1-5 日常 その5

 クランハウスではカルマリオンが目の前に浮かぶコンソールを熱心に操作していた。チラリと見える画面を見るに、どうやら先程の対戦の一場面を切り抜いて宣材用のポスター画像に仕上げているらしい。彼は戻ってきた二人に気がつくとその作業の手を止め、声をかけた。


「やあ、お疲れ様。今度も中々に良さそうな機体じゃないか。ヤルダバルトはデザインセンスもいいから、僕もこういうものを作る時苦労せずに済んで助かる。しかし珍しいな、今日はクリムゾンメテオがサポートする方に回ったのか」


「ああ、そうだよ。クリムゾンメテオ、さっきの対戦はなんで柄にもなくあんな風に俺のサポートへ回ってくれたんだ?」


「嫌だったか?」


「いやいや、俺はやっててスゲー楽しかったから良かったよ。でもそう言う話じゃなくてな、あの二人はプロゲーマーであるお前との対戦を楽しみにしてたんだろ? ならやっぱり最初からお前がメインで戦った方が良かったんじゃねーか?」


「先程の教訓を教えるために……という答えでは不足かな?」


「おいおい俺だってお前のことはそれなりに見てきてるんだぜ? 少なくともお前がプロゲーマーとして振る舞ってる時はあんなことしねーで、普通に全力を出して真摯にファンサービスしてただろうに。いくらあいつらに教訓を残すためつったって普段ならあんなふうにお前のファンをアンチに変えかねないリスキーなやり方する必要はないんじゃねーか?」


「フッ、確かにそうだ。だからそうだな、私も所詮は人の子だっただけのことだ。何と言うことはない、私はお前がバカにされたことに腹が立って、その憂さ晴らしをお前に付き合ってもらっただけに過ぎんよ」


「いや俺は別にあんなの気にしちゃいないって言ったよな!? それこそチームに居る別のプロゲーマー連れてくるとかならともかく、俺みたいなどこの馬の骨ともわからねぇようなヤツが連れてこられたらあんな反応にもなるって!」


これまでコーヒーを飲みながら二人の会話に耳を傾けていたカルマリオンだったが、何か気になることがあったのか、コーヒーカップを置いて口を挟んだ。


「ちょっと待ってくれないか二人共、対戦が始まる前に一体何があったんだ?」


「いや実はだな……


クリムゾンメテオがことのあらましを説明すると、カルマリオンは納得したのか普段の爽やかな笑みを浮かべて言った。


「ああ、そういうことならクリムゾンメテオが正しいよ。実際に相手を侮って足元を掬われるというのはプロの試合でもままあることでな……そういった流れで起こるジャイアントキリングは盛り上がりこそするものの、現実問題としてその敗北したプレイヤーの査定に響くから頭の痛い問題だ。しかもこういう悪癖というものは一度強烈なイメージを残すほどの痛い目に遭わなければそう直るものでもないからなぁ。プライベートマッチでそれを済ませられるのならそれが二人のためになるさ」


「おいカルマリオンお前、強烈なイメージを残すほどの痛い目ってそれつまり、トラウマって言うんじゃねーのか?」


「はっはっは、そうとも言うな」


「そうともいうな、じゃねーよバカ! 俺はトラウマを植え付けるつもりでやっちゃいねーんだよ!」


「ああ、お前はそうだろうな。だからなヤルダバルト、あれは私のワガママに過ぎんよ。いつも私の為に機体を用意してくれるお前が彼らの度肝を抜いてくれる様を見たかったし、同時にお前ならばきっとやってくれるとも思っていた。もっとも、私も今回の機体には驚かされたのだがな」


「イーヤだからってトラウマまで植え付けるのはやりすぎだって!」


「そう言うな、私も悪かったと思うからこそ再戦の約束をつけたのだ。あの二人が今後伸びそうだと思ったことも本当だしな」


「そう思うんなら再戦だけじゃなくてもうちょい手心咥えて世話も焼いてやれって……そんでお前の言う通り伸びたんなら、ちゃんとお前んとこのチームに勧誘してやれよな。でなきゃ俺が流石に申し訳ねぇよ」


「何、二人のプレイヤーネームは今記録しておいた、抜かりはないさ。僕の目から見てもあの二人には中々見どころがあると見たよ」


「おうカルマリオン、ちゃんとやれよな。たったあれだけのことのためだけにトラウマ植え付けるとか流石にあいつらがかわいそうだからよぉ……」


ヤルダバルトが頬杖をつきながらカルマリオンをいぶかしげに見つめるが、カルマリオンはただ笑い声を上げるばかりだった。その時、通知音と共にカルマリオンが操作しているコンソールの端にメールの着信を示す赤いアイコンが表示される。カルマリオンはすぐさまそれを開き内容を確認すると、少し困ったような顔をした。


「む、これは参ったな……」


「なんだよ、どうかしたのかよ」


「いや、大したことじゃないんだ、ヤルダバルト。明日にクリムゾンメテオの雑誌取材がある予定だったのだが、急遽その話が流れてしまったらしい。おかげで僕もクリムゾンメテオも一日暇になってしまった」


「ああ、アレか。なんだ、結局流れたのか? あの記者確かアレコレと日程をコロコロ変えてお前を困らせてたじゃないか。正直私としてもあんなものの取材を受けなくて済んで少しホッとしている」


「おいおいカルマリオン、抗議とかしなくていいのかよー」


「もちろんするさ。だがヤルダバルト、それは僕の仕事じゃなくて姉上の仕事だ。だから僕達は明日もオフだ」


「それならせっかくだ。二人共、明日は別のゲームで息抜きでもしねぇか?」


「ほう、それも悪くないな。何をするつもりだ?」


「『クリファン』やろうぜ。明日のアップデートで新しいコンテンツが実装されるんだよ」


「おお、最近僕もログインできていなかったな『クリファン』。いいね、やろうか」


「私も異論はない。例の記者に振り回された分、明日は楽しませてもらうとしよう」


そうして約束をした彼らは、クリムゾンメテオの機体の調整を続けながらいつものように一日を過ごした。翌日のこと。ゲーム内での待ち合わせを昼過ぎにしていたこともあり、朝はリアルで軽くジョギングをしてから、ヤルダバルトはゲームにログインした。

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