゴールドラッシュで賑わった砂漠の街、ムサマンサ。金の鉱山が既に枯れて久しい今も、ゴールドラッシュ時代に築かれたコロッセオで行われる戦いに人々は熱狂し、カネと欲望が渦巻く商業と経済の中心地として賑わっている。このムサマンサは『クリファン』を新しく始める際に選択できる三つの初期地点の一つでもあり、多くのプレイヤーが活動拠点としている街であった。
待ちくたびれたヤルダバルトがカジノに向かって時間を潰すべきかと思い始めた頃、カルマリオンが巨大な水晶の下へワープのエフェクトと共に現れた。彼は軽く辺りを見回してヤルダバルトを見つけるとすぐさま駆け寄ってきた。
「すまないヤルダバルト、待たせてしまったか?」
「いんや、俺が早くに来過ぎちまっただけだよ。後はアイツだけか、カルマリオンは一緒にログインしてこなかったのか?」
「私は一人でログインしたよ。彼はほら、例の毎月恒例10本勝負を午前中に始めていたらしくてな、それが長引いているんじゃないか?」
「あー、アレか。俺が今回渡したのは一段と生存能力に特化させた機体だからなー、いつもの感覚でやったらそりゃ長引くよな。つかアイツが今日は午後から始めようって言い出したのはこれが理由かよ」
「昨日の時点では先方の予定もまだ不明瞭だったからな。二人とも屈指の人気プロゲーマーだ、互いに忙しい時間の隙間を縫って定例行事にしているのだから仕方ないだろう。そもそも先方の予定次第では今日に10本勝負ができない可能性も十分あったから、半分ダメで元々のつもりだったんじゃないか?」
「確か今月の大会が来週なんだっけか? 下手すると新機体のタネが割れてから勝負することになっちまうから急ぐのもわかるんだけどな。俺はアイツがボコボコに負けてくるのに百円」
「なら僕は君が仕込んだギミックに怒りながらこっちへログインしてくるに百円。ふっ、毎度のことながらコレでは賭けにならないな」
そうして二人が話をしていると、ワープ音と共に水晶の下へ一人の男が現れた。プレイヤーネームにはアンクルコミーと表示されている。プロゲーマーとして活動するクリムゾンメテオが、その素性を隠す時に使用する別のハンドルネームである。アンクルコミーはヤルダバルトとカルマリオンを見つけると、軽く手を振ってから二人の下へと歩いて来た。
「すまない二人共、待たせてしまったか」
「別に俺達も大して待っちゃいねーからいいって。そんで、今日はどうだったんだよ、ついにアンクルコミーがストレートで十敗か?」
「バカを言うな、ちゃんと私も二勝してダイヤ二割を維持したに決まっているだろう。しかしなヤルダバルト、それはそれとして、だ。よくもあんなフザけた機体を渡してくれたな?」
「イヤイヤー、俺だっていつも大真面目に作ってるんだぜ? でなきゃ大会用に使うとわかってて渡しゃしねーよ」
「もちろん私もそのくらいはわかっている。おかげで勝ちを拾いもした。だが毎度のごとく、ああやって機体のギミックを伏せられては、扱う側にはたまったものじゃない」
「いやぁ、だってよぉ……ああいう初見殺しは不意打ちで撃ってこそ一番強いだろ? それにお前だって自分で、相手の動きから何かを狙ってることを読み取れたりするって言ってたじゃねーか。それならパイロットのお前自身にも伏せとかないと相手にバレちまうって前も俺言ったろ」
「全く、お前というやつはいつもそうだ。それで勝てたからには感謝しているが、あのトンチキギミックを戦闘中にいきなり使えと言われるのは毎度毎度心臓に悪い」
「でも、使いこなせねぇとは言わねぇんだろ?」
「当然だ、私を誰だと思っている?」
そうして二人が軽口を叩いていると、カルマリオンが手をパンパンと鳴らしながら割って入る。
「二人共じゃれ合いはその辺りでいいだろう? そろそろ本題に入ろうじゃないか」
「っと、そうだな。それじゃあまずは新コンテンツの開放をしにいかねぇと……」
ヤルダバルトがアンクルコミーとカルマリオンを案内しようとした矢先、広場にいた他のプレイヤーが叫び声を上げた。
「お、おい! なんだよアレ!?」
そのプレイヤーが指差す先には、身じろぎ一つ取らずに固まったまま青白い光に包まれるまた別のプレイヤーの姿があった。その光は次々にプレイヤー達へ広がり、やがて光に包まれたプレイヤーは一人また一人とその場から消え去っていった。
「ヤルダバルト、あの光は一体何だ!?」
「俺は久々に見たぜアンクルコミー……アレは、強制ログアウトの光――
ヤルダバルトが言い切るその瞬間、彼らもまた青白い光に包まれ、その場から消え失せる。やがて全てのプレイヤーが強制ログアウトさせられ、ただ静けさだけがゲームの中を支配していた。
椅子が一つポツンと置かれた真っ白な空間。その中に光の柱が立ち上り、中からヤルダバルトが現れた。彼は軽く辺りを見渡すと目の前にある椅子へと座る。その瞬間、半透明のメッセージダイアログが彼の前に現れた。
『ただいま全サーバーの緊急メンテナンスを行っております。ご不便をおかけして申し訳ありません。復旧まで今しばらくお待ちください』
「マジかよ、久々に来たなここ……」
この空間は現行のVRシステムのゲームで重大な問題が起こった際にプレイヤー達を一時的に完全に外部から隔離して保護するための場所である。あくまで一時的な保護のみを目的としていて、この状態でのログアウトはプレイヤーの肉体精神共に極めて大きな負担がかかるため不可能となっている。
現行のVRシステムが出回った黎明期にはこの空間が使われる事も少なくなかったが、今となってはプレイヤーが隔離される程の障害は稀な事であり、これほどの事態が起きた時にはネットニュースとして報道されるほどになっていた。ヤルダバルトもこの空間へ隔離されるのは数年ぶりのことである。外部との通信が絶たれている以上、チャットなどの手段で誰かと交流を図ることはできない。そのため、この空間には暇つぶしのために数種類の名作レトロゲームが備え付けられている。ヤルダバルトは落ちものパズルゲームを選択し、再びゲームへとログインできるまで黙々とプレイを続けた。
数十分後……
「だぁああっ! くそっ、最後の最後でミスったぁ!」
ヤルダバルトが頭を抱えてひっくり返る。彼が先ほどまでせわしなく操作していた ゲーム画面には『Game Over』の文字が大きく表示されている。その画面の上に新しいダイアログが表示された。
『緊急メンテナンスが終了しました。長らくに渡ってのご協力ありがとうございます。順次再ログイン処理が始まります。いましばらくお待ち下さい』
大きくかぶりを振って再びゲーム画面を確認したヤルダバルトはすぐメッセージに気がつく。彼が立ち上がって一つ大きく伸びをすると、身体が光に包まれ再ログイン処理が始まった。
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